many books 参考文献

好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

55歳からのハローライフ

2018-10-13 17:08:06 | 読んだ本
村上龍 平成26年 幻冬舎文庫版
ひさしぶりに村上龍を読んでみたくなって、ことしの8月ころだったか買った文庫。
買う前から、買ったあとしばらくしてようやく読み始めるまで、タイトルを誤認してた、「ハローワーク」ぢゃなかったのね。
てっきり、職業とかセカンドライフとかについての人生論的エッセイかルポだとばっかり思い込んでたら、ちがった、連作小説集だった。
『13歳のハローワーク』のタイトルだけセルフカバーというかもじりで小説にするとは、なかなか凝ったことで。
主人公たちは、だいたい55歳過ぎたくらいで、著者あとがきによれば、“何とか「再出発」を果たそうとする”“「普通の人々」”ってことになる。
読んでて、うわー村上龍がこういう人物に起こるこういう出来事について書くんだー、と、ちょっと意外に思った、だって基本泳いでないと死んぢゃうサメのようなキャラを書くようなイメージあったから。
「結婚相談所」
54歳のとき離婚した中米志津子さんは、マネキンさんと呼ばれるスーパーの試食販売の仕事をしてたが、主に経済的な理由で結婚相談所に登録して再婚相手を探し中。
「自分の人生を自分で選べる人って、限られていますよね」なんて考えをもつ彼女は、何人かの男性と会ってみて、自分が求めてるのは変化なんぢゃないかと気づくんだが。
んー、「55歳からの~」ってタイトルで、しょっぱなを男ぢゃなくて女性を主人公にたててきたのは、意表をつかれた。
「空を飛ぶ夢をもう一度」
因藤茂雄は6年前54歳のとき小さな出版社をリストラされて、以来地元の新座市には仕事はなく、派遣登録して主に都内の道路工事の交通誘導員を腰痛と戦いながら仕事にしてた。
いつのころからかホームレスをみかけると、とても不安な気分になるようになったんだが、あるとき工事現場で中学のときの同級生と偶然会う。
そいつは最初自分からは明かさなかったけど、家を飛び出してホームレスになってたらしい。
山谷の旅館の料金が一律2200円なのは生活保護の住居費が月額66,000円だからって、ホントかどうか知らんが、リアルな情報でそういうのは勉強になるなあ。
「キャンピングカー」
富裕太郎は早期退職制度に応じて定年になり、家のローンは完済、息子も娘も働いていて、なんの不安もなかった。
ところが、かねて計画してた1000万くらいのキャンピングカーを買って妻と日本全国を好きなように旅しようって話を持ち出したら、家族の賛同は得られなかった。
いろいろ考えて再就職のために動き出したが、家具メーカーの営業職だった定年の男には、かつての取引先にも取りあってくれるところはなかった。
「ペットロス」
高巻淑子は6年前に定年退職した夫とともに川崎と横浜の境にある4LDKのマンションに住んでいる。
夫は退職以降は書斎でパソコンに向かいっぱなし、30歳過ぎた息子は結婚してすぐベトナムに転勤で行ってしまった。
淑子はかねてからの夢であった柴犬を飼うことにして、河川敷あたりを散歩させてるうちに犬つながりで新しい知りあいもできた。
「トラベルヘルパー」
下総源一は三重県で海女の祖母に育てられたときからおしゃべりな男になった。
両親の離婚後ほとんど会ってない父親と同じトラックドライバーという職についたが、60歳で会社から切られた。
退職になってからは、金のかからない趣味として家で本を読むようになったが、ある日のこと古本屋で、歳のころは五十そこそこ、派手さはないが、細面できゃしゃな体つき、清楚でソプラノの声の持ち主の女性客にホレてしまった。
どうでもいいが、現役ばりばりの80年代、長距離を大型で走るのに「大好きな荻野目洋子のカセットを大音量で鳴らしながら」だったってのは、いい趣味だ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

宇宙製造者

2018-10-08 17:43:47 | 読んだ本
A・E・ヴァン・ヴォクト/矢野徹訳 昭和四十六年 ハヤカワ文庫版
昭和五十四年八刷の文庫だが、年に意味はない、私にとってはことし五月に『スラン』見つけたときに一緒に何冊か買った古本。
原題「THE UNIVERSE MAKER」、1953年の作品。
物語の冒頭は1953年から始まる、酔っぱらったアメリカ軍中尉が車を並木に衝突させて同乗してた女性が死んでしまったのに届け出ずにその場から逃げてしまう。
朝鮮戦争か何かに行って一年後に大尉になって戻ってきたところ、死んだはずの女性から呼び出される。
そして、あーっという間にタイムスリップ、2391年の世界へと飛んでしまう。
そこにはフローター族(空中漂泊族)、トゥイーナー族(都市生活者族)って人間たちがいて、それとはべつにシャドウズ(影の連中)ってのが支配階級っぽい存在している。
ちなみに、フローターズってのは、プレアニック(自然愛好者)のなかのひとつの種類で、決った仕事や家を持たないで、フローターって呼ばれる光をエネルギーとしてる乗り物で空飛んでるひとたち。
人々が空に漂い始めたのは、「二十一世紀となる直前」とされている、そうなんだよな、そのうち車が空を飛ぶだろうってのがSFの基本線だったから。
>二〇一〇年には、合衆国で千九百万人がフローター族あるいは自然愛好者(プレアニックズ)になったと見積もられていた。家に留まっている大衆はショックをおぼえ、経済学者たちは空へ流出してゆく人口を地上にもどすための手を何か打たなければ、土地が大変なことになると予言した。(P.126)
なんてありますが、残念、2018年現在まだそんな簡単には空には浮かび上がれません。
さてさて、それはいいとして、主人公の大尉は、それぞれの族がどんな素性の連中なのかわかんないまま、追っかけまわされたり、捕まったりしてるうちに、最初に2391年に来た時点に戻ってしまう。
ところが前回そこへ来たときのこと憶えてるから、タイムパラドックスっつーのか、話の展開ややこしくなる。
そもそもがなんで2391年につれてこられたかというと、殺されるためだっていうんで、逃げなきゃならないんだが。
なんで殺されるかっていうと、1953年の殺人の罪で、被害者の子孫の不安定な心理を調整するために、その原因たる事故死の影響を取り除かなきゃならず、よって犯人の大尉が殺されることが必要なんだと。
うーむ、なんかすごいことになってるが、どうやら「影の連中」というのが時間をどうにかいじれるらしく、人々の行状がよくなるためにとか、ノイローゼを治すためとかって理由で、過去を変えるなんて荒業にもおよぶらしい、理解に苦しむ。
そんな世界で、殺される状況からは逃れつつ、大尉はある勢力と結びついて、朝鮮戦争で鍛えられた腕前をかわれて、戦いに重要な役割で参加してくことになるんだが、途中はるか未来の7301年から来た人とも会ったりして、なんだか本当にわかんなくなってくる。
最後は主人公が宇宙製造者ってことになるんだけど、めでたいのかなんなのか。
巻末の訳者による解説というかヴァン・ヴォクトに関する文章を読んだら、なかに、
>かれの作品の中に、ときどきわけのわからない文章が出てくるのは、かれ自身の心の中に“狂気”あるいは“混乱”があるからであろう。ぼくにはどうしてもかれの心の中に、正気と狂気が同居していると思われるのだ。
なんて書いてあって、そーかー、わけわかんなくても心配しなくていいんだー、と安心した。
なんでも1953年に面会したときには、すでにインチキっぽい精神分析療法とかに夢中になってしまっていて、
>(略)あらゆる病気を心の持ちかたで直すというダイアネティックスなどに、かれは頭からのめりこんでゆき、しまいには小説が書けないまでになっている。
ということなんで、なんだオカシイひとの書いたものだったのか、と妙に納得。
ダイアネティックスって何か聞いたことあるぞと思って、見かえしてみました、マーティン・ガードナーの『奇妙な論理』。
SF作家が1948年ころまでにこしらえた新しい心の科学だそうで、すべての精神身体医学的疾患を治す技術なんだと。
すべての異常の原因は「エングラム」で起こる、エングラムってのは無意識のときに心に記録されちゃったもので、これを取り除くのが治療のキモ。
ただ困ったことに無意識のときの記録をさかのぼってくと、出生前の記憶までたどりついちゃって、胎児時代のことくらいまでならいいけど、前世での死を思い起こせとかってとこまでいくらしい、やれやれ。
かくして、そういうのにハマっちゃった作家は、こういうのを書くことになるらしい、そりゃ難解なのは無理ないわ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

絵具屋の女房

2018-10-07 17:16:05 | 丸谷才一
丸谷才一 2007年 文春文庫版
どうにも近ごろ丸谷さんの本で持ってないのを見かけると買わずにいられないようなことになってて、ことし5月に中古で手に入れたエッセイ集。
またシャレたタイトルで、べつに絵具屋について書いた章があるわけではないが。
巻頭言として、はじめての文房具屋に入るよろこびのようなものにふれたうえで、
>絵具屋にはいるのも好きだ。色も色の名前も心を刺激する。
なんて書いてあるだけ。以前は絵を描いたらしいけど、それは知らなかった。
初出は2002年から2003年の「オール讀物」で単行本も2003年なんだが、偶然にも昨日とりあげた町山さんのと時期がかぶってるから同じような話題もある。
アメリカでは生きものは神がつくったものだから、学校で進化論を教えちゃいけないなんて争いが起こるのをとらまえて、
>さてわたしは、アメリカ人の友達に言つた。
>「こんな具合に、アメリカのキリスト教徒は、知性の低いのは本当に低くて、非常識なわけです。そしてその程度の悪いキリスト教徒に支持されて大統領になつたのがブッシュで、そのため彼は神の戦争を宣戦布告する強い大統領を演じてみせなければならなかつた」(p.252「ちよつと政治的」)
なんてのが、それ。めずらしいね、政治的な話。
日本の天皇についてもドキッとするような話があって、明治天皇と大正天皇は実母が皇后ではないから養子なんだという。
まあ、それだけだったら、物の見方というか手続き上としてはそうなんだろうけどというとこなんだが、なぜ后の養子になるのかの考察からすごいことになる。
>しかしわたしとしては、これは一夫一婦制への遠慮ではなく、やはり女系家族制の名残りだと思ふ。帝は后の家へ婿入りしたといふのが建前なのであるから、そこで后によつて皇子が生れず、側室による皇子を皇太子として立てるときには、后の養子になる形をとつたのでせう。(p.141「養子の研究」)
って、天皇って婿なんだ? 古代から臣下の貴族たちの望みといったら、娘を天皇のとこいかせて生まれた子どもを将来は皇位につけるってのに決まってるんだけど、あれって嫁にやったんぢゃなかったんだ、婿にしたんだ、だから孫が産まれると御舅さんがいちばん権威あるんだ。
それだけでも驚いたのに、その後の、
>そしてこの考へ方でゆけば、よく問題になる、天皇家にはなぜ家名がないか、といふこともあつさりと答が出る。なぜあの家には家名がないか。そもそもさういふ家がないからです。(同)
って結論は、もっとすごいと思った、へええ、そういう考え方がありうるんだ。
おもしろい見識は、学者の話なんかになると、さらにさえるとこがあって、
>学問とはしばしば、真実のためにはやむを得ないといふ口実を設けて、柄の悪い話をする作業なのである。
>ニーチェの哲学なんかはその典型で、あれはちよつと頭がいい人なら少年時代から気がついてゐるが、しかし慎み深いたちなので口に出すのを控へてゐる類のことを最初に書き散らしたから、人間性へのすごい洞察だなんて評価されたり尊敬されたりすることになつたのだ。(p.218「インディアンと野球」)
なんてのは、なかなか毒があって楽しい。
そんなのに比べると、
>これはわたしの持論なのだが、戦前の日本の知識人は二派に分類できた。長谷川如是閑を敬愛する者と、徳富蘇峰を尊敬する者である。この両派は劃然と分れてゐた。如是閑も偉いが蘇峰もいいなんて、そんな事態はあり得なかつた。(p.98「徳富蘇峰論」)
なんてのは不勉強な私には何を言っているのかわからないが。
もっとも、そんな固い学問論ばっかりぢゃなくて、どうでもよさそうなことを大マジメに考察するところがエッセイのおもしろさだったりする。
>英米の本のデザイナーは、下に帯をかけなくていいから、つまりカンヴァスいっぱいに絵が描ける。描く自由が存分に与へられてゐる。日本では下の六センチ弱が取られてしまふ。四畳半のなかに屏風を持ち込んで立てるやうなものぢやないか。どうしてあんなことをする必要、あるのかね。(略)半紙で包んでから祝儀袋に入れるとかさういふ日本文化の型が、本の場合にも出てゐるのか。(p.71「本のジャケット」)
という話は、やがてバーコードってのは不快な意匠だってのにつながっていくんだけど、なかなかいいですね。
コンテンツは以下のとおり。
「吉良上野介と高師直」
「あのボタン」
「英雄色を好む」
「本のジャケット」
「木下藤吉郎とポルターガイスト」
「剣豪譚」
「徳富蘇峰論」
「薬を探す」
「養子の研究」
「塀の中」
「チーズと甘栗」
「先生の話術」
「猪鹿蝶」
「ちよつと政治的」

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

底抜け合衆国

2018-10-06 17:33:11 | 読んだ本
町山智浩 2012年 ちくま文庫版
町山さんの書くものはおもしろいので、映画評論以外のものも読んでみたくなった。
副題は「アメリカが最もバカだった4年間」、具体的には2000年から2004年まで。
ゴタゴタの選挙でブッシュが大統領になっちゃって、911でヒステリックになって、イラクに戦争しかけて、ブッシュが再選しちゃうまで。
4年間に新聞とか雑誌に載せたエッセイを集めて、2004年に刊行した単行本に、文庫では「2004年大統領選挙日記」が加えられたようで。
著者は当時家族といっしょにオークランドに住んでたそうだけど、
>住んでから一年以上経ってようやく、ここがどういう場所なのかわかってきた。早い話、全米で最も危険な街だったのだ。(p.123「三丁目はもう戦争です!」)
なんて怖いことになってる、2002年に人口40万の都市で殺された人が102人だって。
そのへんは長引く不況とかが関係してるらしいけど、それにしても、そのころの戦争イケイケの翼賛体制になってるアメリカのさまは不気味だ。
テキサスでゴッド・ブレス・アメリカの歌が流れたときに起立しなかった少年が群衆に袋叩きにされるとか、60歳の弁護士が「戦争反対」ってTシャツを着てたらニューヨークのショッピングモールで入店拒否されて、抗議したら逮捕されちゃったとか。
あと、勉強になるのは、アメリカのメディアってのは支配してる資本で偏ってるってことについて。
FOXニュースってのは、ブッシュべったりで、その視聴者は他のニュースを見てる人より、イラクに大量破壊兵器があったと信じてるひとが多いとか。
アメリカ軍を讃美するばっかりで、イラクの民間の被害なんか絶対に報じなかったそうで、FOXとCNNぢゃ全然スタンス違うって、どっちも見たことないからピンとこないけど。
でも、そこんとこでメディア企業を買収して覇権争いになってるさまを、『007/トゥモロー・ネバー・ダイ』って映画を引き合いに出してくるのは、さすが映画評論家らしい。
メディアの変化について、もうひとつあげられてるのは、ラジオのこと。
クリア・チャンネルというブッシュを支援してるテキサスのラジオ局が、全米の6割を買収して、リベラルなDJや企業のCMを無くしていった。
コンサートのプロモーターから金をうけとり、レコード会社が予算をかけた曲だけをガンガンかけつづけるという放送スタイルになったそうな。
で、たまにトークをする人物がでてくると、これがいわゆる右翼DJ、愛国心を鼓舞して、マイノリティを罵倒する。
これが、意外にもけっこう影響力あるらしく、選挙なんかで片方の候補者への支持を呼びかけるとリスナーは現実に動くらしい。
>それにしても、今やハワードこそがアメリカ、いや、世界の運命を決める大統領選のカギを握っているのだ。世界でいちばん下品なDJが!(p.270-271)
って著者はいうんだけど、そのあとに「これだから、やっぱりアメリカって好きさ。」って言うのがいいねえ。
あと、2004年に、ブッシュを落選させるために『華氏911』をつくったマイケル・ムーアがよく登場するけど、彼の発言はおもしろい。
2002年のイラク開戦前に、ブッシュが「アメリカは絶対に負けない」とか言ってるのに対して、
>しかし、絶対に負けないなら、それは戦争じゃない、侵略とか虐殺と呼ぶんだよ(p.114「「僕はニュースを読み上げるだけのニュース・キャスターじゃない。人間だ」」)
って言うのは、鋭いと思う。
ちなみに著者は、ムーアへのインタビューのときに、1971年の映画の引用を指摘して、
>今まで数え切れないほどのインタビューを受けたけど、『オメガマン』を使った理由に気づいたのは君だけだ。ありがとう!(p.110同)
って喜ばれるオタクぶりを発揮している。さすがだ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする