P・G・ウッドハウス/森村たまき訳 2010年 国書刊行会
5月末ころに地元で買った古本、最近になってやっと読んだ。
原題「Stiff Upper Lip,Jeeves」は1963年の刊行だという。
だけど、物語は、私にとってはこないだ読んだばっかりの、1938年に書かれた『ウースター家の掟』のつづき。
登場人物も舞台となる館もいっしょ、やってることもほぼ変わんないって感じ。
トトレイ・タワーズってその場所を訪問した際、前回ひどい目にあった語り手バーティー・ウースターは、あそこには二度と行くまいと決意している。
もっとも、客人としてのバーティーにも問題あることは自身で認めていて、
>僕の話をすればだが、僕の滞在を一週間以上我慢できる主人にも女主人にも、僕は会ったことがない。実際、一週間よりはるか前に、晩餐テーブルの話題はロンドン行きの列車の便がどれほど結構であることかに傾きがちになるのが習わしである。つまりその場にいる人々は明らかに、バートラムがそれを利用してくれぬものかと切なく願ってやまずにいるということだ。二時三十五分のところに大きくバッテンをして「最高の列車。強くお勧め」と添え書きされた時刻表が僕の部屋に置かれているのは言うまでもなくである。(p.19)
なんて語っている、いいなあ、こういうユーモア。
ところが、友人のスティンカー・ピンカーがやってきて、婚約者のスティッフィーが「バーティーにやってもらいたいことがある」って言ってんで、トトレイに来てくれという。
スティッフィーのことについて、バーティーは、
>彼女ときたらごく幼少のみぎりより、人々の頭を白髪に転ぜしむるべく企図された何かしらキチガイじみた計画に着手しないことには日の沈む日の一日とてないのである。(p.28)
という評価をしてるんで、もちろん断る。
友人が困っていたら手を差しのべずにはいられないっていう、一族の掟に逆らうことは心痛むが、あそこに関わることだけはイヤだから。
ところが、これまた前作でもお騒がせを巻き起こしていた友人のガッシー・フィンク=ノトルが来て、婚約者のマデラインのやつはむかむかするとか言い出したんで、状況は変わってくる。
いろいろな行き違いがあって、もしガッシーがマデラインと結婚しないと、バーティーはマデラインと結婚しなきゃいけなくなる、それは絶対避けたい。
というわけで、結局バーティーはトトレイに出かけてって、若き恋人たちの未来のために一肌脱ごうとして、騒動になる。
館の主人であり、元判事で、バーティーを忌み嫌っているサー・ワトキン・バセットや、その友人で、でかい図体でゴリラ呼ばわりされる、ファシスト党首のロデリック・スポードと何かにつけてトラブルになる、スポードはすぐ人の首を折りたがる凶暴な人物。
それに、バーティーはバセット氏の蒐集品を盗みにきたんぢゃないかと疑いをかけられるのも、前回といっしょ。
さすがのバーティーも、
>この家には呪いが掛かってるんだ、ジーヴス。どこを見たって散らされた花々と閉ざされた希望で一杯だ。空気の中に何かあるんだろうな。こんなところを脱出するのは早けりゃ早いほどいい。(p.148)
と逃げ出したがるんだけど、状況は悪化して泥沼にはまってく一方になる。
はたしてジーヴスはその叡智をもって困りきってる若主人様を救うことができるのか、って気になるんだけど、最後は当然めでたしめでたしになる。
どうでもいいけど、このジーヴスものの世界では、用があるときは電報を打つものだとばっかり思ってたが、バーティーをかわいがるダリア叔母さんなんかは、よく電話をかけてくる。
そのダリア叔母さんが電話でバーティーに言うのは、トトレイにジーヴスを連れて出掛けるって、バセット氏はジーヴスを自分のとこに引き抜こうとするんだから気をつけなさいよ、って警告、ダリア叔母さんのコックのアナトールを引き抜こうとした前例があるので、こっちのほうの展開にも注目させられる。
なお、本書には以下の三つの短篇も収録されているんだが、これらはいずれも、私は『ドローンズ・クラブの英傑伝』で読んだことあるものだった。
「灼熱の炉の中を通り過ぎてきた男たち」Tried in the Furvace
「驚くべき帽子の謎」Amazing Hat Mystery
「アルジーにおまかせ」Leave It to Algy