
タイトルと「ひとりの若者が商船員をめざして、いま銀河の荒海へと船出する!」「ホーンブロワー・ファン必読」の帯にひかれて購入。
面白いけど、このあおり文句は詐欺みたいなもの。本家ホーンブロワーみたいな血みどろの激戦はないし、
『太陽の女王号』シリーズみたいな異星人も伝染病も古代遺跡もなく、本当に帯から期待されるようなものではなく、帯に書かれているままの「ひとりの若者が商船員として一人前になる」までの物語。馬車の代わりに宇宙船で、神が出てこない
『狼と香辛料』。ぶっちゃけ交易……というかフリマ小説。
母親の交通事故死で天涯孤独となってしまったイシュメール・ホレイショ・ワンは、そればかりか住むところさえ失ってしまった。ネリス星は企業惑星であり、ネリス社の関係者またはその家族以外は住むことができないのだ。
イシュメールは寄港した巨大交易船に、なんとか最下級の船員として乗り込むことができたのだが……。
司厨補助員、つまり料理人手伝いに任命された主人公の初仕事が、いかに美味いコーヒーをいれるか。話として最初に登場した食事が薄焼きパンを丸めたロール2個にフルーツ1きれ、クッキー1枚にドレッシングを添えた野菜サラダ。これが夕食と言われ、粗末だなあと思い、まん中あたりで「この船は食事がうまいことを誇りとしている」とあって嘘だあと思ったけれど、あくまで入出港時の弁当扱いなのね。普段は朝食にオムレツとか、夕食にはビーファロー肉のステーキとか、確かにけっこう美味しそうなものを食べてます。
主人公はひたすらコーヒーを入れ、食事を作り、トレーニングして、掃除して、コーヒーを入れ、船の減価償却費や維持費から利益の配当がどれくらいになるか勉強し、トレーニングして、勉強して、避難訓練して、コーヒーを入れ、手荷物に持ち込んだ品をフリマで売って小遣い稼ぎし、コーヒーを入れて、試験を受ける……そんな話で波瀾万丈の要素はどこにもないけれど、地味に面白い。
結局、ここで語られていることは18歳で家族も家も失った少年が、居場所を見つけるまでの物語で、安く買って高く売るという商売の基本で、なおかつ「やっぱり売り子は女子にかぎるね」という真理なのです。
【大航宙時代】【星海への旅立ち】【太陽風帆船の黄金時代】【ネイサン・ローウェル】【ハヤカワ文庫SF】【コーヒーメーカー】【フリーマーケット】【マッケンドリック商業組合】