付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

「地球の歩き方~キューバサンド」 米国食肉輸出連合会

2024-11-12 | 食・料理
 コロナ禍で海外旅行どころか近所に遊びに出るのも憚られるようになった2020年頃から、海外旅行ガイドの代表とも言える「地球の歩き方」は単純な地域別ガイド以外のムックを出し始めました。それまでは「ブータン」とか「カウアイ島」とか出していたのが、「世界の魅力的な奇岩と巨石」とか「世界の指導者図鑑」とか観光ガイド以外を強調したものが増えだしたのですね。そのうち「ジョジョの奇妙な冒険」「宇宙兄弟」などマンガ作品を題材に舞台となった街を紹介するものが登場し、どう考えてもパロディ企画としか思えない「ムー~異世界(パラレルワールド)の歩き方~」なんてのまで出てきました。
 コロナ禍が表面上は落ちついて、また海外渡航も普通にできるようになると「ローマ」とか「スリランカ」とかあたりまえのものが主流となりますが、その合間にちょこんと出ているのが広告誌です。
 これはフリマのキッチンカーで「フリーペーパーです」と配布していたキューバサンドの本。よく見たら「地球の歩き方」で、発行は米国食肉輸出連合会。最初に映画「シェフ」っていいよね!から始まり、キューバサンドって何?とかお店の紹介とか作り方等々。ほどほどの厚さで良い読み物。配布していたキッチンカーのお店も紹介されていて、キューバサンドの国際大会に果敢に挑戦されているとか。美味しかったですよ。
 そしてやっぱり『シェフ』の影響力は大きいなあ。まだ、青い鳥が飛んでいる時代の作品ですが、なんど視ても面白いです。国内ではミニシアターくらいでしか公開されませんでしたけど。

【地球の歩き方~キューバサンド】【米国食肉輸出連合会】
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「あやかし姫を娶った中尉殿は、西洋料理でおもてなし」 枝豆ずんだ

2024-07-31 | 食・料理
「人が過ちを犯すのをただ黙って見ている。それは悪意というものだ。恥を知れ」
 小坂源二郎中尉は神田湊中尉を殴り飛ばした。

 幕末の黒船来航を機に神とあやかしと人間が互いの存在を認識し、帝都を霧で包んで人の出入りを制限して半世紀。あやかしが都の守りを司るようになっており、その証として人とあやかしが定期的に婚姻関係を結ぶこととなっていた。
 明治が終わって天興5年。堅物で知られる小坂源二郎中尉は見合いの席にいたが、その相手はあやかしであった。あやかしに人の世の理を教えるのが鏡役である配偶者の務め。人の世(の食べ物)に興味があると名乗り出たのは妖狐の末姫のために、源二郎はオムライスの料理方法を学びだした……。

 人とあやかしの距離が近くなった時代の異類婚もので、「自分を名乗る他人がカフェで女学生をナンパしている」とか「玉子が盗まれた」などあやかしにまつわる謎が提示される連作短編。合間合間に西洋料理というか洋食が挟み込まれて物語のアクセントとなります。『東亰異聞』もこういう感じで、人とあやかしの関係が落ち着けば良かったのにね。
 巻末収録は、帝国常夜軍中佐が語る後味の悪い番外編「榊隆光の調査書」。因習村と軍の上層部と、どっちも腐りきっているようです。

【あやかし姫を娶った中尉殿は、西洋料理でおもてなし】【枝豆ずんだ】【Laruha】【アルファポリス文庫】【キャラ文芸大賞】【オムライス】【コロッケ】【珈琲ゼリー】【雷神ブラン】【苺ジャム】【猫又】【二口女】【天狗】【白蛇】【小豆洗い】【忘八】【文明開化】【火消し】【吉原遊女】【帝国常夜軍】【赤いきつねと緑のたぬき】【遠野郷】
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「スープ屋かまくら来客簿」 和泉桂

2024-07-26 | 食・料理
『てめえに何が出来るかなんて考えるうちは、まだまだひよっこなんだよ。てめえの居場所あるんなら、そこで何かができてるってことなんだからな』
 カーブミラーは、乾に説教する。

 北鎌倉にイケメン兄弟の経営する「スープ屋かまくら」がある。メニューは週替わりのスープのみという小さな店だ。だが、料理は美味いが人づきあいが苦手な緒方琳とフロアを切り盛りする乾には「見鬼」の力があった。
 兄弟は付喪神の存在を感じられるし、見て話をすることもできるのだ。そして、付喪神は人間に愛着を持って使われる事で生まれるものなので、モノによっては数年で付喪神化する。なので鎌倉には付喪神がけっこう多い。そんな付喪神が人に害を与えるようになった時になんとかするのが彼らの一族の使命みたいになっているのだが、三兄弟の長男はそれを嫌って出奔中だ……。

 北鎌倉の小さなスープ専門店を舞台にした、人とあやかしの物語。

【スープ屋かまくら来客簿~あやかしに効く春野菜の夕焼け色スープ】【和泉桂】【細居美恵子】【富士見L文庫】【】【ぬいぐるみの病院】【狛犬】【カーブミラー】【しらす】【灯籠】【春野菜たっぷりトマトスープ】【牛乳と味噌の春キャベツスープ】【スパイシーなカレースープ】【アスパラガスとあさりのスープ】
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「魯山人味道」 北大路魯山人

2024-06-25 | 食・料理
「料理屋の料理は美味くないと言えるね。料理はせいぜい5人以下で味わうべきもので、ほんとう言うと、私がつくる、あなたが食う--つまり、さしで行かなければ、ほんとうには味わえない」

 味の素は味が画一的になると大嫌いだった芸術家、美食倶楽部を創業した北大路魯山人の書いた食に関する文章を、弟子の平野雅章がまとめたもの。海原雄山のモデルの人で、フランスのレストランで鴨のローストをわさび醤油で食べたエピソードも載ってます。
 「美を知るものは、たとえ商売が何屋であっても、どこかそれだけちがうものがある」と芸術家としてのスタンスで、料理に器は大事だとかあたりから、料理法の蘊蓄からラジオの料理番組への文句まであれやこれやを語ってます。材料はあますとこなく独自の持ち味を活かせとか、お茶漬けの作り方をとくとくと語っているのは面白いけれど、新鮮な鮎を焼いたり煮たり揚げたりするなとか、料理研究家とやらがテレビやラジオで紹介する料理のひどさを憂いたりと、そこまで言わなくても……と思わないでもありません。
 魯山人の「日本料理と言っても、一概にこれが日本料理だと簡単に言い切れるものではない。言い切った後から、とやかくと問題が起こり、水掛け論が長びき、焦点がぼけてしまうのが常だからだ」という言葉は、そのままライトノベル論争にも通じるなと思いました。

【魯山人味道】【北大路魯山人】【平野雅章】【中公文庫】【折に触れ筆を執り語り遺した唯一の味道の本】【数の子】【くちこ】【明石鯛】【うなぎ】【筍】【初鰹】【なれずし】【蓴菜】【鮪茶漬け】【昆布とろ】【山椒魚】【蝦蟇】【すき焼き】【家庭料理】
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「帝国ホテル厨房物語」 村上信夫

2024-06-24 | 食・料理
「現地の流儀を尊重しなさい。悪い点は見ずに、いいところだけを学ぶんだ」
 海外へ料理修業に行く人へのアドバイス。日本式をアピールして反感を買っても得るものはない。

 神田の食堂の長男として生まれた村上が両親の死によって孤児となり、浅草の「ブラジルコーヒー」に住み込みで働くようになってから「千両」「つばさグリル」などレストランやホテルを武者修行のように転々としながら帝国ホテルに入ったものの太平洋戦争で徴兵……と波瀾万丈。
 九死に一生を得て帰国してからは接収中の帝国ホテルから出向。ヨーロッパ武者修行を経て東京オリンピックの選手村の厨房を仕切ったり、NHK「きょうの料理」でフランス料理の普及に努め……。

 日本のフランス料理界の重鎮の自著伝を、日本経済新聞の「私の履歴書」に連載していたものをまとめたもの。
 帝国ホテルのシェフとしてオリンピック選手村の料理長をしたり、国賓の料理を依頼されたりとフランス料理界の重鎮だった人です。

「『バイキング』というネーミングは帝国ホテルの社内公募で決めた。当時、ホテルの近くの映画館でカーク・ダグラス主演の海賊映画『バイキング』が上演されていて、船上で食べ放題、飲み放題のシーンがあり……」
 これが日本のバイキング料理のこと始め。

【帝国ホテル厨房物語】【村上信夫】【朝倉めぐみ】【日経ビジネス人文庫】【私の履歴書】【「日本一の調理場」を支えた名シェフの波瀾万丈のドラマ】【ホテル・リッツ】【シベリア抑留】
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「殿下の料理番」 渡辺誠

2024-06-23 | 食・料理
「報道の立場として世の中の皆さんに出すからには、きちんと根拠のある内容を書いてほしい」「少なくとも自分で書いたことに堂々と胸を張れるようなものにしてほしい」
 皇室報道のいい加減さに心を痛めることの多かった日々。

 昭和天皇から三代にわたって宮中料理番を務めた渡辺誠の26年間の記録。
 洋食専門で18年間やってきたのに、スタッフも限られている東宮に移動となれば、中国料理でも和食でもやらなくてはいけない。口が裂けても「できない」とは料理人のプライドに懸けて言えない。そんなところに御前握りの伝統か、皇太子殿下以下宮様たちの前で鮨を握らないといけなくなり……。

 海老沢泰久の『美味礼讃』を再読しようとしたけれど、手放してしまったのか見つからず、代わりに掘り出した1冊。
 平成天皇の皇太子時代の厨房を中心にしたエピソードが語られますが、語るなら人柄が伝わるものを、私生活を暴くようなものにしないという姿勢が貫かれています。とにかく大膳を司る立場として予算のやりくりから食材の手配まで、料理以前に気を使うことの多い日々です。

【殿下の料理番~皇太子ご夫妻にお仕えして】【渡辺誠】【小学館文庫】【伝統と新風 皇室のいま】【コーヒー】【ジンギスカン】【フォアグラ】【御前握り】【チキンカレー】【オニオンスープ】
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「アンと青春」 坂木司

2024-05-23 | 食・料理
「同じとこに生まれて同じ性別だって、スペック違うじゃん。だから、みんな平等じゃないんだよ。そう思ったらさあ、もう男とか女とか、どうでもよくなった」」
 人を男とか女とかでくくっても意味がないと桜井さん。ただ気に食わない相手をタコ殴りにして鉄拳制裁したいだけの人生だった。

 大学生のアンちゃんがデパ地下の和菓子店「みつ屋」で働き始めて8ヶ月になる。
 販売の仕事には慣れてきたつもりだけど、和菓子についてはまだまだ知らないことばかりだし、接客ではうまくいかないことも多い。そんな中、アンは友だち2人と京都旅行に行ったのだが……。

 デパ地下でバイトしている女子大生が店先とかバックヤードでとか、あるいは旅先で出会った人たちとの何気ない言葉のやりとりの中で気になった疑問点を振り返って考えてみる、日常の謎系お菓子ミステリ。あの老婦人はどうしてあのお菓子を選んだのか、幼い娘を連れた母親はなぜフルーツジュースを忌避したのか、あるいは手土産に残された和菓子の意味は?
 血が流れたり人死にはありませんが、いろいろモヤモヤする謎が解き明かされていく青春小説です。

【アンと青春】【坂木司】【光文社文庫】【夜パフェ】【恋パフェ】【雛人形】【放射線量】【風評被害】【甘酒】【栗】【子持ち饅頭】【アヒル】【山路】【五色生菓子】
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「「ダメ女」たちの人生を変えた奇跡の料理教室」 キャスリーン・フリン

2024-04-14 | 食・料理
「もし僕に何かできるとしたら、何かひとつを変えることができるとしたら、それは、料理は全然難しくないってみんなに気づかせることだよね。料理って本当に簡単だよ」
 イギリス人シェフ、ジェイミー・オリバーの言葉。

「料理なんて簡単だよって友だちは言うわ。教えてあげるよって。でも私にとっては料理ってすごく怖いものだから」
 新婚の女性、ドナ(26)の本音。アフリカの飢えた子どもたちを支援する国際機関に勤務しているドナは、冷蔵庫の食品を腐らせているのが苦しい。

 自分自身、勤務先からリストラされたのをきっかけに、憧れの名門料理学校に通い始め、38歳で卒業している著者が気がついたのは、周囲に自分は料理が苦手だと思い込んでいる女性の多いこと。ふとしたきっかけから、そんな女性たちを集めて料理を教えたら何か変わるのではないかと、年齢も職業もバラバラな料理下手の女性10人の料理教室を始めたのだが……。

 とりあえず、泣けませんでした。料理技術が未発達な異世界に足を踏み入れたら、こんな感想をもつのかなあとは思いましたけど。
 著者も含めた11人の女性の人生を語りながら、どうして料理を苦手と思うようになったのか、どうしてこんな食生活をするようになったのか等々ファミリーヒストリーを交えて追いかけながら、ときおりレシピを挟みつつ「料理をする生活」を探求するドキュメンタリーっぽい本。
 でも、人あたりはソフトだけれど言ってる内容は山岡士郎だからね。グルタミン酸とか食品添加物とか固形のカレールーとかホットケーキミックスとか頭から否定するようなことはしないけれど、成分を順番に読み上げて「こんなにいろいろ入ってるんですよねー」とこんなものを口にしていていいのかなーというスタンス。

【「ダメ女」たちの人生を変えた奇跡の料理教室】【キャスリーン・フリン】【冨田マリー】【新潮文庫】【一冊で何度も美味しい料理ドキュメンタリー】【自炊すればするほど体重は減る】
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「甘党男子はあまくない」 織島かのこ

2024-02-07 | 食・料理
「可愛いお隣さん……お菓子の差し入れ……不器用でひねくれた大人の男……ラブコメの波動を感じる!!!!!!!!!!!
 佐久間の担当編集者、筑波嶺大和は驚喜した。

 三葉産業営業一課に勤務の25歳、糀谷胡桃のストレス発散方法は、お菓子を作ること。恋人だった同僚にいきなり別れを告げられた反動で真夜中にアプリコットタルトを焼き上げたが、食べさせる人はいない。そこで確か隣はケーキ好きなお姉さんだったはず……と訪ねてみれば、住んでいたのはボサボサ頭の若い男、口も態度も悪い傍若無人な小説家の佐久間凌だった。
 しかし、佐久間は筋金入りの甘党男。これ幸いと、胡桃はお菓子を作るたびに佐久間に差し入れするようになるのだが……。

 「金曜23時くらいの枠で30分1クールで実写ドラマ化したら面白い!」というのが第一印象。男を見る目がないOLが、ストレス発散で作ったお菓子をきっかけに新たな恋人と仕事を手に入れるまでの物語。
 OLが仕事や恋愛でトラブルに巻き込まれては気分転換で菓子を焼き、それを食べきれないので隣人の小説家に差し入れて……の繰り返しで、その2人の不器用なやりとりを、ラブコメマニアの担当編集者が「これは両片思いパターンですね」とわくわくしながら素知らぬふりで観察するのでがパターンの話。全3部で、この巻はちょうど第1部相当です。夜中に読むとケーキとお茶が欲しくなるから要注意。

【甘党男子はあまくない〜おとなりさんとのおかしな関係〜】【織島かのこ】【けーしん】【メディアワークス文庫】【男運ゼロの尽くし系OL×ぶっきらぼうな甘党小説家の、甘いお菓子と恋のお話】【小説家になろう】【カクヨム】【アプリコットタルト】【パウンドケーキ】【シュークリーム】【バターサンド】【ブルーベリーマフィン】【アップルパイ】【フロランタン】【レモンクッキー】【ガトーバスク】【バニラフィナンシェ】【シフォンケーキ】【アールグレイティー】
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「父娘のおいしい食卓」 桑野一弘

2023-12-10 | 食・料理
「失敗が足かせになるのは多くの場合、自分の踏ん切りの問題だ。誰も立華に『立ち止まれ』とは命令していない」
 誰かを喜ばせたいというなら、失敗しても常に前に進めと、「鉄の企画課長」こと朝霞昇は部下を諭す。

 輸入食材の卸会社で企画課長として辣腕を振るっている、朝霞昇には小学5年生の娘がいる。仕事ばかりで半年も家に帰れない生活が続き、離婚したフランス人の妻との娘アヤ・ミィシェーレ、朝霞アヤだ。妻の事故死で引き取ったものの、5年も会うことのなかった娘との関係に、昇は試行錯誤を繰り返している……。

 環境が激変してもなんとか慣れようと努力している娘と、それを助けたい見守りたいと思いつつ距離感をつかめない父親の関係の変化を、日々の食卓を通じて描く家庭小説であり、同時に会社で生じた問題解決の顛末を語るビジネス小説であり、それらに関連する食材などを調理して食べる過程をじっくり語ったグルメ小説。この3つを無理なくバランス良くまとめて1つの話、6編の連作短編集として面白く読ませるのは巧いよね。
 こねないハンバーグは作ろうかなと思ってます。

【父娘のおいしい食卓】【桑野一弘】【さかもと侑】【メディアワークス文庫】【チーズ】【グラタン】【トンカツ弁当】【幕の内弁当】【柔道】【事業参観】【伊勢海老】【チャーハン】【ガレット】【味噌汁】【チョコレート】【ワイン】【リンゴのコンポート】【生ハム】【キャンディ】【チキン南蛮】
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「飯楽園―メシトピア―」 和ヶ原聡司

2023-10-15 | 食・料理
 第三次大戦で国土が戦場となり荒廃した日本の建て直しの中で、国民の健康が義務とされ、ヘルスケア政策が施行されたがその結果、食品への添加物はすべて禁止され、ジャンクフードが非合法化した。それにより、食料自給率や健康寿命が改善される一方、高額でもきちんとした材料でちゃんと料理されたものを食べられる者がいる一方で、水代にも事欠き餓死する者が各地で生まれることとなった。
 基準に満たない「不健康な食事」、そしてそれらを摂取する「不健康な人間(アディクター)」は社会から隔離・抹消されるようになった社会で、ジャンクフードの密輸をおこなうアディクターと食料国防隊とのいたちごっこが続いていたのだが……。

 少しくらい不健康でも美味しくてお腹が膨れて栄養が取れるものを人々に届けようとするアディクターの密輸業者と、健康な世界のためにそれを狩る厚労省が率いる《食防隊》の対立を軸にした物語。不健康な者は射殺だ!という道理を無視したディストピアで、料理人を志すアディクターの新島と、食防隊員の期待の星である矢坂弥登が遭遇したところから物語が動き出します。

食防隊員たちが美味しいものを食べるシーンが本当にグロテスクに感じられちゃいます。描写は美味しそうなんだけどねー。


この作者定番の、敵対する勢力に属する2人がやむを得ぬ事情で呉越同舟する話ですが、この話の舞台はディストピア日本の話なので、基本的に真面目なアクションドラマなのです。

果たしてメシは銃よりも強いのか……?



【飯楽園―メシトピア― 崩食ソサイエティ】【和ヶ原聡司】【とうち 】【電撃文庫】【食と自由を巡るメシ×ディストピア】
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「いせたべ」 川岸殴魚

2023-06-09 | 食・料理
「友達とは一緒に牛角に行くものだよ」
 こちらの世界の人間は友情を確認したいときには牛角で焼き肉を食べるのだと中村成彦。

 自宅暮らしの大学生、中村成彦の前に突如先行と共に出現したのは侍女を伴った異世界の王女ミユ・カジマ・ファリーノスと侍女のエレノワ。彼女らは国の総力をあげて日本の様子を観測しており、中村家はその重点観測対象だったらしい。
 日本をこよなく愛し、そしてなぜかひっきりなしに成彦に求婚する王女らを伴って、彼女らの憧れの地ローソンへと向かうのだが……。

 王女一行を伴っての駄菓子屋巡りとB級グルメ旅。
 構成としては昔で言うところの居候ものだけれど、彼女らの目的は成彦を配偶者として故郷に連れ帰ること。しかし、ウルカトス王国の話を聞けばメシは不味いし、ワイバーンとかちょくちょく襲ってくるし、女性にモテモテになること間違いなしだけど浮気したら殺すとか言ってるし、聞けば聞くほど行きたくなくなる世界です。
 あと小説投稿サイトとして「小説家になろう」と「カクヨム」のどちらに将来性があるのか、登場人物たちが熱く語り合うあたりが川岸殴魚って気がします。

【いせたべ~日本大好き異世界王女、求婚からの食べ歩き~】【川岸殴魚】【堀泉インコ】【カドカワBOOKS】【飯テロコメディ】【カクヨム】【街角グルメ】【プロ野球チップス】【とんこつラーメン】【焼きそばUFO】【にっこりプリン】【蒲焼さん太郎】【うな重】【ポッキーゲーム】
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「最強魔王様の日本グルメ」 kimimaro

2023-06-08 | 食・料理
 魔王は退屈していた。
 ときどき攻めてくる勇者はたいしたことはないが、魔界の事務仕事はいつも山積みだし、結婚しろと各部族は美姫を押しつけてくるし、同じようなことばかりの毎日は退屈だ。
 そんな魔王に数百年来の従者であり、魔王城の実質的なナンバー3である悪魔メイドのニスロクは、異界への扉を開く魔法具である指輪を手渡した。これに魔王が全力で魔力をこめれば3時間だけ異界に渡れるのだという。
 かくして暇つぶしに異界に渡った魔王がたどり着いたのは、地球の、現代日本の、鉄道高架下の焼き鳥屋であった……。

 日本へようこそ魔王様。
 日本で食べ歩き、魔界に戻ってきてからその余波でちょっとした騒ぎがあって……という流れの、日本の食べ物を題材にした小品集みたいな感じで気軽に読めるのだけれど、判型が大きいので手軽に持ち運べず。文庫サイズなら良かったのにね。

【最強魔王様の日本グルメ】【kimimaro/至高の飯はTKG】【岡谷】【宝島社】【小説家になろう】【焼き鳥】【きつねうどん】【スルメ】【柿ピー】【缶ビール】【屋台ラーメン】【スイーツ】
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「勇者はひとり、ニッポンで」 山崎響

2023-06-07 | 食・料理
 神託でいきなり魔王退治の勇者に選ばれたアルフレッドだが、もともと底辺貴族ラッセル家の嫡男で武芸なんかからっきし。いずれ小さな領地を切り盛りする人生と思っていたら、いきなり魔王との戦いの最前線へ。しかも聖女であるミリア姫を始めとしたパーティメンバー間の軋轢はひどく、みんなアルフレッドに優しくないのだ。
 しかし、神様、勇者役を交代するか、たまの休みくらいは気楽に一人で過ごせるようにしてください……という彼の望みは叶った。
 勇者はやめられなかったけれど、神より予算イチマンエンを授けられ、アルはワンダーランド「ニッポン」へ転送。24時間限定だけれど、食べて、飲んで、気の向くままに、癒しを求めて彷徨う。彼はその日の1杯のビールのために魔王と戦っているのだ……。

 勇者のニッポン紀行が続くウェブ版と異なり、あれこれ膨らませたコミック版を文章に落とし直したものなので、勇者パーティーのあれやこれやそれぞれの思いやら、店の店員とか客とかの思惑やらスタイルが追加されてのさらに加筆があります。なので内容増量のサービス満点ととるべきか、テンポが悪くなったととるべきか解釈は人それぞれ。

【勇者はひとり、ニッポンで~疲れる毎日忘れたい!のびのび過ごすぜ異世界休暇~】【山崎響】【雪狸】【一迅社ノベルス】【お疲れ勇者の異世界(ニッポン)探訪コメディ】【小説家になろう】【焼き鳥】【ビール】【大盛りカレー】【牛丼】【サワー】【コンビーフ】【スーパー銭湯】【学食】【唐揚げ定食】【カップラーメン】【シネコン】【ポップコーン】【ビジネスホテルの朝食バイキング】【親子丼】
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「まぼろしのパン屋」 松宮宏

2023-05-27 | 食・料理
「しあわせとは何だろう?
 それは自らの心に寄り添い、正直に生きることだ」

 何ができるか分からないけど、分からないから楽しいのが人生なのだ。

 政治家とゼネコンの皮算用で始まった大規模土地開発が頓挫して、トカゲの尻尾切りで責任者が左遷された結果、高橋はところてん式に出世したが、それは頓挫した計画をなんとかしなければいけなくなったということなのだ。
 うんざりしながら現地に足を運ぶ高橋だが、途中、見知らぬ老女にパンをもらってしまう。紙袋に詰まったホカホカのパンなのだが……。

 パンと神戸の焼き肉と姫路おでんをそれぞれテーマにした3篇の物語。
 現実社会を舞台にした、ほわっとした人情ものっぽい話だけれど、ところどころに超常だか不可解だかサイコ的なエッセンスがふりかかっているあたりが 松宮宏っぽいかなと勝手に感想。ヤンキーが好き勝手に生きたあげく適当に穏当な場所に収まる話とかは個人的には好かんけれど、映画にしたら面白そうではありますね。
 自分としては「ホルモンと薔薇」を一押し。物語の完成度としては「まぼろしのパン屋」の方が良いと思うのだけれど、ホルモンの普通の人たちが普通に集まって焼き肉をするだけの話なのに、わきゃわきゃ大騒動になっていくバカ話っぽい顛末が良いのです。

【まぼろしのパン屋】【ホルモンと薔薇】【こころの帰る場所】【松宮宏】【徳間文庫】【食べ物をめぐる、ちょっと不思議な物語】【人生逆転劇】【外科医】
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