付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

「Let it BEE!」 末羽瑛

2011-08-31 | スポーツ・武道
 フェンシング選手だった父親を事故でなくした有星結恵は、その影響で箸さえ使えない先端恐怖症。
 そんな彼女が3人目の部員として加わったとき、杜坂高校フェンシング部の新たな歴史がスタートした!……

 青春スポコン小説で、期待通りの出来で、予想通りの展開。
 あまりに王道すぎて、何かもう一ひねり期待してしまうのは贅沢だろうか?

【Let it BEE!】【れっといっとびー!】【末羽瑛】【Tea】【フェンシング】【伊達眼鏡】【女王蜂】【蜜蜂】【フェンサー】【スズメバチ】【働き蜂】
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「デュラララ!!×10」 成田良悟

2011-08-30 | 日常の不思議・エブリデイ・マジック
 若者同士のグループが混ざり分かれ、名前を変えて中身を変え、ぶつかりあうのもそろそろ頃合い。さすがに目に余るとヤクザが動き出し、他にも組織がいくつも動き出す……。

 あと3冊かそこらで完結予定ということで、物語が大きく動いたというか、起承転結の転というか、ぐちゃぐちゃのカオス状態になった鍋の中身が土間にぶちまけられたまま派手に流れていくような状態。
 もともと群像劇ではあったのだけれど、メインキャラクターが『易きになじまず、難きにつく』みたいな精神は良いのだけれど、結果的に状況をぐちゃぐちゃにしているだけなので見ていて辛い。若さゆえの過ちというか、バカさゆえの過ちというか、未熟な人間が自分にしか通用しないスジを通そうとしたあげく、周囲を巻き込んでるんだよね。
 そのぶん、ヤクザは(悪い意味で)ヤクザしてるし、警官は(良い意味で)警察してるので一安心。あるべきものが名目通りの場所にはまってくると安心します。

 普通の作者だったら、このまま投げてしまうのだけれど、なんでもかんでも収拾つけて辻褄合わせ、あごが外れるような結末を見せてくれる成田良悟なので、ここは頑張って後を追いましょう。

【デュラララ!!×10】【成田良悟】【ヤスダスズヒト】【電撃文庫】
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「救出ミッション、始動!」 マイク・シェパード

2011-08-29 | ミリタリーSF・未来戦記
 まったく風情も遊び心もないサブタイトルです。軍事小説っぽいといえばポイですけどね。
 今回も若めの女性がでかい銃を持った表紙です。

「人はそのときやるべきことをやるだけです。結果は受けいれるしかない。まだ生きていれば、ですが」
 警護官ジャック・モントーヤの言葉。

 強襲艦<ファイアボルト>がドック入りしている間、上陸することになったロングナイフ中尉だったが、待っていたのはいつもの運転手や警護官だけではなかった。
 いつの間にか母親が手配して雇い入れた新任メイドのアビー・ナイチンゲールが、彼女を身分にふさわしい粧いに変えようと手ぐすね引いて待っていたのだ……。

 美貌の海軍士官は何十もの星系を束ねる知性連合の王の曾孫であり、財閥総帥の孫娘であり、ウォードヘブンの首相の娘という、チートな設定の軍人キャラが主人公の冒険譚で、今回はどちらかというとスパイ話。ジェームス・ボンド以来、海軍士官は諜報員なんですよ……って違うか。行方不明になった同僚が、自分のために誘拐されたと判断し、独断で奪回作戦に向かうプリンセス・ロングナイフの大暴れ。
 ただし、1巻の表紙イラストが間違いだったことが、この巻で判明。彼女は無い胸を張って前進するタイプだった模様。胸の谷間はなく、寄せて上げるブラが武器の収納スペースとして大活躍。ニードルガンを隠し持つメイドといい、本当にアメリカ人の書いた小説か疑問に思わないでもありませんでしたが、年齢設定でなんとなく納得。アビー36歳。良いキャラだけど、ラノベでこの年齢はないわな。
 でも、地球生まれらしいメイドさんが、意気揚々と12個の自走式トランクの群を率いて歩いていく様は壮観。
 
【救出ミッション、始動!】【海軍士官クリス・ロングナイフ】【マイク・シェパード】【エナミカツミ】【戦闘メイド】【軍用ティアラ】【プッシュアップブラ】【盗聴器】【エボラウィルス】【ナノマシン】【ショウ・コスギ】【ディンギー】【タクシー運転手】【防弾下着】
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「3分間のボーイ・ミーツ・ガール」 井上堅二 他

2011-08-28 | 学園小説(不思議や超科学あり)
 「3分間のボーイ・ミーツ・ガール」をテーマにしたショートストーリー19篇とイラストのアンソロジー。

「ロマンチシズムを忘れた科学は人間を幸せにできないんじゃないか」
 小惑星ミチカワサンプルリターン計画主任・青木の言葉。

 基本ボーイ・ミーツ・ガールではありますが、オーソドックスな青春ストーリーもあれば、アンドロイドやAIとの恋あり、時間や空間を超えた出会いと別れありと千差万別。この作家ごとの自由奔放さがアンソロジーの魅力です。
 そして好き嫌いはともかく(単に好みなら甘ったるいくらいの方が良い)、いちばん印象に残ったのは、築地俊彦と綾里けいし。どちらもボーイ・ミーツ・ガールだけれど、甘さとは無縁で恋愛なんてけっ飛ばすような話ですけれど。

【3分間のボーイ・ミーツ・ガール】【ファミ通文庫】【三分間のボーイ・ミーツ・ガール】【白味噌】【Tiv】【井上堅二】【こっちにおいで、子猫ちゃん。】【野村美月】【面接】【アンドロイド】【カニバリズム】【脱獄】【タイムリープ】【ガチで人生が決まる面接に行ってくる】【庵田定夏】【田口仙年堂】【日日日】【庵田定夏】【嬉野秋彦】【榊一郎】【本田誠】【櫂末彰】【綾里けいし】【庄司卓】【前書き】【羽根川牧人】【竹岡葉月】【築地俊彦】【はせがわみやび】【新木伸】【佐々原史緒】【田尾典丈】【マーライオン】【カップラーメンの精霊】
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「赤胴鈴之助」 原作:武内つなよし

2011-08-27 | 時代・歴史・武侠小説
 1950年代の少年マンガが原作にあり、そのラジオドラマがあり、映画があり、テレビドラマになり、そしてアニメ化。
 時は江戸時代末期。北辰一刀流・千葉周作の道場に入門した少年剣士、赤胴鈴之助が活躍する冒険活劇で、原作やラジオ番組はいざ知らず、アニメについてはスチームパンク時代劇。
 最初のうちは、謎の怪人一本足やら虚無僧が跋扈し、兄弟子との確執を交えながら幕府転覆を謀る鬼面党との戦いを描いていたけれど、全身が武器の鎧に身を包んだ青銅鬼が登場したあたりからおかしくなり、蝙蝠型の飛行メカに水中を手漕ぎで進む水中竜、果ては鬼面戦車とスペクタクル巨編に。
 そんな冒険活劇を毎週の楽しみにしていたのだけれど、好きだったのは傘張り浪人の波野十蔵。長屋で日がな一日ごろごろしているか傘を作っているという野暮ったい親父なのに、ときどきこっそり出没しては主人公たちの窮地を救う謎の人。
 こういう大人が登場するのがジュブナイル。主役は子供で、彼らが奔放に大活躍していても、どこかで見守っていて、いざというときにはこっそり手助けしてくれる大人の存在が重要なのです……と思うのは、自分が少年探偵団世代でもあるから。かっこつけしいの明智探偵は魅力的ですよ。客観的に見たらひどい大人だけれど。

【赤胴鈴之助】【東京ムービー】【武内つなよし】【北辰一刀流】【荒木伸吾】【金田伊功】【近藤喜文】【宮崎駿】【真空斬り】
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「ゴールデンタイム3 仮面舞踏会」 竹宮ゆゆこ

2011-08-27 | 学園小説(不思議や超科学なし)
 未成年なのに呑んで酔っ払ってゲロを吐いたり、自転車泥棒で警察に捕まったりするような女だけれど、多田万里にも彼女ができた。もちろん加賀香子だ。
 けれど、互いに手探りながら男女交際を続けようとする万里に、ちらほらと失われた記憶が戻る兆候が現れる。もう存在しない高校生活、好きだった少女……。

 完全な記憶喪失で、大学入学の前後で別人生になっていることを除けば、万里の日常はありきたりの大学生活。ありえないとはいわないけれど、今も未練が残る“昔好きだった女性との再会”なんか、あまり羨ましいとも思えない。とりあえず足りないのは、雀荘に通ってヤニ臭くなるのと免許とってスクーターや原付自転車を乗り回すくらいかな。
 あらためて考えると、駒都えーじのイラストこそインパクトがあるけれど、ライトノベルというよりは一般文芸的な青春小説になってますね。

【ゴールデンタイム3】【仮面舞踏会】【竹宮ゆゆこ】【駒都えーじ】
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「軽井沢シンドローム」 たがみよしひさ

2011-08-26 | その他フィクション
 軽井沢に住む若者たちの青春群像として大人気だったコミックで、ある意味、日本の若者向け創作におけるターニングポイント。1981年スタートの1985年完結。

「あいつの辞書には常識と羞恥の文字はねえな……絶対!!」
 久遠寺紀子の耕平評。

 その特徴の1つは、シリアスなシーンの八頭身キャラと三頭身のギャグキャラが頻繁に入れ替わって登場すること。それまでにも赤塚不二夫の作品みたいにギャグキャラが突然シリアスになることはあったし、山上たつひこのように作品ごとにギャグとシリアスを描き分ける作家はいたけれど、コマごとにギャグ-シリアスが入れ替わるのが常態という作品はなかった。それで、ダンバインやガンダムのコスプレをしてたりするのだけれど、これについては少女マンガの方が先行してたよね?

 2つめは、もともとの読みとは違うルビを会話にふって二重三重の意味をもたせたこと。「幽波紋」と書いて「スタンド」と読ませた『ジョジョの奇妙な冒険』も、後続の作品やライトノベルに大きな影響を与えたのだろうけれど1987年スタートなので、こちらの方が先。ウィキペディアあたりだと「要出典」とか注意されるけれど、リアルで見ていたから出典もなにもないよなあ。
 第1話冒頭で「碓氷峠」と書いて「とうげ」と読ませていたけれど、有名なのは第2話の「悪いコト」と書いて「いいこと」とルビをふったやつかな。

 3つめは、主人公の回りに複数のヒロインがレギュラーで登場し、最終的にハーレムを構成したこと。それまでは、主人公は1人のヒロインと結ばれるものであり、複数の女性キャラと関係を持ってずるずると続けるというのはほとんどなかった。本宮ひろ志の『俺の空』も主人公の女性遍歴がひとつの物語の要素にはなっていたけれど、基本はゆきずりの関係というかたった1人のための修行の旅でした。あえていうなら同じく1981年スタートの『弐十手物語』もそういう展開になっていたはずだけれど、全編読み通していないし、ウィキペディアにも項目がないので確認できてません。

 ツィッターでそういうことをつぶやいたら、『イヤハヤ南友』とかギリシア神話や『源氏物語』もそうじゃないかと指摘され、考えました。
 永井豪の『イヤハヤ南友』は好きな作品だけれど、ハーレムが成立したのは最終回の最後の1ページで、それまでそんなに全キャラとは親しくなってなかったよね?(個人的には弁天ゆりと家早さよこだけのような気がします)
 それにハーレムもののポイントは、1人の男性と彼に好意を寄せる複数の女性が一所に存在し、女性間に緊張感はあっても憎悪や殺意があっちゃいけない。ギリシア神話や源氏物語は、嫉妬に狂った女性がライバルを怪物にしたり祟り殺しているので論外。本当のハーレムや宮中がどうなのかはともかく、女性が不幸になってはいけないと思います。呪い禁止。そういうのは「大奥もの」と呼ぼう。で、単にあちこちふらふらして女性遍歴を繰り広げるのは、ただの「ドンファンもの」。
 あ、定義したらなんかすっきりしたぞ。

【軽井沢シンドローム】【たがみよしひさ】【ビッグコミックスピリッツ】【フリーカメラマン】【ドム】【ビグ・ザム】
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「いとみち」 越谷オサム

2011-08-26 | その他フィクション
 パッと見て、もしドラとサマーウォーズを足して割ったような表紙だなあと手に取り、そのまま購入。読了は早朝1時半。

 相馬いとは、背がちっちゃくて、泣き虫で、人見知りの高校1年生。しかも祖母に育てられたこともあって、津軽訛りがかなりきつい。
 そんないとが自分を変えるためにと思い切って始めたアルバイトは、電車にゆられて1時間ちょい、青森市内にただ1件のメイドカフェだった。
「……お、おがえりなさいませ、ごスずん様」

 オーソドックスではあるけれど、こういう、一癖も二癖もある人間が集まって、まじめに1つの仕事をやり遂げる話って気持ちいいよね。笑えるし、泣けるし。やはりメインキャラクターは3枚くらい皮がめくれた方が面白い。それも無理やりではなく、話の自然な流れの中で化けの皮が剥がれていくさまは愉しいね。
 そういう意味で、特に大人がいい味を出している。表紙はラノベ風だけれど、大人が子供の踏み台になっているという意味で、ジュブナイルにして青春小説。
 好きなキャラはハツヱばあちゃん。巻末に暗号表が載っているほど、他人には聞き取れない津軽弁で三味線の師匠なのに愛唱歌はヴァン・ヘイレン……。

【いとみち】【越谷オサム】【もりちか】【津軽三味線】【血は争えない】【ヴァン・ヘイレン】【税理士】【DQNネーム】【アップルパイ】
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「奥の細道・オブ・ザ・デッド」 森晶麿

2011-08-25 | ホラー・伝奇・妖怪小説
 時は元禄。生類憐れみの令で知られる犬将軍・徳川綱吉の時代。江戸市中は屍僕(しぼく)と呼ばれるゾンビが跳梁跋扈していた。
 側用人・柳沢吉保は、この事件の謎を探るべく、屍僕の発生源と思しき仙台藩の調査を俳諧師・松尾芭蕉に命じたのだが……。

 松尾芭蕉が弟子の曾良と俳句を詠みながら奥の細道を旅する話なのだけれど、行く先々にゾンビがあふれ死屍累々。しかも芭蕉は風流心で言動がおかしくなっている美形忍者で、曾良といえばゾンビとなったので殺してしまった姉の代わりに鉄のブラをつけて女装する男の娘という、二重三重にトンデモないサバイバルホラー。で、この状況で、ちゃんと句を詠むのが凄い(笑)。
 というか、長男も妻も知らなかったのだけれど、松尾芭蕉には忍者説があるのです。記録から見ると芭蕉の移動速度は常人を超えているので(昭和になって発見された曾良の方の記録と照合すると、芭蕉は旅日記すら創作していたふしがあるのだけれど……)。
 そんな俗説に正面から挑んだ怪作。

「風景も人も、そのまま放置がいいんだ。放置遊戯が一番」
 松尾芭蕉が曾良に向けた言葉。空のように自由に生きろと言うのだけれど、単なるS趣味にしか思えないのがこの作品の特色。

 「芭蕉の旅はこれからだっ!」とばかり、すげーところでぶったぎって決着。2作目もあるというか、ゾンビ映画っぽいというか。
 個人的には、史実や原作にしっかりはめ込んでしまった『ヴァンパイアハンター・リンカーン』や『高慢と偏見とゾンビ』より、開き直ってパンクにしてしまったこっちの方が好きかも。巻頭で予告編的にコミックが載っているのもイメージするのに最適です。

【奥の細道・オブ・ザ・デッド】【森晶麿】【天辰公瞭】【巫女】【尼僧】【遊女】【奥州藤原】【腐女子】【平泉】
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「ごくペン!(2)」 三原みつき

2011-08-24 | 学園小説(不思議や超科学なし)
「戦えないメイドは日本では二流ですから」
 エリザベスの言葉。

 北斗の拳とガンダムネタが好きだなー。

 1巻だけで終わっても感動的で良かったんじゃないかという気がしますが、2巻が出ていたので購入。今回はデラーズ・フリート篇で、平和を取り戻し、新たな道を歩み始めた毒マムシ学園に保護者の目が……という話。

 凛子の家はかなり広い。家の門は学校のすぐ近くにあるが、玄関はそこから遥か先にある。その豪邸はむしろそのスジの方の邸宅にしか見えないが、権田原の父は親バカ大王。娘がどう考えてもまともでない男友達ばかりという状況が心配でならず、実態調査に忍びの者を送り出した。
 一方、真太郎の父親も大会社のトップ・エリート。五十嵐家のメイドであるエリザベスもまた、真太郎がどう見ても悪友たちとつき合っていることを案じ、いざとなれば学校を潰す覚悟で乗り込んでいく……。

 傭兵あがりの金髪メイドに伊賀忍者、暴力女教師と新キャラが乱入して、毒マムシ学園はますます混沌としたありさまに。
 ただ、前巻と比べて、ちょっとグレードダウンしちゃった感じはあります。ダメダメな大人キャラのからみ方がとってつけたようで、ちょっと不自然。ハレンチ大戦争みたいな大惨事になるかと期待したけれど、微妙にこじんまりとしたまま終結。
 2作目は難しいなあ。

【ごくペン!】【三原みつき】【相音うしお】【変形巨大ロボ】【北斗の拳】【戦闘メイド】【くのいち】【保険教諭】【私は友達がいない】【仁義】【Vシネマ】【コボルト文庫】
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「乾燥標本収蔵1号室」 リチャード・フォーティ

2011-08-23 | エッセー・人文・科学
 大英自然史博物館のなりたちから現在の姿までを、そこに務める研究員たちのエピソードを積み上げることで簡単に振り返っていこうというスタンスの著書。博物館の形容として、「ゴーメンガースト城のような」という表現が何度も出てくるけれど、どれだけ気に入ってるんだろう?

「科学には意見の相違がつきものなのだ」

 博物館の科学者たちの研究対象は、門外漢には無限とも思える植物・動物・昆虫・細菌から鉱物まで。それぞれが専門を持っているといっても、その数は何万となるのがあたりまえ。地球にどれだけの種類の生物がいるかは不明ながら、少なめに見積もっても現在命名されているのは、何百万という種の半分にも達していないのだとか。今さら増えるのかと思ってしまう鉱物ですら、毎月2~30種が発見され命名されているのだそうです(砂粒レベルまで検査できる機器の発達の賜物です)。
 そして、一生懸命に命名し分類しても、何かの弾みでその系統ががらっと変わることもしばしば。遺伝子配列などが調べられるようになると、1つのグループと思われていたトリュフが2つのグループに分かれることが判明したり、シロアリとゴキブリが近親種だと判明したりするのですね。貝の外見は酷似しているタマビキガイが、DNA配列からまったく別の進化系統から発生したという話には「平行進化だ!」と思ったり。
 そういうわけなので、DNAでバーコード管理するのが精一杯で、個別の特性とか行動習慣などを把握するまで手が回らないのだそうです。
 そんな話を科学者たちのエピソードを紹介しつつ展開しているのですが、隠花植物(cryptogams)学者が暗号(cryptograms)の専門家と間違われてエニグマ暗号の解読に狩り出された話とかアフリカをヒトクイバエから救った話などから、研究者同士のいがみ合いやら奇行まで。
 ただ、「こんなことが何の役に立つんだ」と予算を減らされたり、受け持つ専門を変更させられたりすることもあるようですが、こうやってコレクションし、分類し、種を見極める目を持った者たちがいたからこそ、さまざまな害虫の蔓延を水際で食い止めたりもできるわけで、結論としては「コレクターはいかなるコレクションも放棄しない」ということになる気がします。

【乾燥標本収蔵1号室】【大英自然史博物館 迷宮への招待】【リチャード・フォーティ】【ゴーメンガースト城】【基準標本】【イカサマ師】【公務員制度改革】【ピルトダウン人】【ネッシー】【モーツァルト直筆の楽譜】【蝿の王】【ダース・ベイダー】【ルーシー・チーズマン】【ドロシーア・ベイト】【ミリアム・ロスチャイルド】
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「学園戦記ムリョウ」 監督:佐藤竜雄

2011-08-22 | 学園小説(不思議や超科学あり)
 体調悪いし、仕事も忙しい時期に、ぽっかり空いた連休なので、買ったまま視てないDVDとか読まないまま本棚1つ分の本に……手を触れないまま、既に何度も読んでいる『マリア様がみてる』を読み返しながら、DVDで購入してこれまたさんざん視ている『学園戦記ムリョウ』全26話を一気視。
 で、前にも書いたけれど『学園戦記ムリョウ』について、もう1回。

「それはウチの息子とその友達だよ。友だちを助けに行くんだ」
 突如地上から飛び立った謎の飛行物体を観測した宇宙開発センターに伝えた村田和夫の言葉。

 湘南地方の天網市、その御統中学2年C組委員長の村田ハジメは、体育館の屋根の上で決闘騒ぎを起こした転校生と生徒会役員を制止しようと飛び込んだことから、1万年に渡る銀河系の戦いに巻き込まれることになる……。

 結局、主人公は生身のまま冥王星軌道くらいまでは飛んでいって宇宙戦艦とつぶし合いができるムリョウくんでもなく、町の地下に眠るシングウの力を引き出して式神を模した巨人に化身し宇宙からの脅威に立ち向かう守山ナユタでもなく、ただ武道の技だけで宇宙人の戦闘兵器を投げ飛ばす峯尾ハルミでもなく……何も知らなければ、何の力もない村田ハジメってとこが、この作品のスタンスを如実に著してます。そういうところが少年ドラマシリーズっぽいです。
 たとえ、主人公の友人たちが宇宙からの侵略者(?)と戦っていようと、裏ではもっと大きな動きがあります。学園祭だ体育祭だと大騒ぎしている学園の外では、地上ルートで侵攻する異星人の歩兵部隊との死闘が続いて日本全国で人知れず死屍累々……というコントラストが良い感じです。
 でも、最後に、誰もが打つ手がなくなったときに、途方に暮れていたり、諦めたりしているときに、最後の手段をみつけて動くのは他の誰でもなく村田ハジメくんってあたりが学園戦記なんです。

 というわけで、連休費やして全話視聴。
 有意義な休みでした。(2009-01-12)

 お盆休みから毎晩1巻ペースで視聴してきた『学園戦記ムリョウ』もこの8巻で決着。
 25話に登場するベルン星人は、ウルトラマン+スペクトルマンといった趣。まだ中学生の少年少女にすごいチカラがあり、それで地球を護って戦うのだけれど、そんな彼らを陰から支え、時には戦いに斃れていく大人たちがいるという、古き良きジュブナイルの文法+90年代のアニメ技法で作られた傑作。
 ライトノベルだと、子供たちが大人たちと対立したり、物語中に大人が登場しなかったりすることが多いのだけれど、「子供たちは、大人の力を借りつつ障害を乗り越え、結果的に大人たちを超えた存在になる」というのがジュブナイルの典型的なストーリー構造で、それゆえに大人はあくまで縁の下の力持ちであり脇役にすぎないのだけれど、彼ら無しでは物語が終わらないのも事実なのです。
 子供の視点で見れば大人は邪魔者にすぎず、大人不在で好き勝手できればサイコーというのは本音だろうけど、大人としては踏み台になって自分たちのその先に送り出してやりたいよね。
 ツイッターで見る限りはファンは多いようだけれど、DVDが売れなかったというのもまた事実。1巻と比較すると8巻のボックスはショボく、よくぞ最後まで出してくれたと感謝するレベル。

【学園戦記ムリョウ】【佐藤竜雄】【NHK】【宇宙人の血】【宇宙外交】【星間大戦】【幼年期の終わり】
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「釣りガール」 山田典枝

2011-08-22 | 学園小説(不思議や超科学なし)
「釣りに謙遜は禁物。持つべきものは謙虚だけ」
 鮎川光太郎の言葉。

 時代劇で日本語を覚えたという帰国子女、美鈴が入部しようとしたのは「釣り部」だった…….

 魚をさばくことはできないし、エサの虫を付けるのもできないけれど、魚が好きだから釣りというものをやりたいと飛び込んできた少女を、人間ソナーの釣りバカ少年と潔癖性の理論派が四苦八苦して受け入れていく話。

 せっかくの釣り小説なので、イラストなどで釣りの道具やテクニックを解説してくれると分かりやすいのだけれど、そもそも表紙以外はキャラクターのバストショットばかりで、魚といえばメダカみたいなワカサギらしきもの1箇所だけ、道具といえば竿の握り部分しか絵になっていないので、なんの助けにもなってません。残念。釣りキチ三平学園篇みたいなものを期待するとがっかり。
 話は本当にご都合主義かな。予備校の社長さんは、今までやってきていた逆恨みの粘着気質の行動が最後の最後で突然ひっくり返る言動不一致。こんなことで和解するならそもそも10年かけて復讐なんか考えていないって。行方不明の光太郎の姉さんの行動にも説得力なし。今となってはツッコミどころ満載な30年前のテレビドラマを観ているかのよう。

【釣りガール】【山田典枝】【玖条イチソ】【ワカサギ釣り】【ルアーフィッシング】【釣り堀】【金魚釣り】【ヤマメ釣り】
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「僕はやっぱり気づかない」 望公太

2011-08-21 | 学園小説(不思議や超科学あり)
 世界は退屈でちょうどいい。
 異世界からやって来た魔法使いも、未来からの電脳戦士も、超能力のエージェントもこの世界には存在しないし、それで良いと平凡を愛する籠島諦は考えていた。
 だから、周囲の美少女たちが右往左往していても、彼はなんにも気づかない。彼は本当に、少女たちが呆れるくらいにバカだった……。

 美少女が平凡な主人公のもとに集まるハーレム系の作品は、主人公が愚鈍なくらい鈍くないと成立しにくいけれど、そのお約束を逆手にとって「周りでどんな事件が起こっていても、まったく気づかない少年」を主人公にすえた作品。
 自分の腕が魔物に切り落とされ魔法で治癒されても夢だったと納得し、超能力者同士の戦いを目の辺りにしても「よくできた特撮映画だ」くらいにしか理解しない。非凡なモノを脳が拒否してしまうあたりを、ちゃんと見せている主人公の愚鈍さがポイントです。

 映像化するならOVAとか深夜アニメではなく、早朝の子供番組のコーナー企画で、かけだしアイドルを使った1話10分枠の特撮番組がお奨め。

【僕はやっぱり気づかない】【望公太】【タカツキイチ】【超能力者】【電脳戦士】【魔法少女】【正義の味方】【きみの瞳に、河童いっぱい☆】【マナ】【海外にいる両親】
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「瞬撃の巨龍」 内田弘樹

2011-08-20 | 架空戦記・仮想戦史
 柳河邦彦大佐が新艦長として赴任した、戦艦大和の乗員の士気は落ち込んでいた。
 第二次ロンドン軍縮条約に縛られて完成した最弱戦艦とはいえ、南太平洋の作戦に補給が重要なのは理解していても、艦の空きスペースを利用して輸送船扱いばかりされるのに皆がうんざりしていたのだ。
 だが柳河大佐こそ、この最弱戦艦の生みの親であり、大和は「最弱にして最強」の存在になり得ると確信していたのだ……。

 戦いは数だよ、アニキっ!な架空戦記もの。
 ロンドン条約を守って半端な大きさで建艦され輸送戦艦扱いされた方が、条約を無視して超弩級艦を建艦したあげく港に停泊したまま大和ホテルと揶揄されるよりはマシという話。まだ動いていれば活躍の余地はあるもの。どうなることかと思ったけれど、さすがに最後の海戦は文句なしの王道展開。戦隊物なら5人は欲しいけれど、4隻で我慢しておこう(そう言う話でも無さそうです)。
 架空戦記は日本軍を主役にした太平洋戦争ものでないと売れないというけれど、それでもあの手この手で攻めてくるのはさすがプロのワザ。

 でも、こういうのも読者の少年時代に講談ブームとか戦記ブームとかプラモブームがあったからこそ、大人になって戦国武将や戦艦大和や零戦の活躍する話を手に取る下地があったわけで、戦争物のドラマやアニメがなくなった現在では読者層の拡大は難しいのかも。
 いや、昔はプラモデルといえば戦車や戦艦や戦闘機ばかりだったけれど、今はガンプラ一色。ガンダム小説が戦記ものの後継者になるのかな。
 いやいや、それ思えば、ほとんどなにもないところから若い層、女性層に戦国ブームをもたらした『戦国BASARA』ってすごいな。もしかしたら、戦国小説も今なら装幀をラノベ風にしたらもうちょい売れるようになるのかも。

【瞬撃の巨龍】【最強戦艦決戦】【エスピリトゥサント1943】【内田弘樹】【ガダルカナル補給作戦】【エスピリトゥサント補給作戦】
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