今年の初夢は、あちこちのレーベルが次々に廃刊になり、ウェブの方でも連載中断が激増する……というものでしたが、確かにカドカワの進出で関連レーベルが統廃合されちゃいましたね。そして統廃合がらみでウェブ版では連載中でも切られたのが『遅咲き冒険者』、『男なら一国一城の主を目指さなきゃね』。それ以外だと『カボチャ頭のランタン』、『やり直してもサッカー小僧』、『異世界から帰ったら江戸なのである』と、真っ当に面白くて、ウェブでは先に続いているものが続々とスッパリと。
そういう意味でイヤな年でした……。
『男なら一国一城の主を目指さなきゃね』 三度傘
ウェブ発の異世界転生もの。田舎領主の末っ子として転生した元サラリーマンが、両親や兄姉を助けて領地開発を手がけながら、どうせファンタジーな異世界に転生したのなら一国一城の主を目指さなきゃと、同じく転生した元日本人を探しながら成長していく、立身出世な冒険譚。
中世風な異世界は転生者でも厳しくて、奴隷階級に転生した者もいれば、チートな能力を発揮できるほど成長するまでに餓えたり魔物に襲われたりして死んでいく者も少なくないというシビアさも特色の1つ。
『本好きの下克上』 香月美夜
ウェブ発の異世界転生もの。司書をめざしていたビブリオマニアな女子大生が、本に埋もれて死んだ果てに異世界で貧しい庶民階級の兵士の娘として転生。本が読みたくてたまらないのに、本どころか紙も文字も日常では目にすることすらできず、「本がなければ本を作れば良いのよ」と奮闘する話。
目的がはっきりしていて前向きなヒロインが、女だから庶民だから病弱だから端から無理だと周囲が諭す声にも耳を貸さず、失敗を繰り返しながらも一歩ずつ目標を実現に向けて歩んでいく年代記。朝ドラのフォーマットなんだと思いました。病弱にして虚弱で日常生活すらままならない主人公が、本に関することだけは暴走してチートになるギャップが燃えどころです。
『やり直してもサッカー小僧』 黒須可雲太
ウェブ発の人生やり直しスポーツもの。試合中の怪我によりサッカー選手としての道を絶たれた青年が、交通事故にあって目を覚ますと、小学3年生に戻っていた。「もう一度サッカーができる」喜びに、彼は手に入れた俯瞰でコートを見る力や将来身につけるはずのテクニックを武器にサッカー人生をやり直すことになる。
サッカー馬鹿が全力でサッカーに打ち込む青春小説。書籍化にあたって文章にも手が加わり、さらに面白くなりましたが、2巻の小学生編にて終了。残念。
『紅霞後宮物語』 雪村花菜
33歳独身にして武勇でも知略でも名を馳せた女将軍の後宮入り……。
「彩雲国物語」のヒロインは文官でしたが、こちらは武官。バリバリの体育会系(脳筋とはいえないくらいには頭が切れる)ヒロインが女の園に乱入し、後宮の常識知らずでさまざまな障害をはねのけ打ち砕いていきます。
とりあえず2巻まで。続刊に期待です。
『くまクマ熊ベアー』 くまなの
ウェブ発の異世界召喚もの。VRMMOゲーム三昧のひきこもり美少女が異世界に招待。ところが与えられた装備はクマの着ぐるみ一式。それが譲渡不能な上にやたら強くて便利。レベルを上げてもプレイヤー自身は強くならずに、クマのぬいぐるみばかりが強化されていくので手放せず、恥ずかしさを我慢しているうちに周囲がだんだん慣れてきて……という話。
ストーリーは単純明快で凝った伏線もない、王道の異世界転移のチート主人公の冒険譚だけれど、軽妙なテンポとキャラクターでぐいぐい読ませます。
『三田一族の意地を見よ』 三田弾正
ウェブ発のご先祖転生ものの、戦国武将の奔走記。戦国時代の関東に転生してしまった現代人の主人公が、自らのご先祖である「三田余四郎」として上杉・武田・北條に包囲され滅亡寸前の一族を救おうと、現代知識を活用して生き残りを図ります。
武勇とか知謀というよりテクノクラートとしてどこまでやれるかという話で、現代知識といってもせいぜい数年程度の誤差で他の誰かが思いつくようなものを、少しばかり先んじた事による優位性と量と運用でカバーしていく話です。トウェインの『アーサー王宮廷のヤンキー』以来の、過去に飛ばされた現代人の英雄譚としては正統派な作品です。
『リーングラードの学び舎より』 いえこけい
ウェブ発の異世界転生ものっぽい教育ドラマ。内乱から立ち直りつつある王国が、10年先20年先を見据えて着手したのは「義務教育推進計画」。貴族も平民も同じくして教育を与え、次世代の国民として育てようというものだが、この常識外れの計画には反対も多い。その折衷案として1年間の試験運用が実施されることとなり、その教師の1人として選ばれたのは、内乱平定の影の功労者でもある術式師ヨシュアン・グラムだった……という、ドタバタ学園ファンタジーながら正統派の教師物語。
『異世界修学旅行』 岡本タクヤ
落雷のショックで異世界に飛ばされてしまった修学旅行の高校生の一団。異世界転移と言ってもチートな能力が授かったわけでもなく、魔王はつい先週に死んだばかり。3ヶ月先に起きる日蝕のときに儀式をすれば帰れるというので、それまで修学旅行の続きを異世界で……。
チートに頼らず普通に真っ当な人間がいちばん強い!というと何やらハードボイルドだけれど、これは隠し芸はチートに勝るという話なのです。
『グリモワール×リバース』
ウェブ発の異世界転生もの。気がついたら昔やりこんでいたRPGの世界で、ダンジョンの中ボスの鬼になっていた主人公。このままではいずれ登場する勇者一行にやられてしまうので、さっさと自分が守っていた宝箱の中身をいただいてボスキャラを一撃粉砕すると、憧れのゲーム世界の観光に飛び出した……。
チートキャラの異世界漫遊記。本人はほとんど何も考えておらず、ただそのときの気分とか思いつきで行動しているだけなのに、それだからか、緻密に計略を企む周囲が翻弄されるような活劇になっています。
『ドラゴンさんは友達が欲しい!』 道草家守
ウェブ発の異世界転生もの。ぼっちの女子大生が事故で死んで、今度は異世界のドラゴンに転生。
ところがそもそもドラゴンというのは世界の魔力の流れを制御する存在であり、何十年何百年単位で黙々と作業を続ける、まさにぼっち種族。それでも友達が欲しいとあれこれ考えてはみるけれど、他の種族は自分を見るなり逃げ出すか戦いを仕掛けてくるばかり……。
きれいに1巻完結した、ファンタジー世界のガール・ミーツ・ボーイ。外伝とか後日談も始まっているけれど、このほどよい長さの面白さが心地よいです。
多少前後していますが、このあたりが「今年新刊で読んだ面白い話」10本です。『火輪を抱いた少女』も面白いけど、読み切れなかったので次回。
あいかわらずウェブ先行(というか「なろう系」)作品が多いですが、そもそもライトノベル系新刊の半分くらいは「なろう系」で、残り半分はシリーズものの続刊じゃないかというこの頃ですから仕方がありません。試し読みもできるし、むしろハズレを引く確率は低くなってます。
ただ、ウェブ版にあれこれ書き足しするのが、逆にマイナスになっている作品もあります。
映画DVDの特典映像などを観ていると、「シナリオにはあったけれど撮影されなかったシーン」「撮影されたけれど公開時にはカットされたシーン」が多いことに気づかされます。取捨選択してブラッシュアップして完成度を上げているわけですが、小説だとついつい「ウェブの読者にも書籍版を喜んでもらおう」と増補改訂することが多く、それが蛇足になるケースがときどきあります。あれがもったいないなあと思います。
もったいないといえばイラストレイターの選定。
せっかくの面白い話なのに、どの作品のどんなシーンにもあてはまりそうな美少女ポーズ絵ばかり挿入されて、それがイラストですと言われても困ります。その作品のどこが面白く、それをイラストによってどうイメージを膨らませていくか、そんな配慮ができない作品はたいてい文章の方も読者への配慮が欠けたものになります。いかにも流れ作業でパッケージしましたという雰囲気です。
イラストはあってもなくてもいいけれど、話に合わないイラストが付いてしまうと、もったいないなあと思います。
『乙女ゲーム世界で戦闘職を極めます』 笹の葉粟餅
おまけにもう1本、妻のお気に入り。
もはや定番パターンとなった「乙女ゲーム世界の悪役への転生」ものですが、ここが乙女ゲーム世界と気づいた瞬間に逃げだしを図り、ゲームキャラとしてのチートと、前世でのリアル戦闘チートによってナントカに刃物状態に磨きをかけていく物語。表紙に登場する人物がみんな人相ワルイよね。
すごく面白いんだけれど、ウェブ掲載が1冊分になったかならずかで書籍化されたため、次がいつになるか、この先も面白いままなのか不安ということで次点となりました。
それでは皆様、よいお年をお迎えください。
そういう意味でイヤな年でした……。

ウェブ発の異世界転生もの。田舎領主の末っ子として転生した元サラリーマンが、両親や兄姉を助けて領地開発を手がけながら、どうせファンタジーな異世界に転生したのなら一国一城の主を目指さなきゃと、同じく転生した元日本人を探しながら成長していく、立身出世な冒険譚。
中世風な異世界は転生者でも厳しくて、奴隷階級に転生した者もいれば、チートな能力を発揮できるほど成長するまでに餓えたり魔物に襲われたりして死んでいく者も少なくないというシビアさも特色の1つ。

ウェブ発の異世界転生もの。司書をめざしていたビブリオマニアな女子大生が、本に埋もれて死んだ果てに異世界で貧しい庶民階級の兵士の娘として転生。本が読みたくてたまらないのに、本どころか紙も文字も日常では目にすることすらできず、「本がなければ本を作れば良いのよ」と奮闘する話。
目的がはっきりしていて前向きなヒロインが、女だから庶民だから病弱だから端から無理だと周囲が諭す声にも耳を貸さず、失敗を繰り返しながらも一歩ずつ目標を実現に向けて歩んでいく年代記。朝ドラのフォーマットなんだと思いました。病弱にして虚弱で日常生活すらままならない主人公が、本に関することだけは暴走してチートになるギャップが燃えどころです。

ウェブ発の人生やり直しスポーツもの。試合中の怪我によりサッカー選手としての道を絶たれた青年が、交通事故にあって目を覚ますと、小学3年生に戻っていた。「もう一度サッカーができる」喜びに、彼は手に入れた俯瞰でコートを見る力や将来身につけるはずのテクニックを武器にサッカー人生をやり直すことになる。
サッカー馬鹿が全力でサッカーに打ち込む青春小説。書籍化にあたって文章にも手が加わり、さらに面白くなりましたが、2巻の小学生編にて終了。残念。

33歳独身にして武勇でも知略でも名を馳せた女将軍の後宮入り……。
「彩雲国物語」のヒロインは文官でしたが、こちらは武官。バリバリの体育会系(脳筋とはいえないくらいには頭が切れる)ヒロインが女の園に乱入し、後宮の常識知らずでさまざまな障害をはねのけ打ち砕いていきます。
とりあえず2巻まで。続刊に期待です。

ウェブ発の異世界召喚もの。VRMMOゲーム三昧のひきこもり美少女が異世界に招待。ところが与えられた装備はクマの着ぐるみ一式。それが譲渡不能な上にやたら強くて便利。レベルを上げてもプレイヤー自身は強くならずに、クマのぬいぐるみばかりが強化されていくので手放せず、恥ずかしさを我慢しているうちに周囲がだんだん慣れてきて……という話。
ストーリーは単純明快で凝った伏線もない、王道の異世界転移のチート主人公の冒険譚だけれど、軽妙なテンポとキャラクターでぐいぐい読ませます。

ウェブ発のご先祖転生ものの、戦国武将の奔走記。戦国時代の関東に転生してしまった現代人の主人公が、自らのご先祖である「三田余四郎」として上杉・武田・北條に包囲され滅亡寸前の一族を救おうと、現代知識を活用して生き残りを図ります。
武勇とか知謀というよりテクノクラートとしてどこまでやれるかという話で、現代知識といってもせいぜい数年程度の誤差で他の誰かが思いつくようなものを、少しばかり先んじた事による優位性と量と運用でカバーしていく話です。トウェインの『アーサー王宮廷のヤンキー』以来の、過去に飛ばされた現代人の英雄譚としては正統派な作品です。

ウェブ発の異世界転生ものっぽい教育ドラマ。内乱から立ち直りつつある王国が、10年先20年先を見据えて着手したのは「義務教育推進計画」。貴族も平民も同じくして教育を与え、次世代の国民として育てようというものだが、この常識外れの計画には反対も多い。その折衷案として1年間の試験運用が実施されることとなり、その教師の1人として選ばれたのは、内乱平定の影の功労者でもある術式師ヨシュアン・グラムだった……という、ドタバタ学園ファンタジーながら正統派の教師物語。

落雷のショックで異世界に飛ばされてしまった修学旅行の高校生の一団。異世界転移と言ってもチートな能力が授かったわけでもなく、魔王はつい先週に死んだばかり。3ヶ月先に起きる日蝕のときに儀式をすれば帰れるというので、それまで修学旅行の続きを異世界で……。
チートに頼らず普通に真っ当な人間がいちばん強い!というと何やらハードボイルドだけれど、これは隠し芸はチートに勝るという話なのです。

ウェブ発の異世界転生もの。気がついたら昔やりこんでいたRPGの世界で、ダンジョンの中ボスの鬼になっていた主人公。このままではいずれ登場する勇者一行にやられてしまうので、さっさと自分が守っていた宝箱の中身をいただいてボスキャラを一撃粉砕すると、憧れのゲーム世界の観光に飛び出した……。
チートキャラの異世界漫遊記。本人はほとんど何も考えておらず、ただそのときの気分とか思いつきで行動しているだけなのに、それだからか、緻密に計略を企む周囲が翻弄されるような活劇になっています。

ウェブ発の異世界転生もの。ぼっちの女子大生が事故で死んで、今度は異世界のドラゴンに転生。
ところがそもそもドラゴンというのは世界の魔力の流れを制御する存在であり、何十年何百年単位で黙々と作業を続ける、まさにぼっち種族。それでも友達が欲しいとあれこれ考えてはみるけれど、他の種族は自分を見るなり逃げ出すか戦いを仕掛けてくるばかり……。
きれいに1巻完結した、ファンタジー世界のガール・ミーツ・ボーイ。外伝とか後日談も始まっているけれど、このほどよい長さの面白さが心地よいです。
多少前後していますが、このあたりが「今年新刊で読んだ面白い話」10本です。『火輪を抱いた少女』も面白いけど、読み切れなかったので次回。
あいかわらずウェブ先行(というか「なろう系」)作品が多いですが、そもそもライトノベル系新刊の半分くらいは「なろう系」で、残り半分はシリーズものの続刊じゃないかというこの頃ですから仕方がありません。試し読みもできるし、むしろハズレを引く確率は低くなってます。
ただ、ウェブ版にあれこれ書き足しするのが、逆にマイナスになっている作品もあります。
映画DVDの特典映像などを観ていると、「シナリオにはあったけれど撮影されなかったシーン」「撮影されたけれど公開時にはカットされたシーン」が多いことに気づかされます。取捨選択してブラッシュアップして完成度を上げているわけですが、小説だとついつい「ウェブの読者にも書籍版を喜んでもらおう」と増補改訂することが多く、それが蛇足になるケースがときどきあります。あれがもったいないなあと思います。
もったいないといえばイラストレイターの選定。
せっかくの面白い話なのに、どの作品のどんなシーンにもあてはまりそうな美少女ポーズ絵ばかり挿入されて、それがイラストですと言われても困ります。その作品のどこが面白く、それをイラストによってどうイメージを膨らませていくか、そんな配慮ができない作品はたいてい文章の方も読者への配慮が欠けたものになります。いかにも流れ作業でパッケージしましたという雰囲気です。
イラストはあってもなくてもいいけれど、話に合わないイラストが付いてしまうと、もったいないなあと思います。

おまけにもう1本、妻のお気に入り。
もはや定番パターンとなった「乙女ゲーム世界の悪役への転生」ものですが、ここが乙女ゲーム世界と気づいた瞬間に逃げだしを図り、ゲームキャラとしてのチートと、前世でのリアル戦闘チートによってナントカに刃物状態に磨きをかけていく物語。表紙に登場する人物がみんな人相ワルイよね。
すごく面白いんだけれど、ウェブ掲載が1冊分になったかならずかで書籍化されたため、次がいつになるか、この先も面白いままなのか不安ということで次点となりました。
それでは皆様、よいお年をお迎えください。