今年も歳の終わりに振り返り、この1年で楽しませてもらった書籍を幾つか覚えに残しておきましょう。
『ノームの終わりなき洞穴』 山鳥はむ
遠征資金稼ぎのために宝石鉱山を採掘していたら、周囲の村人や冒険者が勝手に入り込んでは警備の魔物に殺され続け、そのせいで自分の採掘している鉱山がダンジョンだと噂になってさらに一山当てようという冒険者たちが集まる悪循環の物語。
基本的に、欲に駆られた冒険者たちが洞窟に潜っては殲滅されるの繰り返しなんだけれど、そこを巧く面白く読ませ、ウェブ版の最終章は壮大な英雄叙事詩となって幕を閉じます。
『信長の庶子』 壬生一郎
家督相続権のない庶子に生まれながら、不思議な知識を持つ母親の教育で、織田家にその人ありと知られるようになっていく織田帯刀の出世譚。
転生知識チートは、なにも本人が使わなくてもOKだよねとか、竹簡で同人誌発行みたいな小ネタに走りつつも、物語としてはあくまで群雄割拠の戦国時代の冒険譚で、改編歴史物として完璧な本造りも魅力。
『ダンジョンクライシス日本』 緋色勇希
日本各地でに迷宮が出現し、自衛隊と米軍による封鎖が続く時代。ひょんなことから迷宮の向こうに通り抜けてしまった元自による、往きて還りし物語。
小説家になろう発のハヤカワJAの1冊で、なんでもかんでも萌えイラストつけりゃいいってもんじゃないよという1冊。続くといいな。なにげに名古屋界隈のご当地SFだったりします。
『異世界転移、地雷付き。』 いつきみずほ
修学旅行のバス事故でクラス全滅のところを邪神に救われ異世界転生。ところが邪神の警告を無視して安易にチートスキルを取得したクラスメイトは、巻き添え自爆必至の地雷みたいなもの。そういうわけで、ナオたち親友5人は可能な限り他の地雷クラスメイトに関わらないよう、地味に、堅実に、安全第一で生きていこうとする……。
異世界転生のスローライフな共同生活もの。派手なところはないけれど、特に暗く重いストーリーでもなく、他の話ならクラスメイト同士で敵対したり支配したりする展開になるところが、地雷付き転生者たちは勝手にどんどん、あまり主人公たちと関わらないところで爆発していきます。リアルな中世風社会の暗黒面は主にそちらが担当。その間にナオたちが1つずつ実績を積み上げ、少しずつ装備を更新し、一歩一歩着実に生活改善を続けていく姿が楽しいですね。派手な英雄譚ではなく、チート頼りの開拓話でもないですが、ほどほどに順風満帆なストーリー展開の起伏がベストバランスです。あとはタイトルにある地雷がほとんど爆発した後、話にどう結末をつけるかってあたりでしょうか。
『悪役令嬢の監獄スローライフ』 山崎響
乙女ゲームのお約束みたいなもので、公爵令嬢レイチェルは身に覚えのない罪を理由に王子との婚約を破棄され、地下牢に投獄されてしまう。ところが、レイチェルは逆に地下牢の鍵を内側から施錠し、事前に持ち込んだ食料や贅沢品をふんだんに使った監獄ライフを堪能する。誰に頼まれたって出てやるものかと。その間にも、勝手な理由で婚約破棄した王子への圧力は高まり……。
ひとことでいうと「プリズンイエーーーーーッ!」なハッピーホリデー・コメディ。さらば、王妃教育に追いまくられていた日々よ。ワンアイデアで上下巻という収まりの良さもポイントです。
『スコップ無双』 つちせ八十八
宝石鉱夫のアランは、ひたすらスコップで穴を掘り続けていたが、採掘100年目のあるとき、なぜかスコップから岩石溶解ビームが出た。これで今まで堅くて掘れなかった岩盤も抜けるとさらに掘り続け、1000年目にはビームは波動砲に進化していた。地道な採掘の経験値は、本人も知らぬないうちにアランを最強のスコップ使いにしていたのだ……。
スコップ使いの超人が主人公で、新興宗教の教組がヒロインで、波動砲が必殺技のファンタジー小説。世の中のたいていのことはスコップでなんとかなる。ちなみに1巻は「シャベル無双」とのコンバーチブル表紙。
『世界の闇と戦う秘密結社が無いから作った(半ギレ)』 黒留ハガネ
ひょんなことから超能力が身についた主人公。ところが能力を磨きながら待っていても何も事件は起きないし巻き込まれない。世界の闇の存在もなければ、それと戦う組織もないというなら作ってやるぜと決意した。そこに同じく厨二心を大事に抱える整形美人(美容への並々ならぬ情熱と努力)のお金持ちヒロインをスポンサーに迎え、「世界の闇」とそれと戦うための「秘密結社」を作り始めるのだ。
本物でなくてもホンモノと同じくらいステキなものを生み出したなら、そこに何の違いがあるというのだろうか。
書籍版は2巻で中断。ウェブ版のようにせめてワールドワイドに展開するところまではやって欲しいものです。
『異世界国家アルキマイラ』
VRシミュレーションゲーム『タクティクス・クロニクル』をプレイしていたら突然の地震。天災イベントかと確認してみれば、ゲームにおける自領丸ごとリアルに異世界転移していた。自分は戦闘力が皆無の脆弱な人間のままだけれど、周囲の部下は一騎当千の魔物ばかり。まかり間違って忠誠度が下がればひとたまりも無い。さらに樹海の外では人間とエルフの国家間での紛争が激化している。中身はまだ20歳前の大学生に、この状況に王として立ち向かえというのは、あまりに酷な話であった……。
ゲームしてたら異世界転移して魔物ばかりの国家を指揮して戦うというと『オーバーロード』とか真っ先に思い浮かびますが、こちらは主人公の中身も器も人間なので冷酷に割りきれず、あれこれ苦悩しながら成長していきます。大学の授業はしっかり聴いておくもんです。
『サラリーマン流 高貴な幼女の護り方』 逆波
武術の経験はないけれどネゴやプレゼンなどビジネススキルだけはやたら高い青年が、事件に巻き込まれたことで異能覚醒。刀剣を主武器とする異能エージェント集団に迎え入れられ、甘えることを知らない幼女の世話をし、意識高い幼女に諭され、政治的に危険な立ち位置にある幼女を大陸のスパイやらテロリストから護る話で、つまりはボディガードと王女様もの。
1巻ごとにストーリーが完結し、テンポ良く、飽きさせない構成は見事。今は2巻までしか出ていないけれど、ウェブ版ではほぼ1巻分ごとに1人高貴な幼女が増えるので、ちょうどきりのつく3人目までは刊行して欲しいものです。
『異世界転生…されてねぇ!』 タンサン
人助けで死んだ高校生が転生しそこない、チート能力を持ったまま元の世界で生き返ってしまったけれど、現代日本も裏では陰陽師や超能力エージェントの抗争が繰り広げられていて、そこに異世界で暴れ回るはずのチート能力者が第三勢力として殴り込んでしまう話。
基本はスローライフなスクールライフなので、着々と強くなっていく主人公の言動がツボ。
『ハズレ判定から始まったチート魔術士生活』 篠浦知螺
異世界の王国が戦力不足を補うために異世界からの召喚を強行。ある中学校の2年生が学年丸ごと召喚され、隷属の首輪で奴隷化されたけれど、国分健人だけハズレで使い物にならないと王女によって魔物だらけの密林に放り出され死にそうになる。でも、実は健人こそチートな能力の持ち主で……と、典型的な集団異世界転移もので、宣伝もその路線で押してるんだけれど、展開が早くて、起伏が激しくて、この手の話としてはかなり面白く、右も左も分からない異世界での足場固めと同級生救出作戦の二本立てでてんてこ舞いの展開に飽きずに読んでます。
ただ、あまりに最悪な出会いの王女が後にヒロイン候補に挙がってくるものですから、書籍版ではちょこちょこ「あんな悪辣な真似をしたのにはやむを得ない理由があるのだ」と言い訳を前倒しにしてるので、そのあたり不自然になってます。そこまで本人も周囲の人間もそんな極悪人ではないというなら、死人が出る前になんとかしろよと。そういう意味ではウェブ版の方がしっくりきます。
『悪役令嬢レベル99』 七夕さとり
ドルクネス伯爵家令嬢ユミエラ・ドルクネスは5歳にして覚醒した。自分がRPG要素の強い乙女ゲーム「光の魔法と勇者様」通称「ヒカユウ」の世界での悪役令嬢に転生していたことに気がついてしまったのだが、そこで前世のゲーマー魂に火がついてしまった。両親から放置されていたのを幸い、書庫で書を読み、野山で魔物を狩り、ゲームの舞台である学園に入る頃にはレベル99となっていたが、これは理論上のレベル上限。魔王討伐の推奨レベルが60である……。
バランスブレイカーの裏ボスに転生した主人公が、ゲーマーの血が騒ぐままにレベル上げしていくうちに、なにが常識でなにが非常識か分からなくなってしまい、自分の基準で周囲を引っ張り回す話。彼女の「ちょっと危ない」は普通の人の「命の危機」。
基本がワンアイデアのバカ話なので、ほどよい長さできりがついているあたりもお薦め。
乙女ゲームの悪役令嬢転生ものというのは、そもそもオリジナルがほとんど見当たらないのが特色。他のファンタジー系創作などは、明らかにドラゴンクエストとかD&DとかFFとかメジャータイトルがあり、そこに起因するお約束が共通認識としてあるから成立しているわけですが、乙女ゲームにはそれがありません。確かに主人公のライバルとしての悪役令嬢が登場するゲームがないわけではないようですが、いざ具体的なタイトルを挙げようとするとあまりメジャーでないものが1本か2本……というくらい。それがちゃんと「悪役令嬢の登場する乙女ゲーム」というものに対する共通認識ができているのが不思議です。
むしろネタ的には昔からの少女マンガの方に起因するらしく、2013年スタートの「謙虚、堅実をモットーに生きております!」が少女マンガ転生で、今も「小説家になろう」累計ランキングベスト10に入っているこの作品あたりから増えていったと聞いています。これは確かに面白いもの。連載が中断して2年以上かあ……小学校入学前から始まって、もう高校卒業間近。3年生の夏休みの花火大会直前と、クライマックス目前で途絶えて待つ身は辛いです。もう何回、最新話まで読み直していることか。
新年こそは更新を期待したいものですね。
『ノームの終わりなき洞穴』 山鳥はむ
遠征資金稼ぎのために宝石鉱山を採掘していたら、周囲の村人や冒険者が勝手に入り込んでは警備の魔物に殺され続け、そのせいで自分の採掘している鉱山がダンジョンだと噂になってさらに一山当てようという冒険者たちが集まる悪循環の物語。
基本的に、欲に駆られた冒険者たちが洞窟に潜っては殲滅されるの繰り返しなんだけれど、そこを巧く面白く読ませ、ウェブ版の最終章は壮大な英雄叙事詩となって幕を閉じます。
『信長の庶子』 壬生一郎
家督相続権のない庶子に生まれながら、不思議な知識を持つ母親の教育で、織田家にその人ありと知られるようになっていく織田帯刀の出世譚。
転生知識チートは、なにも本人が使わなくてもOKだよねとか、竹簡で同人誌発行みたいな小ネタに走りつつも、物語としてはあくまで群雄割拠の戦国時代の冒険譚で、改編歴史物として完璧な本造りも魅力。
『ダンジョンクライシス日本』 緋色勇希
日本各地でに迷宮が出現し、自衛隊と米軍による封鎖が続く時代。ひょんなことから迷宮の向こうに通り抜けてしまった元自による、往きて還りし物語。
小説家になろう発のハヤカワJAの1冊で、なんでもかんでも萌えイラストつけりゃいいってもんじゃないよという1冊。続くといいな。なにげに名古屋界隈のご当地SFだったりします。
『異世界転移、地雷付き。』 いつきみずほ
修学旅行のバス事故でクラス全滅のところを邪神に救われ異世界転生。ところが邪神の警告を無視して安易にチートスキルを取得したクラスメイトは、巻き添え自爆必至の地雷みたいなもの。そういうわけで、ナオたち親友5人は可能な限り他の地雷クラスメイトに関わらないよう、地味に、堅実に、安全第一で生きていこうとする……。
異世界転生のスローライフな共同生活もの。派手なところはないけれど、特に暗く重いストーリーでもなく、他の話ならクラスメイト同士で敵対したり支配したりする展開になるところが、地雷付き転生者たちは勝手にどんどん、あまり主人公たちと関わらないところで爆発していきます。リアルな中世風社会の暗黒面は主にそちらが担当。その間にナオたちが1つずつ実績を積み上げ、少しずつ装備を更新し、一歩一歩着実に生活改善を続けていく姿が楽しいですね。派手な英雄譚ではなく、チート頼りの開拓話でもないですが、ほどほどに順風満帆なストーリー展開の起伏がベストバランスです。あとはタイトルにある地雷がほとんど爆発した後、話にどう結末をつけるかってあたりでしょうか。
『悪役令嬢の監獄スローライフ』 山崎響
乙女ゲームのお約束みたいなもので、公爵令嬢レイチェルは身に覚えのない罪を理由に王子との婚約を破棄され、地下牢に投獄されてしまう。ところが、レイチェルは逆に地下牢の鍵を内側から施錠し、事前に持ち込んだ食料や贅沢品をふんだんに使った監獄ライフを堪能する。誰に頼まれたって出てやるものかと。その間にも、勝手な理由で婚約破棄した王子への圧力は高まり……。
ひとことでいうと「プリズンイエーーーーーッ!」なハッピーホリデー・コメディ。さらば、王妃教育に追いまくられていた日々よ。ワンアイデアで上下巻という収まりの良さもポイントです。
『スコップ無双』 つちせ八十八
宝石鉱夫のアランは、ひたすらスコップで穴を掘り続けていたが、採掘100年目のあるとき、なぜかスコップから岩石溶解ビームが出た。これで今まで堅くて掘れなかった岩盤も抜けるとさらに掘り続け、1000年目にはビームは波動砲に進化していた。地道な採掘の経験値は、本人も知らぬないうちにアランを最強のスコップ使いにしていたのだ……。
スコップ使いの超人が主人公で、新興宗教の教組がヒロインで、波動砲が必殺技のファンタジー小説。世の中のたいていのことはスコップでなんとかなる。ちなみに1巻は「シャベル無双」とのコンバーチブル表紙。
『世界の闇と戦う秘密結社が無いから作った(半ギレ)』 黒留ハガネ
ひょんなことから超能力が身についた主人公。ところが能力を磨きながら待っていても何も事件は起きないし巻き込まれない。世界の闇の存在もなければ、それと戦う組織もないというなら作ってやるぜと決意した。そこに同じく厨二心を大事に抱える整形美人(美容への並々ならぬ情熱と努力)のお金持ちヒロインをスポンサーに迎え、「世界の闇」とそれと戦うための「秘密結社」を作り始めるのだ。
本物でなくてもホンモノと同じくらいステキなものを生み出したなら、そこに何の違いがあるというのだろうか。
書籍版は2巻で中断。ウェブ版のようにせめてワールドワイドに展開するところまではやって欲しいものです。
『異世界国家アルキマイラ』
VRシミュレーションゲーム『タクティクス・クロニクル』をプレイしていたら突然の地震。天災イベントかと確認してみれば、ゲームにおける自領丸ごとリアルに異世界転移していた。自分は戦闘力が皆無の脆弱な人間のままだけれど、周囲の部下は一騎当千の魔物ばかり。まかり間違って忠誠度が下がればひとたまりも無い。さらに樹海の外では人間とエルフの国家間での紛争が激化している。中身はまだ20歳前の大学生に、この状況に王として立ち向かえというのは、あまりに酷な話であった……。
ゲームしてたら異世界転移して魔物ばかりの国家を指揮して戦うというと『オーバーロード』とか真っ先に思い浮かびますが、こちらは主人公の中身も器も人間なので冷酷に割りきれず、あれこれ苦悩しながら成長していきます。大学の授業はしっかり聴いておくもんです。
『サラリーマン流 高貴な幼女の護り方』 逆波
武術の経験はないけれどネゴやプレゼンなどビジネススキルだけはやたら高い青年が、事件に巻き込まれたことで異能覚醒。刀剣を主武器とする異能エージェント集団に迎え入れられ、甘えることを知らない幼女の世話をし、意識高い幼女に諭され、政治的に危険な立ち位置にある幼女を大陸のスパイやらテロリストから護る話で、つまりはボディガードと王女様もの。
1巻ごとにストーリーが完結し、テンポ良く、飽きさせない構成は見事。今は2巻までしか出ていないけれど、ウェブ版ではほぼ1巻分ごとに1人高貴な幼女が増えるので、ちょうどきりのつく3人目までは刊行して欲しいものです。
『異世界転生…されてねぇ!』 タンサン
人助けで死んだ高校生が転生しそこない、チート能力を持ったまま元の世界で生き返ってしまったけれど、現代日本も裏では陰陽師や超能力エージェントの抗争が繰り広げられていて、そこに異世界で暴れ回るはずのチート能力者が第三勢力として殴り込んでしまう話。
基本はスローライフなスクールライフなので、着々と強くなっていく主人公の言動がツボ。
『ハズレ判定から始まったチート魔術士生活』 篠浦知螺
異世界の王国が戦力不足を補うために異世界からの召喚を強行。ある中学校の2年生が学年丸ごと召喚され、隷属の首輪で奴隷化されたけれど、国分健人だけハズレで使い物にならないと王女によって魔物だらけの密林に放り出され死にそうになる。でも、実は健人こそチートな能力の持ち主で……と、典型的な集団異世界転移もので、宣伝もその路線で押してるんだけれど、展開が早くて、起伏が激しくて、この手の話としてはかなり面白く、右も左も分からない異世界での足場固めと同級生救出作戦の二本立てでてんてこ舞いの展開に飽きずに読んでます。
ただ、あまりに最悪な出会いの王女が後にヒロイン候補に挙がってくるものですから、書籍版ではちょこちょこ「あんな悪辣な真似をしたのにはやむを得ない理由があるのだ」と言い訳を前倒しにしてるので、そのあたり不自然になってます。そこまで本人も周囲の人間もそんな極悪人ではないというなら、死人が出る前になんとかしろよと。そういう意味ではウェブ版の方がしっくりきます。
『悪役令嬢レベル99』 七夕さとり
ドルクネス伯爵家令嬢ユミエラ・ドルクネスは5歳にして覚醒した。自分がRPG要素の強い乙女ゲーム「光の魔法と勇者様」通称「ヒカユウ」の世界での悪役令嬢に転生していたことに気がついてしまったのだが、そこで前世のゲーマー魂に火がついてしまった。両親から放置されていたのを幸い、書庫で書を読み、野山で魔物を狩り、ゲームの舞台である学園に入る頃にはレベル99となっていたが、これは理論上のレベル上限。魔王討伐の推奨レベルが60である……。
バランスブレイカーの裏ボスに転生した主人公が、ゲーマーの血が騒ぐままにレベル上げしていくうちに、なにが常識でなにが非常識か分からなくなってしまい、自分の基準で周囲を引っ張り回す話。彼女の「ちょっと危ない」は普通の人の「命の危機」。
基本がワンアイデアのバカ話なので、ほどよい長さできりがついているあたりもお薦め。
乙女ゲームの悪役令嬢転生ものというのは、そもそもオリジナルがほとんど見当たらないのが特色。他のファンタジー系創作などは、明らかにドラゴンクエストとかD&DとかFFとかメジャータイトルがあり、そこに起因するお約束が共通認識としてあるから成立しているわけですが、乙女ゲームにはそれがありません。確かに主人公のライバルとしての悪役令嬢が登場するゲームがないわけではないようですが、いざ具体的なタイトルを挙げようとするとあまりメジャーでないものが1本か2本……というくらい。それがちゃんと「悪役令嬢の登場する乙女ゲーム」というものに対する共通認識ができているのが不思議です。
むしろネタ的には昔からの少女マンガの方に起因するらしく、2013年スタートの「謙虚、堅実をモットーに生きております!」が少女マンガ転生で、今も「小説家になろう」累計ランキングベスト10に入っているこの作品あたりから増えていったと聞いています。これは確かに面白いもの。連載が中断して2年以上かあ……小学校入学前から始まって、もう高校卒業間近。3年生の夏休みの花火大会直前と、クライマックス目前で途絶えて待つ身は辛いです。もう何回、最新話まで読み直していることか。
新年こそは更新を期待したいものですね。