高島俊男 2008年 文春文庫版
ことし3月ころに街の古本屋で買った文庫。
前に読んだ『お言葉ですが…』のシリーズである、9冊目ということらしいが、私は1と2しか読んでない。
出版された順番に読んでくのがベターなんだろうが、まあいいでしょう、言葉をめぐるエッセイだから、とびとびに読んでも。
初出は『週刊文春』の2003年から2004年にかけてのころで、本書は連載順というわけではなく、だいたいの似たテーマべつに集めた章立てになっている。
タイトルの「芭蕉のガールフレンド」ってのは何のことかっていうと、古くから日本語では、男が女に手紙を書くとき、相手を呼ぶ言葉がないって話、「貴兄」「貴下」「貴殿」「あなた」「君」、そういうやつ。
で、芭蕉は親しい年上の尼さんに書いた手紙のなかでは「そこもと」を使ってる。
芥川龍之介は、「文ちやん」「文ちやん」と相手の名前を連発してるんだけど、結婚したあとは「お前」になったと。
いまの若い人は手紙なんか書かないだろうからそこらへん苦労を感じないんだろうけど、って2003年の時点で言ってますが。
全然ちがう話で、現代の「ファミレス敬語」ってのにも、当然と言えば当然だが、文句を言ってるんだけど、この話もおもしろい。
「〇〇になります」とか「〇〇のほう」とかってやつだけど、「よろしいですか」が嫌いだという。
>ちかごろの娘は、「よい」(もしくは「いい」)の丁寧語が「よろしい」だと心得ているのではないか。折々そういう場に出くわす。
>「よい」が「優」あるいは「良」だとすると、「よろしい」は「可」である。上の者が下の者に対して「一応合格」とやや横柄に容認するのが「よろしい」だ。(p.148)
というわけで、「お茶のほう、よろしいですか」だなんて言わずに「お茶はいかがですか」と言えないのかねえってんだが。
そこで、この変な敬語っぽい言葉づかいは、実は約20年前(←2003年の20年前だな)ファミレスが増え始めたころ、リクルート社が接客ビデオを制作してマニュアルとして広めた、って裏事情が披露されてんだけど、それは知らなかったなあ。
どうでもいいけど、いつも著者はいろんな本読んでていろんなことを知ってるなあと思わされるんだけど、本書には、
>小生の枕元というのは、伏せた本やら開いた本やらがそこいらじゅうにひろがってかさなり、その上にほこりがつもって、へたに手を出すとほこりが舞いあがって不衛生ゆえなるべくソッとしてある、したがって下のほうには何があるかわからぬという(略)(p.228-229)
という、いかにもって感じの本の虫的な一端が明かされていて、妙におもしろかった。
コンテンツは以下のとおり。
やせっぽち一代記
武蔵にいたころ
管弦楽組曲二番
北陸心の旅路
泣きの涙のお正月
サンライズ瀬戸
ケンケンガクガク?
やせっぽち一代記
今やひくらむ望月の駒
どうせ俺らは玄カイ灘の
今やひくらむ望月の駒
パンツ・ステテコの論
語ラザレバ憂ヒ無キニ似タリ
台湾天下分け目
国境の長いトンネルを抜けると……
長野県がなくなるの?
芭蕉のガールフレンド
文ちゃん文ちゃん
芭蕉のガールフレンド
騎馬民族説と天皇
かごかく 汗かく あぐらかく
犬かき べそかき 落葉かき
ファミレス敬語はマニュアル敬語
オカルト旧暦教
門弟いろいろ
こいすちょう流
蘇峰、如是閑、辰野先生
門弟いろいろ
ドイツ語教師福間博
乃木大将と鷗外
殉死パフォーマンス
佐々成政の峠越え
柳田の堪忍袋
柳田の堪忍袋
浪人猪飼某の話
蓑虫のやうなる童
日本人は説教好き?
『キング』と『主婦之友』
『銀の匙』の擬制擬態語
法務省出血大サービス
苺ちゃん、燕くん
法務省出血大サービス
「人名用漢字」追加案
カタカナ語には泣きます
ボケの神秘
痴呆の歴史
アホはどこから来たかしら
役割に生きる日本人
論文は何本?
壬申の乱、応仁の乱、大塩平八郎の乱
サルと猿とはどうちがう
七時十分になりました
役割に生きる日本人
チャレンジ!
「背伸び」の衰滅