many books 参考文献

好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

砂丘が動くように

2017-01-08 17:42:32 | 読んだ本
日野啓三 1998年 講談社文芸文庫版
これは去年の10月に、もと古本屋のあった場所に経営変わって新しい古本屋が開店してんのを見つけたときに、ほかのいくつかの本と一緒になんとなく買ったもの。
めずらしいね、いまどき蔵書印捺してあるなんて、前の持ち主は本が好きだったんだろう。
日野啓三は一時期好きだったんだけど、それほどたくさん読んだわけでもない。
無機物的なものが生きているかのようにとりあげる、その視点が興味深いんだけど、これは砂も砂、砂丘の話。
ゴーストライターなども引き受けるルポライターの男が、日本海側の砂丘のある街にやってくるとこから始まる。
どうも過去に心を病んでたこともありそうなその男は、そこで超能力を持ってるらしい少年や、有線テレビに不思議な番組を送り込んでいるビッキーと呼ばれる男に会って、妙に砂丘に魅かれていく。
かつて砂の被害にあって、砂防林などをつくってそれを防いできた街だけど、そのせいで砂丘はいまや死にかけていて、ビッキーたちは砂丘を甦らせようという運動をしてる。
ただ、主要登場人物たちから見れば、取り巻きの連中、砂防林の木を夜中に切っちゃえとかいって街のひとと衝突してる若者なんかは、なんもわかってない。
>彼らは砂丘そのものの物理的変化を考えるだけで、砂丘自体は比喩でしかないことをどうしても理解しない。砂丘が再び風にさらされるということは、われわれひとりひとりの意識が新しい息吹を息づくということなのだ。(p.179)
ということで、意識ってのが重要なテーマ。
意識に関しては、最後のほうにも登場人物のことばとしてはっきりと出てくるんだが、
>ひとりの人間、ひとつの世代、それぞれの時代には、きっとひとつの意識の段階が定められているんだ。努力して意識の範囲を広げることはできるとしても、一段上の意識に登ることはできないことになっているらしい。(p.206)
と、とても難しいことを言っている。
なんとなーく感覚的にはわかるような気がするんだけど。
(若いころにこういうフレーズに触れてたら、もっとビンビン反応してたと思うが。)
コメント
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