付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

「捕鯨船団 女ドクター南氷洋を行く」 田村京子

2008-03-31 | 冒険小説・旅行記・秘境探検
 麻酔科の女医が北洋漁船団に参加した『北洋船団 女ドクター航海記』の続編。
 北洋からの帰還後に「北洋は凄いけれど、南氷洋はもっと凄いぜ」とか「北を見たなら南も見なくちゃ」とかなんとかあおられて、ついその気になって、あれよあれよという間に捕鯨船団に乗り組むことになります。
 荒れ狂う南氷洋で(快晴の凪の日は2日しかなかったらしい)、昼夜を問わず働き続ける男たちの健康守って7ヶ月。なにかあっても最寄りの島の病院まで緊急輸送などということはできない捕鯨船団。歯痛もあれば手首切断や末期ガンありと、医者は1人なのに押し寄せる患者は外科内科精神科に歯科と何でもありの大忙し。それでもドクターは、どんな環境でも、どんな相手でも、物怖じせずに積極的に仲間に加わっていくポジティブさと、医療に携わる者としての責任感で乗り越えていきます。
 しかし入院患者第1号はドクター自身。自己診断は急性虫垂炎! 最悪、自分で開腹してドレーンをたてることまで覚悟しますが……。

 この話、『女ドクター航海記』を読んで以来、読みたかったのですが、90年刊行の本なので在庫無し。アマゾンで中古でそろえようと思ったら、1円商品が何点もあると思ったのにクリックした途端に売り切れで、残っているのは1冊3500円のボッタクリ商店ばかり。いい加減にしろよーっ!
 さすがにそこまで出して読みたい本ではなかったので放置していたのだけれど、たまたま立ち寄ったブックオフの105円コーナーで発見。これが相場ってもんでしょ。

【捕鯨船団 女ドクター南氷洋を行く】【田村京子】【集英社文庫】【捕鯨】【赤道祭】【肩ふり】【注射器が足りない】【オーロラ】
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「遅れて来た魔法使い~小娘オーバードライブ3」 笹本祐一

2008-03-30 | その他SF(スコシフシギとかも)
「社会規模で魔法を使うと、だいたいろくでもないことになる」

「何でもひとつ、あなたの願い事を叶えたい」
 厳重な警戒設備に守られているはずの小石川研究所に忽然と出現した青年は、のぼるの曾々祖父に会いに来たのだという。そして曾々祖父・小石川道羅エ門の所在が不明というのなら、代わりにいちばん近い身内であるのぼるの願いを叶えようというのだが、のぼるにも自分に代わって他人にしてもらいたい望みはなかった。そこで……。

 『遅れて来た魔法使い』は超科学で町内と日本の平和を守る小石川研究所の事件簿のソノラマノベルズ第3弾。
 小娘オーバードライブとあるように、強化スーツで活躍する美少女がタイトルなのだけれど、まあ、中身はマッドサイエンティストもののシリーズです。今回もタイトルは「魔法使い」で、確かにメインのゲストキャラは魔法使いさんですが、後半は暴走した地龍を捕獲すべく地中深く地下水脈を突貫していく「海底軍艦」が主人公。
 尖端のドリルをぐりゅんぐりゅんと回転させつつ、地の底、水の底へ突貫していく潜行艇の設定や描写にかなりの紙幅が費やされています。ちなみに空の方は……。

【遅れて来た魔法使い】【小娘オーバードライブ3】【笹本祐一】【むっちりむうにい】【ソノラマノベルス】【魔法使い】【地脈】【海底軍艦】
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「リフトウォー・サーガ」 レイモンド・E・フィースト

2008-03-29 | ヒロイックファンタジー・ハイファンタジー
 フィーストのリフトウォーについては、そのうち個々の作品について書きたいけれど、まずは総括。
 年代記的な雰囲気があって、毎回主人公が違っているのだけれど、たしか、もとはTRPGのシナリオとかいってなかったっけか? ここらあたりからRPGテイストの強い小説が翻訳されたり執筆されるようになったのだけれど、訳者がゲームに馴染みがない/あるいは読者がゲームに馴染んでないと編集が判断したりすると変に説明的な訳になるので興が削がれるよね。
 この作品だと、山岳地帯に住む背が低い屈強な種族を「小人族」と訳しているけれど、ここは「ドワーフ族」にしてもらいたいなあ……と長年思っていて、最近新装復刊したんで期待してチェックしてみたら、訳文は変わってませんでした……。

 人間の帝国があって、その辺境には妖精族の郷があり、また山岳地帯には小人族も住んでいる。龍は魔法を使えるし力も強いが、数は少なくなり、どこか人知れぬ地にひっそり棲んでいるという。そんな帝国の辺境地帯に出現した謎の兵士は異次元からの侵略者だった……というのが第1作「魔術師の帝国」の話。
 異次元の侵略者といっても、同じ人間で、ただ個人の命より一族の名誉を重んじ、薄い木を貼り合わせて樹脂で強化した固くて軽い防具を身につけており、皇帝は存在するけれど実際はその周囲の有力貴族の一族間の政治的駆け引きで政が進むという……にっぽん、ちゃちゃちゃ☆な世界。
 これが本編3部作に外伝が2本。ところがこの外伝の1つである「王国を継ぐ者」だけ、いきなりハードカバーで刊行されちゃったりしたので泣いたぞ。いきなり高くなるし、本棚にはシリーズが並ばなくなるし。結局、文庫化されたときに買い直すという、まんまとハヤカワ商法にやられたシリーズ(んでもって、復刊でまたイラストがついて構成まで変わるという……)。

 ところで、最後の方のエピソードにお手玉の話が出てくる。
 お手玉2つは案外簡単にできる。4つは難しいけど、できないことはなさそうだ。10個となると名人芸だけれど、誰にも出来ない不思議な技とは思わない。魔法だってそれと同じ。誰にでもできるわけじゃないけれど、できるからって、特別に他の人より優れてるってことじゃない。
 そんな話が記憶に残る作品。とりあえず読むなら「魔術師の帝国」。続きが気になったら「シルバーソーン」「セサノンの暗黒」を一気読みする。これはスターウォーズのエピソード4.5.6と同じ関係。

【リフトウォー】【RPG】
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「プリンセスはお年頃!(1)」 榊一郎

2008-03-28 | ヒロイックファンタジー・ハイファンタジー
「通りすがりの、何の変哲もない、平凡な14歳の村娘です」
 突然に街道を行くナナ姫一行の前に茂みから出現し、無表情でうつろな目のまま棒読み口調で自己紹介するネリアの言葉。怖い。

 アビアス王国の第一位王位継承者であるナナ・アン・アビアス姫は異性関係にはいささか行き過ぎた潔癖性の傾向があるものの、明るく活発で国民に愛されている姫君だ。
 しかし姫には幾つか秘密があった。
 1つは国王の本当の娘ではないこと。しかしこれはまあ、肌の色が違うし、目の色が違うし、耳もとがっているし、シッポもあるし……で、これは「個性」と言い張るにはちと苦しい。
 もう1つは、そんな人間ではない彼女の正体は、たぶん今まで存在すら疑われていた淫魔サキュバスではないかというのだ。淫魔なら、成人する前につがいの相手をみつけないと命に関わるかも知れないと、娘を愛する国王バルテリクは命じた。
「おまえ、ちょっと処女喪失してこいや」

 かくしてナナ姫は、警護の近衛兵士エキノとお付きの侍女コリンの3人連れで婿捜しの旅に出るのだった。国民の大歓声に見送られて……。

 お下品ですね。それに肌がやや褐色といいつつ挿絵にトーンは張ってないし、背表紙のあらすじでは国名がヌビアス王国とかいきなり間違われているし。
 でも面白いわ。
 テンポが良いし、いろいろ出てくるキャラも何気なく順を追って増えているので覚えやすいし、凛々しいようでくだらなく、いい加減なようで二手先三手先を考えているし、たおやかと思わせてたくましいし、脅威と見えてバカだし。
 そしてまたアビアス王家ってのも、『未来放浪ガルディーン』のフレイヤー王家を思わせるスチャラカぶりと、その裏面での策士ぶりのバランスとがなかなかに良い感じ。王は国家第一の芸人である!って感じ……というか、そのままの国です。
 緩急を巧みにつけて、バカ騒ぎを単なるイヤミな空騒ぎにしないところがさすがですね。続きが楽しみです。

【プリンセスはお年頃!】【榊一郎】【深山和香】【HJ文庫】【淫魔】【教会】【暗殺者】
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「イローナと四人の父親」 A.J.クィネル

2008-03-27 | ミステリー・推理小説
 2005年7月に死去したイギリス(ローデシア生まれ)の冒険小説家、A.J.クィネルの1作。

 1971年ウィーン近郊。
 突如押し入ってきた3人組によって1人の老人が殺害され、14歳の少女イローナ・マレイターが誘拐された。一足違いで駆けつけたイローナの父親たちは彼女を助けるべく、直ちに行動を開始する。
 イローナには4人の父親がいた。その中で本当の父親が誰かは解らなかったけれど、4人とも命を賭けて娘を取り戻そうとするくらいには愛していたのだ。そして イローナの4人の父親の職業は、CIA、スペッツナズ、BND、MI6。世界各国の秘密工作員であり特殊部隊だったのだ。

 国際謀略を扱ったスパイアクション小説は他に幾らでもあるけれど、それを「誘拐された娘を奪回しようとする4人の父親」という形にしたのは他にはないと思います。原題の『THE SHADOW (影の存在)』そのままのタイトルにしないで、『イローナと四人の父親』という邦題にしたのは成功だと思う。願うなら表紙のイローナはもっと可愛い方が良い。ライトノベルじゃないんだけれどさ。やっぱ大事でしょう。
 スパイアクションの王道を行く、裏切りと嘘と真実の物語。命を賭けて娘を救った父親たちの物語でした。もちろんクィネルなので萌えアクションではなく、非情なハードボイルド。男がいかに生き、命を賭けて戦い、死んでいくかという話です。

【ブダペスト】【二重スパイ】【父親】【嘘をつく理由】
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「グリーンビーチ」 ジェイムス・リーソー

2008-03-26 | 戦記・戦史・軍事
「ジャックだ! わたしが殺さなきゃならなかった男がいる!」

 1942年8月、フランス沿岸のディエップ(暗号名グリーンビーチ)に南サスカチェワン連隊を中心としたで6000名のカナダ・イギリス連合の奇襲部隊が上陸し、ドイツ軍と交戦状態に入った。
 その中に1人の技術者ジャック・ニッセンサールが混じっていた。彼の目的はただ1つ、近い将来の反攻上陸に備えてドイツ軍のレーダー基地の機能を確認すること。それこそ、この奇襲の真の目的だった。
 ニッセンサールに同行するのは10名の護衛兵。だが、レーダー技術者であるニッセンサールをドイツ軍に渡すことはできない。敵の手に落ちそうな時は彼を射殺すべしとの厳命を受けていたのだ……。

 ちょっとマイナーなディエップ奇襲作戦の物語だけれど、参加したカナダ人部隊の損耗率65%、5人に1人が戦死という酷い戦い。一見して、ただの負け戦。
 ただ、この作戦があったからドイツ軍のレーダー網の能力を把握できたわけだし、ここで上陸用舟艇や水陸両用車の欠陥が露見したり港湾確保の困難が実証され、2年後の上陸作戦へとつながることになります。何事もやってみないと解らないのです。
 やってみないとわからんといえば、ここで港の占領はたいへんだとわかって、移動式の港を作って持っていこうぜ!のノリで開発されたのがコンクリート製の人工港マルベリー。
 でも、それも1基は嵐で沈んだとか、苦労して作って運んだマルベリーより、古い船を沈めて港代わりにしたグーズベリーの方が使い勝手が良かったらしいとか、これまた使ってみなければわからない話があれこれ。まあ、マルベリーがどれだけ使い物になったのか、読む資料ごとに評価が違うんでよくわかりません。どれが正解か教えて欲しいです。

【グリーン・ビーチ】【ディエップ奇襲作戦】【ジェイムス・リーソー】【ジュビリー作戦】【RAF】【強襲】
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「扉の外」 土橋真二郎

2008-03-25 | 学園小説(不思議や超科学なし)
 北海道の修学旅行へ出かけたはずの高校生たちが目覚めたとき、そこは密室だった。そして彼らの前に現れた人工知能を名乗るソフィアは、ここは宇宙であり、彼らはノアの箱船に中にいるのだと告げた。
 ソフィアが彼らの前に提示したのはゲーム。娯楽であり、嗜好品を獲得するためのゲーム。勝てば嗜好品やゲームの使用権などの贅沢品が手に入り、負け続ければ水と最低限のゼリー状の栄養源だけしか供給されなくなる。だがそのうち、彼らは対戦相手が別のクラスの生徒たちでは無いかと疑い始める。
 ソフィアに従い、彼女のルールに従ってゲームをするか、それとも一切の庇護を拒否して宇宙空間しかないという扉の外へ出て行くのか……。


 とりあえず、全3巻を一気読み。事前に先に読了していた長男に「1巻読んで面白かったら、3巻の最後だけ読めばいいよ。他は“シナリオが分岐して別のゲームに入っています”程度の違いだから」と聞いていたけど、なるほど。的確なアドバイスありがとう。
 クラスで協力し、他のクラスとも協調すれば、それなりになんとかゲームをうまく切り抜けられるのに、抜け駆けしたり、自分の事情を優先したりと、結局、クラス同士は疑心暗鬼のループから抜け出せず、クラスは内部から崩壊し、最後に何人かだけが追われるように扉の外へ向かう話。
 失敗した「囚人のジレンマ」の話だね。それがクラスを変え、ゲームを変え、共通する登場人物を交えながら再話されることになります。
 でも、このオチだと、どうして教師が乗っていないかの説明にはならないよね。細かいことは気にせず、閉鎖空間でのどろどろした人間関係が崩壊していく中で、何か少しでも救いを見つけられる人向け。

【囚人のジレンマ】【ノアの箱船】【バーチャルゲーム】【テロ】
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「おせっかいなゴッドマザー~(株)魔法製作所」 シャンナ・スウェンドソン

2008-03-24 | 日常の不思議・エブリデイ・マジック
 魔法使いや妖精は、本当は実在していて、今も人間たちと一緒に生活してるんだよ。ただ目くらましで気づかないようにしているだけ。でも、希にはその目くらましが効かない体質の人間がいて、田舎からニューヨークへ出てきたケイティはその貴重な1人だったことから株式会社MSI、魔法製作所にヘッドハンティングされることになったのだが……という(株)魔法製作所シリーズの第三弾。

 あのスパイ騒ぎの翌日。捕まえたはずのスパイがいつの間にか脱走していて大騒ぎ。ケイティはせっかくの初デートをいきなりふいにしてしまう。そんな彼女の前に現れたのは、フェアリーゴッドマザー。昔ながらの日本語で言えば「仙女様」なんだろうけれど、なんとなく野暮ったくて信用ならない。もう両思いだから必要ないとお引き取り願っているのにいうのに、なんとしても素適な王子さまと結びつけてくれようとあれこれ画策し始めてしまう。
 一方その頃、魔法の悪用を企むイドリス一派は新たなスポンサーを獲得し、大攻勢に打って出ようとしていた……。

 2巻直後から始まるクリスマス・シーズンの物語。地下鉄構内で怪物に遭遇とか、友人を巻き込んでの誘拐騒ぎとか今回もいろいろ事件はありますが、最大のイベントは「彼氏の実家にお呼ばれし、厳格と評判高い御両親に挨拶する」というものですね。これが最大のスリルです。
 とはいえ、急転直下の結末。三部作映画の2本目みたいに伏線張るだけ張って続いてしまうので、続きが気になり困ってしまいます。

【おせっかいなゴッドマザー】【(株)魔法製作所】【シャンナ・スウェンドソン】【ドラゴン】【暴走車】【MSとIBM】【シンデレラ】【二重人格】
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「宇宙への序曲」 アーサー・C・クラーク

2008-03-23 | 宇宙・スペースオペラ
「長い目で見れば、知識は必ず現金の形で戻ってきます。しかし、それでもやはり、金にはまったく換えられないものです」
 ハイパーダイナミックスの専門家レイ・コリンズの言葉。

 1978年、人類初の月ロケット打ち上げを記録に残すため、シカゴ大学からロンドンへ派遣された歴史学者ダーク・アレクスンが見た、慌ただしい発射前の日々の記録。アレクスンはやがてオーストラリアの砂漠の中に建設されたルナシティへと飛び、いままさに打ちあげられようとしているプロメテウス号を目の当たりにする……。

 アーサー・C・クラークの処女長編というのだけれど、技術者たちの物語を歴史家が物語るだけ……という、なんというか極めてクラークらしい一篇。しかも「ロケット打ち上げの話」と言いつつ、月ロケットを開発することになった経緯をスパーンっと飛ばしたところから始め、宇宙機が離陸したところで終わるという大胆な構成。
 当然、見せ場となるべき山場も何もなく、『プロジェクトX』にあるような突然の危機や障害も無し。そりゃそうだ。発生が想定できるあらゆる問題に対して対策を施して進行するのが本来のプロジェクトなのだから、これこそ由緒正しい『プロジェクトX』に違いない。
 それでも面白く読ませてしまうのが筆の冴えだし、1947年の執筆なのに今読んでも違和感がない仕上がりなのは技術的な未来予測に長けたクラークならでは。なんというか、新聞や雑誌で巨大プロジェクトの特集記事を読んでわくわくする感じですね。

【原子力ラムジェット】【心臓治療】【宇宙開発史】
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「地球光」 アーサー・C・クラーク

2008-03-22 | 宇宙・スペースオペラ
「人間、なににも驚かなくなったらおしまいだ」
 分光学課課長ロバート・モールトン博士の言葉。

 人類が宇宙に進出してから200年。火星と金星、それに大惑星の衛星などによって構成された惑星連合と、地球と月からなる地球政府は対立状態にあった。地球は活力のある若者や知識人が宇宙に流れ出すのを止められなかったし、宇宙に出て行った人々はいまだ地球以上に重金属を持つ世界を見つけられなかった。
 それらは些細な問題に過ぎなかったが、その積み重ねが一触即発の危機にまでふくれあがっていたのだ。
 バートラム・サドラーが会計監査院から月の天文台に派遣されてきた日、ラジオのニュースは惑星資源会議が決裂したことを報じていた。しかしその一方で、月が過去信じられていたような不毛の世界ではなく、豊富な地下資源が存在している可能性が高いことを示す論文が発表されてしまったのだ。
 いまや月は資源戦争の火種であり、サドラーこそスパイをみつけるために中央情報庁から派遣されてきた秘密情報部員だったのだ……。

 いかにもクラークらしく、戦争の危機に疑惑の渦中にある天文基地に潜入したスパイの話……といっても、ひたすらに淡々と話が進みます。クラークが戦闘シーンを執筆したのは、この作品のただ1シーンだけだそうですが、その唯一の戦闘場面でさえ、決してリアルな血湧き肉躍るものにはなりません。そこが持ち味ではあるし、自分は好きだけれど、宇宙植民者と地球の対立!といったテーマから期待して読むとがっかりするかもしれません。なんといっても、タイトルの「地球光」の通りの話。どちらかというと「月光」といわれて連想するような話ですね。

【宇宙植民者】【地下資源】【モノレール】【超新星】
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「天の向こう側」 アーサー・C・クラーク

2008-03-21 | 宇宙・スペースオペラ
 とりあえず今週はアーサー・C・クラーク追悼と勝手に決めて、クラーク作品に絞って紹介してみよう……ということで、まとめて再読で6冊ほど一気読み。そのまま倒れるように寝てしまったら、銀色の流線型ロケットが群舞する夢まで見てしまいました。もっとも、そのロケットはバンデル星人の円盤に襲われていたのだけれど……。

 コンピュータを使って神の名を書き出そうとするラマ僧たちの「90億の神の御名」、米英ソによる月開発史「月に賭ける」、遙か宇宙の彼方で見つけた失われた文明の痕跡「星」、時間が制止した街での美術品泥棒の顛末「この世のすべての時間」など、人類の宇宙開発黎明期から遙かな未来まで、(宇宙に本格的な進出を始めた時期のさまざまなエピソードを中心とした)14作品からなるアーサー・C・クラークの中短編集。


 14とはいいつつも、『月に賭ける』と『天の向こう側』はそれぞれ6つのエピソードから構成されているので、本数としてはもっと多いことになるかな。とにかくバラエティ豊富な作品集ではあります。中でも『90億の神の御名』はクラークのもとへダライ・ラマから感想が届いたという曰く付きの逸品。
 しかし、『居住期間の問題/月に賭ける』はオチがわかりにくいかも。でも、これは今の日本でもちょくちょく発生して裁判沙汰になっていますから未来永劫普遍のテーマなのかもしれません。

【シャーウッドの森】【最初の接触】【サンダイバー】【内国税局】【殺人事件】
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「白鹿亭綺譚」 アーサー・C・クラーク

2008-03-20 | その他SF(スコシフシギとかも)
「次の世代がわれわれに何をしてくれたっていうんだ?」
 実業界で成功を収めた科学者、スコット・マッケンジー教授の言葉。

 テームズ川近くのパブ<白鹿亭>には、水曜の夜ともなると集まってきた男たちが信じられない話を語り合うのが常だった。そんな中でも特筆すべきはハリー・パーヴィスだった。
 彼は<白鹿亭>きっての話し上手であると同時に科学的知識も豊富で、毎週のように奇妙奇天烈な物語を語って聞かせるのだ。
 映画撮影の過程で起こった軍拡競争が行き着いた先は? 太平洋の環礁で日本人科学者が静かに続ける実験とは? キーウェストで潜水艦に施された装置とは? そしてハリーの話は果たしてどこまで真実なのか?
 冷戦と軍拡競争を背景にしたクラークによる15本の連作短編集。

 こういう一つ所に人が集まり、荒唐無稽な話を語り合っては最後にステキなオチがつくという話は好きなんです。アシモフの『黒後家蜘蛛の会』とか。まあ、この話は科学技術、特に新兵器開発に偏ってはいますし、語るのも謎を解くのもハリー・パーヴィス氏なんですけれど、それはそれで味ではあります。というか、よくこれだけ思いついたなという気はします。

【空飛ぶ円盤】【夜話】【シロアリ】【反重力】【コンピュータの叛乱】
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「明日にとどく」 アーサー・C・クラーク

2008-03-19 | 宇宙・スペースオペラ
「われわれのほうが、数のうえでは優勢ではあるが、それもけっきょく、10億対1くらいの差しかないんだからな」
 船団を見つけたアルヴェロン船長の言葉。

 あと7時間で太陽がノヴァ化する星系に知的生命体がいることを知った銀河系巡視宇宙船が第三惑星に到着するが、その都市はいずこも無人だった。つい最近まで人が棲息していた形跡はあるが、彼らはいったいどこへ隠れているのか……。「太陽系最後の日」。
 寄生生物の群の旅路の果てを描いた「憑かれたもの」。
 宇宙港へ向かう男がトラクターの故障から闇の中を徒歩で移動したために出会った恐怖、「闇を行く」。
 地球を訪問した異星人との「最初の接触」の真実を告げる「親善大使」。
 その他1940年代後半から1950年代前半に執筆された、アーサー・C・クラークによる12の短編を収録した作品集。

 人類の持つパワーを高らかに歌い上げた賛歌もあれば、人類もその文明も消し炭のように吹き飛ぶ話もあり。書かれた時代を思うと、今読んでもそんなに古びていないところが意外なくらいです。まあ、さすがに記憶媒体がパンチカードは古すぎると思うけれど、こればかりはいくらクラークといえども仕方がない。

【レミング】【最初の接触】【地底人】【宇宙探検】
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「海底牧場」 アーサー・C・クラーク

2008-03-19 | 怪獣小説・怪獣映画
 2008年3月19日スリランカのコロンボにて、アシモフ・ハインラインと並びSF御三家と称された最後の1人、アーサー・C・クラーク没。享年90歳。

 世界連邦が成立した21世紀の地球では、牧鯨局の海底牧場が人類の食糧需要量の1割以上を供給するようになっていた。
 事故によって宇宙飛行士をリタイアすることになったウォルター・フランクリンは、新人監視員として牧鯨局へと配属されるが……。

 ウォルターとその先輩監視員ドン・バーリーを中心にした連作中編形式の海洋SF。ぼくにとってのクラークは、『幼年期の終わり』でもなければ『2001年宇宙の旅』でも『宇宙のランデヴー』でもなく、この『海底牧場』。海底牧場の情景、遭難、深海に潜む何か、そして動物愛護グループとの接触。現在の延長線上の未来に、現実では見ることのできない光景をぶちこむことのできるクラークが好きなんですね。だから『楽園の泉』も好きかな。

【海底牧場】【アーサー・C・クラーク】【ハヤカワ文庫SF】【イルカ】【宇宙飛行士】【クラーケン】【ファースト・コンタクト】
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「インド夜想曲」 アントニオ・タブッキ

2008-03-19 | その他フィクション
「《実質的には》という言葉は実質的にはなんの意味もないのではないでしょうか」
 この不思議な副詞に関してかわした主人公と死にに行く男との会話より。

 シャヴィエル・ジャナタ・ピント。
 それが主人公の探し求めている男の名前だ。たぶん。
 1年前に行方不明になった友人を捜し求めて、主人公は蒸し暑いインドの街を旅していく。ボンペイで少女売春婦に会い、ゴキブリを踏みつぶしながら病院を歩き、マドラスでは神智学協会を訪問する。やがてマドラス=マンガロール街道を経由してゴアに入るのだが、それは友人を捜す旅であり、仕事の旅であり、もしかしたらもう1人の自分を求める旅かも知れない。実質的には。

 冒頭の作者の宣言通りにして大いなる肩すかし小説☆ うん。負けた。わかっていたけど、足下をすくわれちまったぜ……。
 弟に背負われた醜い占い師の青年、復讐を企む女詐欺師、「13歳から15歳までは300ルピー、それより上は55ルピー」と商売を持ちかける女、電話帳を抱えて海を渡ったフィラデルフィアの郵便配達夫……。さまざまな人物が主人公の前に現れ、そして走馬燈のように消えていきます。

【ナイチンゲール】【薔薇十字】【ネズミの死骸】【インド夜想曲】【ガイドブック】
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