付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

「エイリアン魔獣境」 菊地秀行

2010-07-31 | 日常の不思議・エブリデイ・マジック
 結婚したときに妻が持ってきた嫁入り道具の中には、ちゃんとソノラマ文庫の菊地秀行と夢枕獏が入っていました。吸血鬼ハンターDとかキマイラとか。もちろんエイリアン・シリーズも。あの頃は、このあたりが盤石で「面白い本」だったのです。
 このシリーズは、世界各地の遺跡に潜り込み、太古にしかけられた罠をかいくぐって秘宝を狙うというトレジャー・ハンターものなのだけれど、本当に秘境でジャングルに挑むような話は少ないのです。閑静な住宅街や裏山にこんなものが……というパターンが多いですね。

 名ピアニストだったサイラスの依頼で盗まれた手首を奪い返すことになった八頭大は、犯人のインディオを追ってアマゾンへと向かう。米軍機密部隊やブラジル陸軍が入り乱れての争奪戦は、中生代の恐竜がのし歩く幻の王国へと舞台を移す……。

 山のような宝石とオーバーテクノロジーの宝庫であるアマゾン奥地へ、トレジャーハンター・八頭大がありったけの財力と世界最新のメカニックの支援で突入するが、最後は己の肉体と精神力だけで決着をつけるという話。後々に再登場するブラジル陸軍のシュミット大尉や執事キャラの先駆けである名雲老人まで多彩なキャラが欺し欺され、殺し殺されの秘境探検を繰り広げます。

【エイリアン魔獣境】【菊地秀行】【天野喜孝】【ソノラマ文庫】【トレジャー・ハンター】【ロスト・ワールド】
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「カリブ諸島の手がかり」 T・S・ストリブリング

2010-07-31 | ミステリー・推理小説
「世の中は不公平にも、富める者と貧しき者に分かれております。富める者に造幣局があるように、貧しき者には偽金造りがいるのです」
 聖品店主アンリ・トゥールの言葉。

 ヴァン・ダインの登場以前、ストリブリングが生み出した素人探偵ポジオリ教授の探偵譚の数々は世間一般の知名度は高くなかったけれど、エラリー・クイーンや有栖川有栖などが高く支持するプロ好みの逸品なんだそうな。

 アメリカ人心理学者が夏期休暇に訪れたカリブの島々で遭遇した、亡命中の元独裁者やヴードゥー教司祭らの奇怪な事件の数々。

 船旅の序盤でたまたま難事件を解決してしまったことから、新聞記事で噂が先回りして、行く先々で名探偵の役割を押しつけられるポジオリ教授。面倒だ、困ったことに巻き込まれたと嘆きつつ、大人物扱いされるのに気をよくしたりするあたりは小市民。
 イギリス紳士がお高くとまっている島もあれば、アメリカ軍が撤退して政情不安な島もあり、ヒンドゥー教の寺院に人々が集まる島もあれば、密林の奥地にヴードゥーの要塞ありと、多様なカリブ諸島を舞台にした、皮肉とユーモアに満ちた連作ミステリー。
 わあ、こりゃあ、すごいわ。

【カリブ諸島の手がかり】【T・S・ストリブリング】【河出文庫】【ヒンドゥー教徒】【クリケット】【犬】
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「ほうかご百物語4」 峰守ひろかず

2010-07-30 | 学園小説(不思議や超科学あり)
「重く悲しいバッドエンドはフィクションの中だけで充分よ」
 妖怪マニアの経島御崎の言葉。確かにちゃんと目を開いて世の中を見ていれば悲しいことばかり。

 絵描きバカの少年と化けイタチの少女が校内の妖怪退治をする放課後不思議物語も4冊目。週刊少年ジャンプで好きな妖怪マンガは『ぬらりひょんの孫』や『地獄先生ぬ~べ~』ではなく『妖怪ハンター』です。あ、『めだかボックス』や『ブルーシティ』も好きです。妖怪マンガじゃありませんが……。
 それはともかく、なんとなく分かってきました。この話と波長が合う理由が。
 広げていけばいくらでも壮大にもドロドロにもお馬鹿にも猟奇にもコミカルにもなりそうなところを、いや、それはたいしたことではありませんよと一歩手前で軽くスルーさせてしまう肩すかし感が好きなんだ。
 
 危険な妖怪を退治しようとする美術部の邪魔をするのは剣道部主将とその妹。彼らの目的は何なのか?

 さて、過去の幾つかの事件の黒幕のそのまた黒幕らしい男女とカラスの登場です。とはいえ、なんとなく黒幕がもう何枚かありそうな感じではありますし、これで終わりでも問題ないような気もしますし……まあ、気にせず素直に愉しみましょう。

【ほうかご百物語】【峰守ひろかず】【京極しん】【バレンタインデー】【ストーカー】【お部屋訪問】【しょうけら】【袋担ぎ】【蟇】【付喪神】【蚊帳吊狸【化け猫】【髪切り】【荒鴉】】【二恨坊の火】
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「死想図書館のリヴル・ブランシェ」 折口良乃

2010-07-29 | 本屋・図書館・愛書家
 想像上の本や既に存在しないはずの本が所蔵されている死想図書館から本が逃げ出した。図書館を司る女神から、半ば強制的に回収の任務を与えられたのは、速記が得意なだけの平凡な高校生で……。という、逃げ出した魔物を回収する話。基本ラインを『ドロロンえん魔くん』以来の定番パターン(『どろろ』なんかもその範疇に入るかも)で手堅く抑え、主人公の周囲に配置されるのは“おにいちゃん大好き”な妹、隣家に住む元気な幼なじみの少女、奔放な女神、無表情なメイド……とこちらもある意味、王道のメンバーで組んできています。主人公も一方的に流されるだけの人間ではなく、それなりに性根もあって、こういう本は安心して読めます。あとは作者の文章力で勝負。
 ただ、この話は本筋とは別のところでウケてしまいました。

 主人公が不思議な夢を見る。何か警告して、使命を委ねようとしているらしいのだけれど、ノイズが入ってよく分からない。けれど目が覚めると、見覚えのない本が手元にあり、それを契機に不思議な事件に巻き込まれていく。
 なんの因果かティンダロスの猟犬に追われるはめとなり、魔道書ネクロノミコンを見つけた!と思ったら、同名の少女向けおまじない本で
……このあらすじにピンときたなら一読の価値は確実にあり。あくまでそこだけなんだし、著者は略歴だと21歳なので、確実に経験してない口なんだけどね。

【死想図書館のリヴル・ブランシェ】【折口良乃】【KeG】【本狩り】【ドリームランド】【学校の怪談】【縦笛】【メイド】【速記】
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「TAIPEIストリートフード~屋台料理を追って台北へ」 

2010-07-28 | 食・料理
 新刊書店のワゴンセールで「バーゲンブック(安売本)」として並んでいたのを購入。食をメインにした旅行記って好きだから。
 でも、旅行記のつもりで読むと、今ひとつ物足りなかったかな。屋台や街の描写がほとんどなく、9割方レシピと料理写真だから。またインターネットの書評を信じるなら料理名の間違いやリサーチ不足と思われる箇所も多いそうです。

「よく考えてみれば小麦粉料理の国、焼き菓子はおいしいに決まってます」

 「農林金融2009.08」によれば台湾の1人あたりの米消費量はピーク時の1967年には141.5kg、現在は50kgを割り込んだところ。一方、日本ではピークが1946年の118kg、そして現在は日本も50kgを割り込んだあたりで推移しているそうです(こちらは農林水産省の統計)。台湾も日本と同じくらいには米食の国、日本と同じ程度には小麦料理の国と言えないでもありません。
 そういうわけで、ウンチク的なことを期待するとがっかりですが、料理本としては手頃な材料で作れる台湾風の料理(ストリートフード)のレシピが多数掲載されているので、そこそこ使えそうです。
 著者名としてはどこにも記載が無く、料理と写真の担当しか分かりませんが、インターネットで検索していたら祐成陽子クッキングアートセミナーというところの著作リストに入っていました。誰かが責任もって仕切ったということはなかったのでしょうか。

【TAIPEIストリートフード】【屋台料理を追って台北へ】【とんかつ麺】【排骨麺】【担担麺】【担仔麺】【ビーフン】
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「恐怖の研究」 エラリイ・クイーン

2010-07-27 | ミステリー・推理小説
「やましさは、最も鋭い理知さえ曇らせるものだ」
 マイクロフト・ホームズの揶揄。

 エラリイのもとに届けられた差出人不明の草稿は、ワトスン博士による未発表原稿であり、その内容はホームズが<ジャック・ザ・リパー>を追い詰めたときの記録だった……。

 19世紀末のロンドンを恐怖に叩き込んだ殺人鬼を、ホームズとワトスンが追い詰め、そしてホームズがあえて隠した真相をエラリイ・クイーンが解決するという、80年という歳月を越えた名探偵対決! エラリイの方は原稿の締め切りに追われているけれど……。
 しかし、切り裂きジャックというのは事件としてはインパクトが大きいけれど、動機とかトリックには見るものがたいして無い気がします。だからこそ、ホームズとの対決とか、タイムトラベルや吸血鬼や宇宙人と絡めてみたりとか、ひねりを加えることが求められるのでしょう。キム・ニューマンの『ドラキュラ紀元』あたりまで行くと別格になりますけど。

【恐怖の研究】【エラリイ・クイーン】【切り裂きジャック】
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「夏の悲歌」 早見裕司

2010-07-25 | 学園小説(不思議や超科学あり)
「命があろうとなかろうと、寿命の来ないものなんて、ないんだよ。なんでもそうなんじゃないかい? 夏が終われば、秋が来て、冬が来る。いつかは終わりが来て、だから新しいものに生まれ変わるんじゃないのかねえ」
 自動車整備工場の社長の言葉。だから、そろそろ次の車を考えようよと。
 名前も出てこないような親父のセリフだけれど、この作品のテーマみたいなものですよね。

 最近、水無月中学で噂になっているのは、男子中学生の神隠しのこと。カッコイイ3年の先輩が、あるときふいに消えてしまってそれっきりになるというのだ。
 朝香紗英と石動一子は水無月中学2年で幼なじみ。大好きな里中先輩の助けになろうと、半ば無理矢理に事件の調査を始めるのだが……。

 霊感体質の少女が仲間と日常に潜む怪事件の謎に挑むという、早見裕司ならではの学園奇譚です。ホラーとかミステリーとかファンタジーではなく、あくまで奇譚という言葉がふさわしい作品です。
 ちょうど『メイド刑事』の1巻を出した直後に刊行したものですが、これと足して割ったくらいが自分の好みなのです。この作品はアクというかクセが物足りないし、『メイド刑事』の方はアクが強い気がしますし。

【夏の悲歌】【早見裕司】【森田悠新】【永遠の眠りの国】【旧家】【空襲】【ダンスパーティー】
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「古書店めぐりは夫婦で」 ローレンス&ナンシー・ゴールドストーン

2010-07-25 | 本屋・図書館・愛書家
 それまで古書店なんかに縁の無かった夫婦が、『戦争と平和』を友人に贈る誕生祝いにしようと考えたことから、古書・稀覯本の世界にのめりこんでいく物語。ボストン、シカゴ、ニューヨークへと果てなき古書収集の旅。マニア道おそるべし。

 何かに似ていると思ったら、『恐るべきさぬきうどん』でしたね。
 こんなところにこんな本屋が! こんな本屋でこんな本が売られているなんて!……という意外な出会いの連続する話で、そういう意味で『恐るべきさぬきうどん』と同じですが、残念ながらピーター・メイルの『南仏プロヴァンスの12か月』を意識したような装幀から想像できるように、おしゃれな体験記なので「笑い」はあっても「お笑い」はありません。惜しいなあ……。

【古書店めぐりは夫婦で】【ローレンス・ゴールドストーン】【ナンシー・ゴールドストーン】【古書店】【稀覯本】【バザー】
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「僕は友達が少ない(4)」 平坂読

2010-07-24 | 学園小説(不思議や超科学なし)
 残念な男女7人部活物語も4冊目で、今回は夏休み終了直後から。
 本屋の店先で手にとって、ぱらっと開いて出てきたページが「あんなに自信満々だったのに夏休みの宿題ができていない」というくだりに涙。夏休みが終わっても宿題が済んでいないというのは、当人も辛いが保護者も辛いのだ。まあ、高校生なら好きにしろ。自業自得だ。

「好きなものを好きだと言えないのなら、それは世界の方が間違っているのではないだろうか!」
 ホモゲ部部長、朝倉美佐男の言葉。

 今回は休み明けのイメチェン、休みが終わっても残っている宿題、試験の答合わせ、お泊まり会などなど。あの名前だけは出ていたシスター・ケイトもついに登場……って、暴力教会のシスター・ヨランダみたいな人が出てくるかと思ったら、やっぱり残念な人でした。期待してたのに……。
 プロローグとエピローグの部分で小鷹と夜空と星奈を中心とした物語が動き、本編ではいつもの通り「いつかリアルな友達ができたときの予行演習」という形で、ダメダメな高校生たちの不器用な姿が描かれるというフォーマットができちゃいました。次巻あたりで一波乱が起きるのかと思わせるひきですが、エピローグで100ポイントくらい話が動くのかと思わせておいて、次のプロローグで5ポイントくらいしか動かさないという形ができてますので、また、冒頭で軽くなし崩しにスルーされてしまい、表面的にはゆるゆるとした三角関係が続くような気がします。

【僕は友達が少ない】【平坂読】【ブリキ】【王様ゲーム】【夏休みの宿題】【BL】【デレ期】【間違った臥薪嘗胆】【ラジオ体操第二】
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「パリのレストラン」 ローラン・ベネギ

2010-07-23 | 食・料理
 パリの街角の小さなレストランが店じまい。30年の歴史に終止符を打つ最後の晩餐に招待されたのは、オーナー・シェフ夫妻の息子や友人たち。けれども、夫妻には誰にも語らない秘密があった……。
 回想を交えつつも繰り広げられるのは一晩の宴席だけ。そこで繰り広げられる恋や友情、店にこめた老シェフの思いがかいま見える一夜の人間模様。
 親につけられた名前がトラウマになってしまった者もいるし、過去の思い出に囚われる者もいるし、愛憎の狭間で途方に暮れる者もいる。けれど、今宵が、このレストラン最後の晩餐。

『貼紙禁止』
 モフセンが書けるフランス語はこれだけだ。しかし、この言葉こそがフランスだ。誰でも自分専用の場所があり、それをちゃんと守らなくてはいけない。それが民主主義であり、大勢の人間がそれを守るために血を流したのだ。

【パリのレストラン】【ローラン・ベネギ】【貼紙禁止】【中絶】【徴兵忌避】
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「ほうかご百物語3」 峰守ひろかず

2010-07-22 | 学園小説(不思議や超科学あり)
「勝てんと知って土俵に上がる馬鹿がどこにいる」
 地の利を押さえさえすればたいてい何とかなると、慈吾朗老人の言葉。

 軽いのです。俗にライトノベルといわれるレーベルですが、本当にさくさくっと一気に読めて、すぐに続きが読みたくなってしまうという不思議。ある意味、理想型かも知れません。
 今回は依頼を受けて、学校を離れて雪山の温泉地へ妖怪退治の旅です。生徒会の面々や吹奏楽部の滝沢さんもすっかり馴染んで“御一行様”になっています。温泉地ということできちんとお約束も押さえて見事見事。九尾の狐さんも大暴れ。あいかわらず民俗学的伝承にはこだわりながら、それをひねって着地させる妖怪たちの姿が良いですね。
 他には、木の葉天狗の挑戦状とか、妖怪を狙う謎のグループの暗躍とか。
 あ、今回は泣きじゃくる滝沢さんもツボでした。

【ほうかご百物語】【峰守ひろかず】【京極しん】【伝統芸能】【雪の別館】【露天風呂】【雪女】【火取魔】【木の葉天狗】【天邪鬼】【白澤】【迷い家】【白澤図】
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「白夢(スノーミスト)4」 瀬尾つかさ

2010-07-21 | 日常の不思議・エブリデイ・マジック
「だいたい世の中のたいていのことは、矛盾したものごとをいくつも抱えているんだよ」
 何かを心の底から理解しようと思うなら一面からだけしか見ていてはいけないと、酔っぱらいのダメ中年男の柴田孝司さん。

 東京が突如発生した霧によって外界と遮断されてしまう。
 連絡が途絶えた雪姫を救出すべく、深森榮一は、かすみ、神楽と共に霧の東京へと向かうのだが……。

 霧使い最後の戦いの舞台は東京。東京ジュピターというより首都消失といった感じの最終章です。
 キャラクターが絞られて過不足なく描写され、ストーリーもきちんと語られているのですけれど、高校生の長男にいわせると「なんか端折っている気がする」んだとか。確かに3巻の段階では全4巻と決まっていたようですが、2巻のあとがきでは2巻と3巻は神楽の話でそれからが雪姫の物語ということでしたから、何巻かは短くなったのかも知れません。もしそうなら残念。彼女はたぶん3冊分くらいの冒険はしてますからね。

【白夢】【スノーミスト】【雲壁の彼方へ】【瀬尾つかさ】【るろお】【共生】【ナス料理】
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「トッカン」 高殿円

2010-07-20 | その他フィクション
 『銃姫』の高殿円が早川書房から一般向けエンタメ小説として出した税務署小説。いつの間にか、こっちの方面でもお仕事始めていたんですね。

「生きるということは、欲との戦いだ」

 最初に特別国税徴収官という文字を見て、アチャ~と思いました。
 税務署なんて、もともと嫌われることの多い仕事です。アジモフの『黒後家蜘蛛の会』でも毛嫌いされてます。
 その中でも徴収担当というのは、払いたくてもお金が無くて払えない人や、払いたくないから税金を払わない人たちから税金を取り立てるのが仕事。いろいろキツイ仕事で、最後の大橋夫妻のようなケースに直面した職員の中には、心が折れてしまって再訓練が必要なこともあると聞いたことがあります。
 そういう職場をどんな風に描いたんだろうと読み始めましたが、それをちゃんと主人公の成長と絡めた職場モノに仕上げていました。テーマ的には警察官でも医者でも良かったわけですが、そこを税務署員ならではの物語にしています。
 「税金ってなに?」と考える意味でも一読の価値はあります。税金は国の根幹。『黒後家蜘蛛の会』でも登場人物たちからよってたかって嫌われて、その上で「国家が成立する上で絶対不可欠の存在」だと言わせています。他のものは無くてもなんとか国は機能するけれど、税金とそれを取り立てる人間がいなくては国は存在できないのです。

「お金になんか殺されないでください。お金はただのお金です」
 きれいごとと思いつつ、言わずにはいられない言葉。

 1つだけミスを指摘するなら、「税を知る週間」は2004年に「税を考える週間」に改称されています。もう税金についてはみんな知っているはずだから、これからは考えていこうということだそうです。

【トッカン】【特別国税徴収官】【高殿円】【国税局】【プチ整形】
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「ずっと、スタンド・バイ・ミー(上)」 賀東招二

2010-07-19 | 学園小説(不思議や超科学あり)
 学園ミリタリーアクションの代表作も、ついに、やっと、今度こそ、本当に、完結編です。上巻だけど。来月には下巻が出るのかな。帯のあおり文句が「学園ミリタリーアクション」で、表紙裏のあらすじだと「SFアクション」になっています。どちらも間違っていませんが、「学園SFミリタリーアクション」だと間違いです。
 最終刊の前編なので、内容紹介とか感想は保留。最後の決戦前に「これからが俺達の戦いだ」というところで続きます。 8月に続刊出てからまとめ読みすれば良かった……。

【フルメタル・パニック! 11】【ずっと、スタンド・バイ・ミー】【賀東招二】【四季童子】【時間災害】【全面核戦争】
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「隠し部屋を査察して」 エリック・マコーマック

2010-07-19 | 日常の不思議・エブリデイ・マジック
「五感におよぼす想像力の支配は、人間の幸福への唯一の鍵である」
 イレネウス・フラッドの言葉。

 世界を切り裂きながら進んでいく溝の怪現象の顛末「刈り跡」や、遭難者すら出る庭園列車を探検する旅行者について周囲が語る「庭園列車 第1部:イレネウス・フラッド」、タイトルそのままに全体主義国家の査察官の運命を描いた表題作など幻想譚20作品を集めた短編集。

 シチュエーションとか設定には惹かれるところはあるし、実在の宗教家や革命家をこんな風に題材にしちゃっていいのかと思ったりもしますが、やはり幻想譚は苦手です。「それで?」とか「結局……なに?」みたいな感想になっちゃうんですよね。

【隠し部屋を査察して】【エリック・マコーマック】【パタゴニア】【労働災害】【ジョン・ノックス】【一人二役】【奇祭】【鉄道模型】【トロツキー】
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