事務局の大井秀人(20期)です。
今期の勝手連載、「先達・先輩から学んだこと」の第3回です。
前回までは新入社員の頃の経験談でしたが、今回は、少し時が進み30歳前後のことを書きたいと思います。当時の私は、シミュレーション技術者として入社し5年、自分で言うのも何ですがエンジニアとして油がのってきました。そんな中、30歳のときに転機が訪れます。2000年前後のITバブルの波で、研究所のシミュレーション技術をソフトウェアにし外販事業にするというプロジェクトが立ち上がりました。そちらに異動になりました。
ちなみに前回のブログはこちら。
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視点のルーツをまとめる(第1回)
新人のときに学んだ基本動作(第2回)
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その商品は、1000万円もする樹脂成形シミュレーションという専門性の高いソフトウェア。お客様も、自動車や電機関連メーカーの開発部門と限られます。一方、立ち上がった新事業部署は技術者集団で、ソフトウェアを作れても売り方がわかりません。しかも、問合せがあった見込み顧客、全部を受注したらやっと予算達成みたいな厳しい状況です。
そんな状況ですので、すべての見込み客に部署挙げて全力対応です。投入労力も相当なもの。ベンチマークというタダ働きを強いられることも多く疲労感は相当で、失注したときの喪失感は半端ないものでした。そんなとき、ITベンダーから営業マネージャーが転職してきました。私は何故かその方に気に入られ、技術担当としてよく同行営業していました。当時の自分には想像もつかなかった営業の方法を目の当たりにしました。その経験から学んだ3つのポイントをご紹介します。
1.営業は確率論だ
「すべての見込み顧客に全力で対応する必要はないです」彼がまず提案したのは、この考え方でした。買う確率が低い顧客に大きな労力を割くのは非効率だというのです。彼は、顧客を次の3つに分類して対応しました。
- 潜在顧客:まだ具体的なニーズが顕在化していないお客様
- 見込み顧客:数年以内に購入の可能性があるお客様
- 今期購入が見込める顧客:早期の対応が必要なお客様
さらに、各層に対して「客数 × 単価 × 購入確率」で売上計画を立てる手法を使っていました。このアプローチは、営業を数値で捉える点が新鮮で、非常に科学的で効率的に見えました。
2.キーマンを見極める
ある日の営業後、彼が私に謝ってきたことがありました。「こんなお客様のところに技術者を連れて行ってしまい、申し訳ない」と。その理由に驚きました。
その担当者には、予算の決定権も、決定権者への影響力もないというのです。キーマンに接触しない限り、受注につながる可能性は低いというわけです。また、技術者は開発業務が本分であり、営業同行に時間を割くべきではない、という考えにも感銘を受けました。
ちなみに全くの私見ですが、経験的にもっとも受注につながりやすいのは、課長昇進が近く、部長層に影響力を持つ係長級の方ではないかと感じています。
3.予算を確認しろ
商談の初期段階で「予算の確保状況」を確認するのも、当時は驚きました。もし今期の予算が確保されていなければ、当座のリソース投入は控え、長期的な関係構築に切り替えるのです。さらに、次期予算を確保してもらうために、会計年度を見据えた営業提案を早い段階(8月頃から)で始めていました。顧客の会計サイクルに合わせて動く営業スタイルは、当時の私にとって大きな発見でした。
これらの気づきは、今振り返るとどれも基本的なことですが、知らなければ多くの無駄が生じていたはずです。技術者としてキャリアの初期に「営業は確率」「キーマンを見極める」「会計年度の感覚を持つ」という考え方を学べたのは、私にとって大きな資産となったように思います。
次回は、「経営の神様」が創った会社に転職して感じたことをお話ししたいと思います。