吉岡平は80年代から講談社X文庫で「ターミネーター」や「ポリス・ストーリー」などの映画のノベライズをしたり、富士見文庫で「e・tude(エチュード)」などアニメのノベライズをしたりしていたのだけれど、読者にとって意識すべき作家になったのが89年の富士見ファンタジア文庫の無責任シリーズから。
昭和の高度経済成長期のコメディ映画とスペースオペラを混ぜ合わせてみようという発想がエポックメイキングで、植木等そのまんまなジャスティ・ウエキ・タイラーとか、ザ・ピーナッツがモデルのユーミとエイミィの双子姉妹で「シャボン玉ホリデー」さながらの邂逅という、まさに昭和コメディの集大成+SF好きなミリオタの産物です。
こんなのがいきなり出てきたら、否が応でも次はどんな作品が来るか楽しみにせざるを得ません。
『無責任艦長タイラー』 イラスト:都築和彦(1989)
植木等主演のコメディ映画「無責任シリーズ」をオマージュして、未来戦記もののフォーマットに当てはめてしまったものが『宇宙一の無責任男』シリーズ。作品の方向性の違うアニメ版の出来が妙に良く出来ていたのでなんだけど、最初期の原作イメージにいちばん近いのが、このカセット文庫版。山本正之が植木等そっくりに唄って喋るドラマ版は傑作。アニメから入ってきた人が求めるものじゃないでしょうけど……。
『鉄甲巨兵SOME-LINE』 イラスト:そうま竜也(1989)
宇宙の地上げ屋から地球を守るために戦う、巨大ロボットアニメや特撮番組のパロディ満載の熱血ロボット小説。
ちゃんとテレビ番組のシリーズ構成に則って書いているところがポイント高し。
『妖世紀水滸伝』 イラスト:JET(1990)
第二次関東大震災によって廃墟と化して、ヤクザや私兵が跋扈する世界になっている東京を中心に、行方不明になった妹を探しに来た青年と、その妹が務めていたバーで知り合ったニューハーフの2人が暴れ回る伝奇アクション小説。本家水滸伝に倣って、一癖も二癖もあるキャラたちが敵味方となって争いながらも次第に結集していく展開が魅力。
シリーズものでもこまめに完結していく吉岡作品の中で、終わっていない続きが待たれるシリーズ。
『修羅の大空』 イラスト:富本たつや(1990)
第一次大戦に義勇兵として参戦し、はみだし者ばかりの傭兵部隊で戦うことになった日本人パイロットを主役にしたミリタリー冒険小説。つまり、複葉機版『エリア88』。
『平安京作戦』 イラスト:西川伸司(1990)
平行世界の平安京と行き来して時空間の歪みを正す高校生ラガーマンの時空冒険活劇。70年代の少年ドラマシリーズのテイストに、タイムパトロールとかの要素やら80年代SFを掛け合わせたようなSFアクション。
酷似した装丁で『9×9』という作品もファンクラブから刊行されてますが、これは『平安京作戦』がK談社で没くらって大陸で拾われる間に書かれていたもので、主人公の名前とか共通点はあるけれど同じシリーズ「じゃないんです」って。
『ユミナ戦記』 イラスト:春巻秋水(1991)
日本の神話世界に酷似した世界・由弥那(ユミナ)に召喚された高校生が、放逐された乱暴者の英雄の身代わりとして戦わされる異世界召喚英雄譚で、つまり「偽者が本物になる物語」。
和風ファンタジーというと児童文学か神話ものばかりだったところに、RPG的に再構成された西洋ファンタジーの要素をベースに組み上げた和風ヒロイックファンタジーの先駆け的作品です。
『北海の堕天使』 イラスト:安田忠幸/吉田文則(1991)
大戦前夜、トルステイン公国への親善航海にあった巡洋艦『石狩』を撃沈したのは、金髪碧眼の美女が指揮する謎の戦艦『ヨツンヘイム』だった。トルステイン公国所属の軍艦であったはずのヨツンヘイムは、国籍不明の謎の戦艦として日本とトルステインの同盟締結を阻止するために動き出すのだが……という、昭和初期の軍事探偵小説ののりで展開される架空戦記。
『婦警さんはスーパーギャル』 イラスト:森伸之(1991)
ドジでノロマな新米婦警、榛原舞美はひょんな事故から宇宙人と合体してスーパーパワーを身につけてしまった。相棒のゆり子と共に舞美は強盗やテロリストから怪獣や凶悪宇宙人まで戦って街の平和を守り抜くのだ!
新米婦警を主人公にした、愛と青春と友情のバディ・ストーリー。いわばSFアクション版『逮捕しちゃうぞ』。2巻には巻末に吉岡平略伝が掲載されてます。
『あうとふぉーかす』 イラスト:光藤公一/南天佑(1992)
まだ高校も卒業していない人気アイドル、宮沢りえのヌード写真集の発売は各方面に大きな衝撃をもたらした。写真雑誌「カメラ毎朝」もこの流れに乗らんと新時代のヌード特集をすることにしたのだが……。
写真雑誌の編集部を舞台にした連作短編集。カメラはこだわりのライカからオートフォーカスのミノルタまで、素材はアイドルから戦場まで、さまざまな人物が交差する「写真」の物語。第5話にはSF作家の笹木祐二が登場するのもポイントです。
『アキレス最後の戦い』 イラスト:居村眞二(1992)
第二次大戦の終結から2年。米、独、伊、日とかつての敵、味方をとりまぜた元兵士たちが輸送機で砂漠へと運ばれていた。核戦争を想定してアメリカが極秘裏に開発していた人工知能搭載の超弩級重戦車T‐97「アキリーズ」が暴走していたのだ……という、世界大戦のおかたづけ部隊、特殊部隊ロジャーズ・ラフネックスの活躍する軍事冒険アクション。
1993年にはアイドルとミリタリーという吉岡平お得意のテーマを融合させた新シリーズが起動します。ITCの特撮人形劇ドラマ『サンダーバード』をモチーフにしたオリジナル・ビデオアニメ『アイドル防衛隊ハミングバード』です。先日も当時のスタッフの方がTwitterでつぶやかれていましたが、『無責任艦長タイラー』のアニメ化を狙って動いていたのがタツノコのテレビシリーズにとられてしまったため、代替案として提示されたアイデアだったとのこと。
民営化された自衛隊の受け手は芸能界、パイロットがアイドルとなり、日本の空を守るために歌って踊って戦うという話で、声優がアイドル歌手としてステージに立つというスタイルを確立した作品となります。
『風邪ひきエスパー』 イラスト:槻城ゆう子(1998)
ロンドンの音楽学校を舞台に、留学してきた世間知らずの少女が階級社会のイギリスに翻弄されるアクション小説。イギリス豆知識満載の注釈付き。きみの作品は余計な雑学が多すぎると編集者に言われたらしい作者の面目躍如。超能力アクションよりは銃撃戦とか剣劇の方が成分多め。
『ハウザーモンキー』 イラスト:浅田隆(2004)
宇宙帆船の戦いを老兵が新任の候補生に語る異色作。語り口はよくある海洋冒険もののパターンなんだけれど、語られている宇宙時代の戦いがなんだかおかしな展開に突入します。真面目な話なのか、単なるバカ話なのか区別しにくいよ……。
SFアンソロジー『宇宙(そら)への帰還』収録。他に横山信義、森岡浩之、早狩武志、佐藤大輔、谷甲州という豪華な執筆陣の作品集です。
『二等陸士物語』 イラスト:るりあ046(2003)
陸上自衛隊の普通科連隊に所属する青年が進路に悩みながらも使命を全うしていく青春小説。
自衛隊の取材をして描いた「二等空士物語」「二等海士物語」と並ぶ自衛隊三部作。古い戦争ドラマやアニメなどのパロディなどを交えつつ、自然災害やテロリストから反戦団体や反戦教職員などの無理解な敵対者も含めて民間人を守る自衛隊員の物語。
『コスプレ温泉』 イラスト:間宮彩智(2003)
潰れかけた温泉宿と温泉街を失業OLがコスプレイヤーのコネクションと発想で立て直すビジネス&コスプレ小説。
『火星の土方歳三』 イラスト:末弥純(2004)
南軍の軍人ジョン・カーターは死に際して火星世界へと移行し、同じく新撰組の土方歳三は火星(バルスーム)の都に転生するや新撰組の再建に取りかかるのだが……。
『金星のZ旗』 イラスト:末弥純(2004)
ジョン・カーター、土方歳三に続き、大日本帝国海軍中将・秋山真之もまた火星に召喚されたのだが、理論派の秋山と武闘派である土方は反りが合わず、このままでは危険だと秋山は金星行きを決意する……というバロウズをリスペクトした仮想世界の軍事冒険譚。
90年代あたりから架空戦記とか近未来戦争シミュレーション小説とかの比重が増え、無責任シリーズを読まなくなったこともあって吉岡作品に触れる機会は少なくなりました。それでも、ミリタリーとアイドルとオタク趣味の三本柱を軸に、次に何が出てくるか分からない作品群はいつも愉しみだったのです。