こんにちは。矢本です。
前回ホンハイ精密工業という会社を紹介しました。世界的なハイテク商品(iPhoneなど)を多数製造していて、シャープの4倍もの売上を上げていて、利益率も良い企業です。そしてシャープの筆頭株主になったニュースを書きました。
しかも、事業展開の構図は明確であり、
「日本の大手電機メーカは部品製造、組み立て、販売まで一貫した垂直統合モデル。工場も持つ」 VS 「台湾企業は、まずコスト競争力のある組立を請負(組立は中国)、技術を吸収して付加価値の高い部分(電子機器部品、ソフト)に事業拡大する」
ということは80年代から公表されていました。
更に、「付加価値の低い組立部分を日本国内の工場で実施するのはコスト的に限界がある」&「ハイテク家電は価格下落が激しくコモディティ化しやすい」ために、台湾企業の戦略が合理的と言われていました。
よって、記者会見で、「垂直統合型モデルの時代は終わった」とシャープは発言しましたが、今さら発言するほどのことはありません。80年代から言われていましたので。
さて、これからが今回の話しです。
この台湾企業の事業展開の根拠の一つに「スマイルカーブ」理論という話があります。台湾のパソコンメーカーエイサー創業者スタン・シーが80年代に提唱したものです。電子機器製造業においては、技術革新のスピードが速く、付加価値(収益)は部品やサービスが高くなり、組み立ては低い。以下のグラフのように、スマイルのようなカーブを描きますので、スマイルカーブと言われています。
台湾企業(韓国企業も)、事業を組立の受託から、徐々に付加価値の高い、部品製造(そして設計)、ソリューションやソフト販売などに手を広げてきています。組み立ては人件費の安い中国の工場を利用していますので、さらに日本企業とはコストの差がつきます。
ですから、ホンハイがシャープを救済して筆頭株主になったのも、ある意味教科書どおりの結果だと思っています。
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じゃあこれからの日本の製造業はどうなるでしょうか。
一言でいえば「製造業から設計業へ」ということになりそうです。
今後の製造業について、技術経営でいわれていることを書いてみます。当たるかどうかわかりませんが・・・。X年後のお楽しみです。なお、これは複数の出典から抜粋したものなので、箇条書きでご容赦ください。
・組立部分が急速に国内からは消失、アジアへその製造拠点を移した企業だけが生き残る。
・特にハイテク電化製品の分野は、コモディティ化による競争と価格下落が激しく、数年かけて投資を回収することは難しい。よって工場は今後益々減少する。
・残った製造業には国内に組立工場はなく、設計業・サービス業が中心となる。
(ただし、即納の品揃えをもったコンビニのような便利さを売る製造業だけは国内にも工場が残る)
・人間のセンスや感覚、知恵やノウハウを要する、設計やサービス業、コンサルティングなどは生き残るが、この分野は従来の日本では市場が小さく、国内市場だけでは上手く育たない。海外で評価された企業だけが、グローバルな生産ネットワークと連動して生き残る。
どうでしょうか。マクロな議論ですが、当たり前のことも多くて、全体的にそんな感じはしますけど。
結局、海外市場で評価されないといけない、しかもサービスなどの日本独自の付加価値部分で、というところでしょうか。
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さて、最後に私が主査(会長)をしております、技術経営の研究会のご案内をさせてください。
書籍のネタを探している方、自分のネタにコメントを貰って中身を膨らませたい方、学術論文でハクをつけてビジネス書の出版に持ち込みたい方、何より技術経営に興味がある方は、ぜひ日本開発工学会「ビジネス・イノベーション研究会」を一度見に来てください。
初回見学無料です。学会は日本の技術経営の老舗学会ですので、論文も皆さんの履歴書に書ける学術業績になります。すでに中小企業診断士の方も8名登録しており、2名の方が発表して学会誌に論文が掲載されました。学会と言ってもビジネスマンが中心ですので、診断士の研究会以上に(?)自由な意見交換ができます。
以下に簡単にご案内をします。
・日時:5月23日(水)19時から21時
・場所:中央区立産業会館
・住所:東京都中央区東日本橋2-22-4
・地図:http://www.chuo-sangyo.jp/access/access.html
・通常は参加費1000円ほど頂戴します(会場費・コピー代等、残額は学会にプールします)。初回見学は無料です。
次のアドレスを開いて、出欠を○×で記入してください。
http://kanji.kodama.com/note.aspx?ac=x0pi2ktnhwdq5ev4
次回発表は以下の2件です。
・テーマ:『 日本の携帯電話の製品進化軌道の可視化 』日本電気(株) 吉田 廣(ヨシダ ヒロシ)
・要旨: 携帯電話が世界中に普及する中、日本の携帯電話は、世界に先駆けて高機能化を実現させたにもかかわらず、国際競争力を失った。この問題は学術的な根拠はなく十分な解析がなされていない。そこで、携帯電話の製品のデータを進化分析にすることで、日本と海外との戦略の違いを明確にした。軌道分析の成果を報告する。
・略歴: 1987年NECエンジニアリング㈱に入社、通信関連の開発に従事、携帯電話の第2世代、第3世代の基地局の開発に15年携わり、その後2011年日本電気(株)へ出向、スマートエネルギーの装置の開発に従事(現在)。2008年芝浦工業大学大学院工学マネージメント研究科(MOT)、2012年芝浦工業大学大学院博士(学術博士)。本学会会員。
・テーマ:『最高経営責任者(CEO)の戦略軌道の可視化』(株)イー・ブランド21 代表取締役 小平 和一朗(コダイラ カズイチロウ)
・要旨:日本の製造業は、良く戦略無き企業集団といわれが、実際に取り組まれた技術経営戦略はどうだったか。CEOの戦略および意志決定の変遷を有価証券報告書から得られる研究開発投資、設備投資、営業経費などの投資推移データを軌道分析することで、戦略の可視化に取り組んだ。軌道分析研究の成果を報告する。
・略歴 : 1970年大倉電気入社、開発部門に従事、技術部長、商品企画部長、社長室長、情報機器営業部長、情報通信事業部長、2002年丸紅ネットワークシステムズ技術部長、2004年㈱イー・ブランド21代表取締役(現)、2007年芝浦工業大学大学院博士(学術博士)、電気通信大学技術経営実践スクール講師(現)、(社)日本MOT振興協会事務局長(現)。本学会・理事、「開発工学」編集委員長(現)
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