E・S・ガードナー/尾坂力訳 昭和五十三年 ハヤカワ・ミステリ文庫版
また古いペリイ・メイスンシリーズを読みなおしてみた。
というのも、こないだ読んだウッドハウスの『がんばれ、ジーヴス』のなかに、
>この有無を言わさぬ生存欲求は、アール・スタンレー・ガードナーを読んでいた間にもおそらく訪れていたのであろうが、しかし僕は殺人に使用された銃と替え玉の銃とペリー・メイスンが植え込み中に隠した銃の動向に目を光らせるのにあまりにも集中していたため、それに気づかなかったのだ。(『がんばれ、ジーヴス』p.81)
なんて一節があって、へー、イギリスの若紳士でも滞在先の夜寝る前にガードナー読むんだ、なんて思ったからで。
本作には凶器として銃は出てこなかったけどね、原題「THE CASE OF THE HORRIFIED HEIRS」は1964年の作品。
プロローグとして、金持ちの未亡人が何回目かの胃腸障害から回復して退院するとこから始まるんだが、何者かが心臓の弱い彼女を狙って薬物を混入させていることを匂わせる描写がある。
それから、ようやくメイスンの依頼人が登場する、いつものように弁護士事務所に相談しにくるパターンぢゃなくて、まずは空港でトラブルにあう様子が書かれる。
遅れて出てきた自分のスーツケースを取り上げると、警察が寄ってきて、中身はなんだ、見せてくれるかという。
なんのやましいこともないので応じると、なかには身に覚えのない、小さな包みが入ったいくつかの透明な袋が入ってて、麻薬を運んでいるという情報があったのだ、同行願いたいって調子で拘束されちゃう。
取り調べを受ける彼女ヴァージニアは、前に法律事務所で働いてた関係でペリイ・メイスンを知ってたんで、電話をかけて助けを求める。
弁護を引き受けたメイスンは、さっさと開かれた予審で彼女の無実を勝ち取るが、誰が何のためにそんな罠仕掛けたのかって疑問は残る。
そうすると今度は、ヴァージニアのところへ得体の知れない男がやってきて、彼女が前に秘書として働いていた弁護士の書類ファイルを探しているという。
弁護士が亡くなった後は、農家をやってる弟のところにファイル一式は倉庫に入れっぱなしになってるが、そこへ正体の知れない男がやってきて何かを探してさんざ荒らしていく。
自分の関係した事件の協約書の写しを探しているとか言ってたが、どうやら男が探しているのは遺言書の写しではないかとメイスンは推測する、遺言書にはヴァージニアが証人として署名するんで、その関係で彼女がトラブルに巻き込まれてんぢゃないかと。
そうこうしてると、ヴァージニアは金持ちの未亡人から重要な秘密の件で会って相談がしたいと呼び出されて、メイスンからは家にいろと言われてたけど、指定の場所に出かけてく。
メイスンもそこへ出かけてくんだが、当の未亡人は来てなくて、途中の海岸沿いの道で別の車にぶつけられる事故にあい、彼女の車は崖から転落した、運転手は助かったが、未亡人は見つかっていない。
ぶつけた車はヴァージニアのものだってことで、自分はその時間は室内にいて運転してないって言っても、容疑者にされちゃう。
それにしても、依頼人の車に衝突事故あった損傷を見つけたとたんに、その場で自分の車と依頼人の車をぶつけて、車の傷がなにがなんだかわかんなくしちゃうとかって、あいかわらずスレスレの行動をメイスンはとったりするんだが。
かくして、死体がまだあがらないって異例の状況のなかで、予審が始まるんだが、いつものように圧倒的不利と思われる立場からメイスンは逆転を図る。