付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

「余命3000文字」 村崎羯諦

2022-07-21 | その他ファンタジー
「大変申し上げにくいのですが、あなたの余命はあと3000文字きっかりです」

 「小説家になろう」の純文学タグで投稿されていたショートショートを中心に26編を収録したもので、元書店員の妻に言わせると「かなりのロングセラー。やっぱり出版社が本気で売ろうとすると強いよね」との感想。 小学校の朝の読書とか通勤時間の合間にとか「5分で読める」というアピールは大事ですね。関心のある読者層を見つけて届ける努力が営業です。
 恋人がいきなりサバ缶になったり、肉欲を捨てて骨だけになったりするシュールな話から、政府の役人から洗濯を依頼される洗濯屋家族の顛末まで、シュールだったりブラックだったりする作品の数々。ぼくらの学生時分は筒井康隆とか星新一あたりの短編が(自分の周りでは)人気でしたけど、星新一ほど短くもシュールではなく、筒井康隆ほど長くもなければエログロナンセンスでもなく、手頃に読める良い塩梅の短編集です。
 2022年6月19日放送のフジテレビ『世にも奇妙な物語』で、エピソードの1つが小説家になろう発の作品が原作になっていて、「メディア化の評価ポイント最小記録更新」とSNSで話題になってました。原作となったニホンオオカネモチこと「何だかんだ銀座」はブックマーク115件、評価人数44 人、評価ポイント415 pt 。これは放送の翌週の数字です。あの番組って江口寿史の『すすめ!!パイレーツ』の「史上最大の生中継の巻(ハイ・ヌーン)」とかしのらさとしの『恐怖の方程式』収録「AC100V(電気じかけの幽霊)」やら、本当にあちこちから原作・原案拾ってるから、どこからネタを引っ張ってきているかも注目です。

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「蒸気と錬金」花田一三六

2021-05-05 | その他ファンタジー
「神話は何かと云えば、人間には捉えきれない森羅万象を表現したものがほとんどです。人の意の儘にならないものに似姿を与え、伝えてきたものの末裔。それが妖精」
 アヴァロンのレディ・モリガンの神話論。

 ロンドン在住の売れないSF(空想蒸気錬金学小説)作家の「私」は食い詰めた挙げ句に、借金を頼み込んだ編集者から理法と恩寵の島アヴァロンへの取材旅行を提案される。
 旅支度を進める私は、見知らぬスミスと名乗る若紳士に紹介された<帽子屋>で、格安の蒸気錬金式幻燈機と妖精型幻燈種を購入したのだが、この妖精ポーシャが主人を主人とも思わない不良品。そして翌日には店が丸ごと消えていた……。

 錬金錬金術の実用化に成功して急発展をしている大英帝国から始まる、ひとりダチョウ倶楽部みたいなSF作家と口の悪すぎる妖精の異邦探訪録。物わかりが悪くて、方向オンチの作家が、いつの間にか国家間のスパイ劇に巻き込まれているような気がするんだけれど、決断が出来ずに引き延ばすのが常でずるずると泥沼にはまっていくお話。

【蒸気と錬金 Stealchemy Fairytale】【花田一三六】【パルプピロシ】【ハヤカワ文庫JA】【ポンコツ作家と毒舌幻燈種の蒸気錬金妖精譚】【錬金と理法が踊り舞うフェアリーテイル】
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「ジェニーの肖像」 ロバート・ネイサン

2017-02-13 | その他ファンタジー
『どこから来たのか
 だれも知らない
 どこに行くのか
 みな行くところ
 風は吹きすさび
 海はめぐる
 けれどだれも知らない』

 たぶん知っているのは神様。

 “ロリコン”という言葉のもととなったナボコフの『ロリータ』は、読んでみてもぜんぜんロリコン小説ではないのです。異常性癖の話に分類されるかもしれないけれど、つまりは普通に女に入れあげて身を持ち崩す話なので。
 一方、昔、よくロリータ特集とか雑誌で企画されると、記事では『ロリータ』と抱き合わせであるかのように『ジェニーの肖像』が必ず紹介されていた気がします。

 1938年冬。ニューヨークの貧しい青年画家イーベンは、夕暮れの公園で1人の少女に出会った。
 数日後、イーベンは少女ジェニーと再会するが、彼女はなぜか数年を経たかのように成長していた。
 それからイーベンとジェニーはたびたび会うようになり、イーベンは少しずつ成長していく少女の肖像画を描き続けるのだが…。

 時を超えた恋の物語。
 すごく泣ける美少女恋愛小説なんだけれど、最近ではちょっと「リカちゃんからの電話」の原型みたいな気がしてきて、素直に読めなくなりました。
 「もしもし、わたしジェニー。お電話ありがとう。今ね、お出かけ中なの」「もしもし、わたしジェニー。お電話ありがとう。今ね、あなたの家に向かっているのよ」「わたしジェニー。今公園の角にいるの……」
 あ、なんかリカちゃんだかメリーさんだかで泣けてきた。逆浸食だ……。
 結局、ロバート・ネイサンは持てない男だったんじゃないかという疑念がぬぐえません。自分が幸せだったら、物語もハッピーエンドにするんじゃない?

【ジェニーの肖像】【ロバート・ネイサン】【創元推理文庫】【傑作ファンタジイ】【白の女王】
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「悪役令嬢後宮物語2」 涼風

2015-10-09 | その他ファンタジー
「王とは、民のためにあるものなのだ。民の言葉に、下らぬものなど何一つない」
 先王の言葉。
 こういう言葉の1つ1つで、その話がどういうスタンスで書かれているか分かりますね。

 側室シェイラに惹かれる国王ジュークの言動は後宮の派閥争いを激化させ、それが逆にシェイラへの攻撃となった降りかかるのだが、ジュークにはまだそれが理解できない。
 後宮の混乱は、そのまま後宮の女たちの実家である貴族諸侯の対立の激化となり、最悪内乱の危機にもあるのだが、それもジュークは理解していない。
 女官長の協力も得られないまま後宮内のバランス取りに翻弄される伯爵令嬢ディアナだったが、そんなディアナに対しジュークは園遊会の責任者を押しつけるのだが……。

 あおり文句は「ラブコメディ」ではなく「ラブ!?コメディ!」。
 いろいろ物語のバランスをとる都合上、若き国王がとことん愚物に描かれます。もちろん、そうなってしまった理由も語られたりするわけですが、確かにこれではラブコメといっても、「誰と誰の?」と言わざるを得ません。

【悪役令嬢後宮物語】【涼風】【鈴ノ助】【アリアンローズ】【勘違い系ラブコメ】【貴族的翻訳術】【帝王学】【後宮小説】
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「悪役令嬢後宮物語」 涼風

2015-10-06 | その他ファンタジー
 ありのままに生きているだけなのに、クレスター家の人々は常に誰かに怨まれ、誰も彼もに怖れられる。誰よりも誇り高く、誰よりも己の本分に真摯なのに、誰よりも人相が悪いせいだ。そのため、エルグランド王国の悪を牛耳る一族とまで噂されている。
 そんな一族の娘ディアナに後宮入りの話が舞い込んだ。妃選びに関心のない国王のため、片っ端から貴族の娘たちを集めて後宮を作ろうというのだ。
 そして伯爵令嬢であるディアナには紅薔薇の間が与えられることになったのだが、本来、紅薔薇の間は正妃のためのもの。必然的にディアナを中心にした派閥が誕生し、権勢を誇って新興貴族出身の側室たちを虐めていた牡丹の間、リリアーヌ・ランドローズの一派と対立することになるのだが……。

「地位や名誉など、我々には不要のもの。それよりは、心からお慕いする主に仕え、己の本分を全うしたいのです」

 “悪役顔”な伯爵令嬢の「逆・勘違い系」コメディです。 
 何も言ってもやっても悪く取られるクレスター家ではあるけれど、その根強い偏見や思い込みを乗り越えて、なおも集まる人々の信頼は厚い……という前提の話なので、国王であるジューク陛下の未熟さというか浅はかさが目に余ります。
 あまり簡単に目からうろこが落ちてしまっても困るんですけれど、いずれにしてもディアナの幸せがどこにあるのか見えません。

【悪役令嬢後宮物語】【涼風】【鈴ノ助】【アリアンローズ】【勘違い系ラブコメ】【波瀾万丈後宮ラブコメ】【貴族的翻訳術】
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「京都多種族安全機構」 赤井紅介

2015-09-17 | その他ファンタジー
「人類という種は数え切れない生と死を繰り返しながら、200万年の歴史と知恵を受け継ぎ、ここまで発展してきた。たかだか千や万を無為に生きただけの神ごときが、ヒトをあまりなめるな」
 暁時人は老いた紳士を鼻で笑った。

 京都駅構内に突如出現した巨大な神樹によって、京都は魔界と化した。
 神樹の実から生まれる怪(アヤシ)たちは、天使であり、悪魔であり、妖怪であり、魔物であり、妖精であり、つまり太古の伝承や神話が現実となったのだ。
 京流しになった幼馴染みの婚約者を捜し求めて、封鎖されている京都市内に潜入した一条絢十は餓えてゴミ箱をあさっていたところを、鬼の血をひく赤毛の少女・日向冬乃に拾われるのだが……。

 『魔界都市新宿』とか『血界戦線』、あるいは『コップクラフト』とか『迷宮街クロニクル』とか『秋葉原ダンジョン冒険奇譚』みたいに、人外の存在があふれて異界となった街で探偵事務所のアルバイトになった少年の探偵物語。
 『魔界都市新宿』なら警察官もサイボーグ化していたり重装備が与えられているのに、こちらでは生身の警官が通常装備で普通の人間とは基礎能力が違うデミヒューマンや怪を相手に頑張っていて、京都に転属させられたのを嘆きながらもモラル崩壊しないで任務に励む警察官たちの姿に涙します。

【京都多種族安全機構】【赤井紅介】【植田亮】【EARTH STAR NOVEL】【天照大神】【地縛霊】【狐】【桜】
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「魔術探偵スラクサス」 マーティン・スコット

2015-04-15 | その他ファンタジー
 スラクサスは魔法の国トゥライで魔術探偵稼業を営んでいる。バクチ好きで呑んだくれ、でぶで大食い、借金だらけで女房には逃げられたダメ男だが、やる気になったときの腕はすごいらしい。
 そんな中年デブ探偵のもとに舞いこんだ依頼は、単純な王室スキャンダルのもみ消しに見えたが瞬く間に騒動は拡大。死体はごろごろ出てくるは、ドラゴン殺しが起きるわ、魔法の赤布が強奪されるわと大騒ぎになり……。

 魔法があってエルフがいてと完全なファンタジー世界だけれど、話の骨格は典型的なハードボイルドを踏襲してます。つまり身を持ち崩したかつての名探偵のところに怪しげな依頼人が胡散臭い依頼を持ち込んで、ひたすら欺し欺され殺し殺されの応酬。だいたいハードボイルドにおいて、依頼人が最初から探偵を欺して利用しようとするってのは『マルタの鷹』以来の伝統なんだよね。
 ただ、単にハードボイルドをハイファンタジー世界でやってみました……になっていないのは、スラクサスの相棒も務める美人剣士マクリの存在があるから。美人だけれど人間とオルクとエルフの混血なので恋愛事には不遇、普段は酒場の女給をしつつ学校に通って勉強しているけれど、いざというときには巨大な武器を振り回して乱入してきてくれる頼もしいパートナーなのです。
 非常に昨今のラノベ向きのキャラですね。

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「これがわたしの旦那さま(1)」 市尾彩佳

2015-04-14 | その他ファンタジー
「甘えるのに年齢なんて関係ありません。人は誰でも一人では生きていかれないではありませんか。助け助けられ、甘え甘えられて生きていくんです」
 ハーネット伯爵令嬢シュエラの言葉。

 相次ぐ王位継承者の死で繰り上がって王座に就いたシグルドには、当然のことながら「国王陛下には愛妾が必要」と側近たちから矢のような催促。もし、若き国王が後継者を作らぬまま不測の事態が起きようものなら、王位は野心家の一族が継承してしまうのだ。
 そんな状況で、28人目の愛妾候補として招へいされた貧乏貴族の娘シュエラだったが、国王からは冷たい視線、城の者たちもよそよそしくて……。

 この国、もうおしまいだろ?
 侍女たちの解任の件も、誤解だったとなんかきれいにまとめているけれど、これはたとえるなら「無免許・飲酒運転のひき逃げで捕まった容疑者が、ひき逃げは冤罪だと判明したけれど、無免許・飲酒運転はしていたことは間違いないだろ?」というレベルの不祥事であって、これを免責しているようでは城の秩序の維持は難しいよね。

【これがわたしの旦那さま(1)】【市尾彩佳】【YU-SA】【レジーナブックス】【ちょっぴり変わったシンデレラ・ストーリー】【はちみつレモン】
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「勘違いなさらないでっ!(1)」 上田リサ

2015-04-11 | その他ファンタジー
 社交界に浮き名を流し、若い淑女を苛めたり、恋人のいる男に手を出してみたりと、伯爵令嬢シャナリーゼ・ミラ・ジロンドは典型的な悪役令嬢。でも彼女によって嫌な男と別れることができたり、幸せなカップルが成立していたりと、実はシャナリーゼに密かに感謝している女性は少なくない。
 男なんて必要ない。結婚なんてもってのほか! ゆくゆくは爵位さえ捨てて、独り身でひっそり暮らしたい……と、自ら望んで悪女を演じて過ごしている彼女の前に、いきなり隣国の王子が立ちはだかった。「俺の嫁に来いっ! 」と。

 秋田書店系の80年代少女マンガ的なカバーイラストに手を出すのを控えていたのだけれど、「小説家になろう」の連載を読んでいたら案外と面白かったので、書籍の方も購入。このまま買い続けるかは今後の展開次第。
 話の雰囲気はまさに表紙イラストのまま。
 既にウェブ小説のひな形の1つである、悪役令嬢の逆転ものなのだけれど、本人が望んで悪役を演じているというあたりがポイント。自分は苦手なタイプのイラストも、あちこちの書評を読んでいると「絵がステキ」という声も多いので、本来の読者層にはストライクなんだろうな。

【勘違いなさらないでっ!(1)】【上田リサ】【日暮央】【アリアンローズ】【ツンデレお嬢様×腹黒王子様のケンカップル・コメディ】
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