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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

綾とりで天の川

2018-05-20 18:02:45 | 丸谷才一
丸谷才一 2008年 文春文庫版
ことし1月にリサイクル書店で買った、文庫エッセイ。
今頃になって改めて読んでみて何なんだけど、著者のエッセイは、なんたっておもしろいので、持ってないものはボチボチ集めちゃいそうな気がする。
例によって謎のようなタイトルなんだけど、冒頭まえがき代わりに小文があって、由来が紹介されている。
>『あやとり入門』といふ文庫本を大事にしてゐる。(略)
>「天の川」はパプア・ニュー・ギニア。うんと長い紐で。くりかへしが多くてむづかしい。
パプア・ニューギニアの綾とり? ホントかね、読んでみたいな、その本。
こればかりぢゃなくて、このエッセイ集を読んでると、参考にしてる文献、引用してる文献の多さと広さに気づかされて、感心する。
しかもそのへん、「~の受売りですよ」とか「~によりかかつて書く」とか「~で知つたばかりのことを紹介するのですが」とか偉そうにしないで、サラッと書くとこがカッコいいし。
知識量の多さだけぢゃなくて、批評のスタンスもいいし。
>そして世の中には、他人の悪口を聞きさへすれば喝采するたちの人がかなりゐるけれども、批評で肝心なのは、中身のあることを藝のある言ひ方で言ふことなのである。(p.154「二つの業界」)
と言ってるが、それが自身で実現できている。ちなみに、これ永井荷風のやたら悪口を言いたがるって性格への批判で、「明治のころはあの手の人物が多く、小言爺と呼ばれたさうです。」なんて言ってる。
話題の内容は、ほーんと多岐にわたってて、どこからどう採りあげる題を選んでたのか、初出は「オール讀物」2003年から2005年だそうだが、レベル高い対象を想定してたんぢゃないかという気がする。
どうでもいいけど、印象に残った引用があって、
>そこで精神分析学者マリー・ボナパルトは、
>「神話は、花と同じやうに萎れ、しかし別のところで、季節と風土を同じくする環境のなかで、花のやうに再生する」
>と、うまいことを言つてゐます。(p.192「風評、デマ、流言」)
だなんていうのは、世界のあちこちに、似たような神話とか昔話が存在する、それって人類共通の心理があるからだって、河合隼雄さんの本を読んで以来、私が気になってることにつながるものがある。
ちなみに、これ、1938年に出回った「自動車のなかの死体」という噂話が、1914年に流行した「馬車のなかの死体」という話とそっくりだって話をうけて出てくるんだが、ありがちな物語が何度もよみがえることを、
>これを別の言ひ方で説明すると、風聞はつまり文学なのだといふことになりますね。(同)
って結論づけてる、おもしろい。
トリビアっぽいのも、あちこちにあるけど、なかで私が知らなかったのでオッと思ったのは、プロ野球の猛打賞を命名したのが詩人の清岡卓行さんだという話。
>簡にして要を得てゐますね。
>さすがは言葉のプロ。(p.338「野球いろは歌留多」)
って紹介のしかたが、また良かったりする。
コンテンツは以下のとおり。
・牛肉と自由
・スターとは何か
・自転車屋の兄弟の伝記作者
・吉田兼好論
・生のものと火にかけたもの
・ミイラの研究
・二つの業界
・ある婦人科医の考古学的意見
・君の瞳に乾杯
・風評、デマ、流言
・贋作の動機を論ず
・舟歌考
・批評家としての勝海舟
・『ギネス・ブック』の半世紀
・シャーロック・ホームズの家系
・野球いろは歌留多
コメント
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