こんにちは。塾長の鴨志田栄子です。
本日は、合宿でさわりを紹介した因果関係分析法について、自分の体験を踏まえて、紹介したいと思います。
私は、これまで、自治体において、政策形成研修の講師をする機会が多くありました。政策形成技法として①SWOT分析法(強み、弱み、機会、脅威の分析)、②カードを用いたブレーンストーミング法(アイデア出し)、③因果関係分析法(現状をなぜ?なぜ?と原因分析を行い、その内容を基に事業案を検討していく)などがあります。この中で、若手職員向けの研修では、私は3つ目の「因果関係分析法」を活用することが多くありました。
※自治体の政策形成は、民間企業では戦略立案に相当します。
1.因果関係分析法とは
因果関係分析法は、文字どおり原因―結果がどのようになっているかを分析する技法で、原因を真因、主因、近因、遠因などに分けて、因果関係の正しい把握をして、その結果をもとに、よい政策、戦略の策定を目指していくことを最大の狙いとしています。与えられた課題について、因果の関係を正しく見極めることが、問題発見・解決ひいては政策、戦略の策定に大きな影響を与えることになるのです。
因果関係分析を行う時は、下図のように、模造紙に因果の枠組みを描き、付箋紙を使って、原因分析を行います。1つの原因が1つの結果をもたらす場合だけではなく、複数の原因によって、1つの結果をもたらすケースの方が多いので、多面的に展開をして整理するとが大事なポイントではないでしょうか。
2.因果関係分析法を活用するメリット
因果関係分析法を活用するメリットを以下に述べます。
(1)現実に目を向けられる
現実に目を向けることができます。アイデア出しの方法では、限られた知識でアイデアを発散していくので、研修のような短い時間では、ありきたりの発想に留まることが多いのですが、因果関係分析法を使うと、「なぜ、これができていないのか?」など、現実の問題点に意識を持っていくこと可能となり、現実に即した対策に結び付けることができました。
(2)論理的思考力を高められる
「なぜ、この問題点が生じたのか?」というように原因を検討したら、今度は、「これが原因で、このような問題点が生じている」と逆方向で戻ってこられるかを確認します。すると、その因果関係が成立しないケースが多々でてくることもありました。これは、原因を考える思考において、原因ではなく、状況説明になっていたり、苦し紛れに無理やり原因として挙げてしまったりということから生じていました。このように、物事を多面的・多角的に捉えていくことが求められ、この経験が、論理的思考力を高めていくことになると考えます。
(3)説得力のある対策が講じやすい
原因、すなわち、問題点を多面的に展開していので、何を改善・解決したらよいかということについても、多角的に、かつ、多くのことが見えてきます。現状を掘り下げた分析であり、因果関係に基いて誰もが共感できる内容が展開されているため、説得力があり、関係者の合意を得やすい対策を講じることが可能となります。
3.因果関係分析法を活用する上での注意事項
因果関係分析法を活用する上で注意したい点を以下に列挙します。
(1)因果の捉え方が価値観によって異なる
因果の捉え方、すなわち、原因と結果が、分析に関わる人の価値観によって異なることが生じます。いわゆる「ニワトリとタマゴ」のジレンマの話と同様です。たとえば、「商店街が空洞化したのは、地元の人が商店街で買物をしないから」または「地元の人が商店街で買物をしないのは、商店街が空洞化しているから」といった議論になるので、その時は、分析に関わっているメンバー間でどちらが今の状況にとって重要な視点なのかを見極めていく必要があります。
(2)当事者意識に戻す
原因分析をしていると、「○○ができないのは予算がないから」「○○ができないのは人がいないから」といった制約事項や、「観光客が少ないのは、観光客が自然の良さを知らないから」など、当事者意識に欠けた他責的な原因が多々でてきました。原因を展開した後、対策検討に転じる時に、補完または代替手段として何があるのか、自分たちの対策や行動に問題はないのかといった当事者意識を持った思考プロセスに切り替えていく必要があります。
(3)漠然とではなく、細かく具体的な表現にする
研修で見られる傾向として、漠然とした抽象的な表現が多くありました。たとえば、「人口減少」「PR不足」「情報不足」などです。しかし、内容をよく吟味すると、単なる「人口減少」ではなく「○○世代の人口の流出」であったり、「PR不足」はPRの手段が不足しているのか、PRの内容が弱いのかなど、解釈が分かれます。漠然と原因分析をしていくと、必ずと言ってよいほど、壁にぶつかりますが、具体的な切り口で、細かい原因分析を行うことで多面的に多くの事象を捉えることができます。
因果関係分析法は、通常の業務でも応用できます。研修効果も大きいと感じていますが、初めてトライする人にとっては、意外と難易度が高いのも事実です。コンサルタントなら、経験を積んで習得したい技法の一つであると実感しています。
私の知っている「なぜなぜ分析」はなぜを何回も繰り返すこと(例えば5回)で真因にたどり着くもので、英語で5Whysと呼ばれているものです。最初のWhyでは、どちらかというと表層的な原因なので、Whyを繰り返すことで本当の原因=真因にたどり着くというものでした。
先生が挙げられた図を見ると、Whyを繰り返すごとに真因から遠ざかるように見えるのですが、私の知っているものとは手法的に異なるものなのでしょうか?
それとも実は真因の定義が違っていて手法的には同じものなのか、次回の講義のときにでも構いませんので、教えていただけると幸いです。なんとなく、遠因とされたところを真因と呼んでいたのか、とも思ったりしております。
私は研修では、以下のように進めていました。
①テーマを与え、自分たちは、どうありたいのか、どうあるべきなのかというビジョンを描いてもらいます。
②それを実現するための課題として何があるのか?を考えます。
③その中から、解決の優先度が高い課題を取り上げて、課題表現から問題点表現に変換して、真因として設定ます。
④その後、なぜなぜ分析を行い、主因、近因、遠因と掘り下げていきます。
⑤最終的に、課題解決策を体系的にまとめていきます。
いろいろな活用方法があるかと思います。ご参考まで。
なるほど、自分が実現したいテーマから掘り下げると、そういう論理展開になるのですね。イメージがつかめた気がします。私が知っているなぜなぜ分析はトラブル対応でした。つまり、起こってはいけない事象から掘り下げるので、逆になっていたのかなと思いました。またの機会に参考文献などご紹介いただけると幸いです。