9月の3連休、息子にせがまれて、私の第二の故郷でもある青森を旅して参りました。
今回の旅のメインイベントは、本州最北の私鉄として有名な津軽鉄道に乗ることでした。息子の小学校のクラスには、いわゆる「鉄ちゃん」が多いらしく、休みに乗った鉄道を自慢しあうのが流行っているそうで、息子としては東京から遠く離れためずらしい鉄道で高いバリューを示したいと考えたようです。
自分は小学生のころ遠足で乗って以来ですから、実に40年ぶりの乗車ということになります。
冬になるとテレビ東京お得意の紀行番組で「ストーブ列車」が紹介され注目されますが、自分のころはそんなイベント列車はなく、空席だらけのさびれた(失礼)ローカル線でした。でも、そのようないつ廃線になってもおかしくない鉄道が未だに生き残れているのはなぜか?その経営努力の一端を診断士目線で確かめてみたいという思いもありました。
まずは会社のホームページにアクセス、財務諸表が公開されていたので分析してみました。本業の鉄道事業は毎年数千万規模(平成22年度で約18百万円)の赤字です。ところが、税引き前当期利益になるとほぼ毎年数百万(平成22年度で約8百万円)の黒字を計上されています。つまり本業以外の付帯サービスで収益を上げる努力をしていることがなんとなく想像できます。では実際どんな付帯サービスが行われているのでしょうか、それは現地を訪れて検証してみることにしました。
実際現地に行ってみると津軽地方全体的に過疎感に満ち溢れ、少し滞在するだけで淋しさと人恋しさに見舞われます。ところが津軽鉄道の車両に一歩足を踏み入れると一変、全くの別空間が広がっていました。
1.アテンダントによる「お・も・て・な・し」
1両編成のディーゼルカー。休日ともあってか観光客を中心に座席はほぼ全席埋まります。津軽美人のアテンダントが1名車両に乗り込んできました。発車するやいなや、マイクを取り出しガイドを始めます。津軽鉄道の成り立ちや車両の説明、沿線観光地の紹介、車窓から見える風景の説明を”津軽弁”(難解方言のひとつ)を交えて、コミカルに語ります。車内は常に笑い声が絶えません。
正直ここまでならバスガイドさんと変わりありませんが、ここから津軽鉄道ならではのサービスが始まります。一通りのガイドの後、アテンダントが乗客一人一人全員に声をかけて、ニーズを聞き出したうえで、具体的な提案を行うのです。今回は太宰治の斜陽館に行きたいという人が多かったのですが、手元の地図やパンフレットを示しながら、行き方や入場料などを丁寧に説明してくれます。また斜陽館近くのおいしいグルメスポットも教えてくれます。多くの乗客がその提案を喜んで受け入れていました。もちろん車内には観光客だけではなく、地元の人も乗っていますが、その人たちにももれなく声をかけます。中には顔見知りの人もいたらしく、その人とは世間話をしていました。顧客に合わせて柔軟にサービス内容を変えて対応する、顧客満足度を満たすための基本的姿勢が徹底されていました。
2.鈴虫車掌
アテンダントは車掌ではありません。なので、安全確認もドアの開閉もせず、おもてなしに徹しています。実際は運転手さんがその対乗客業務をすべて行います。でも、実際は車掌さんは乗っていました。それは鈴虫でした。鈴虫車掌は、安全確認や停車駅の案内の代わりに、きれいな鳴き声を車内に響かせ、乗客たちを癒しておりました。このサービス、他では絶対に味わえません。
津軽鉄道では季節ごとにこうした趣向を凝らしたイベント列車を運行しています。
・風鈴列車 7月1日から8月31日まで
・鈴虫列車 9月1日から10月中旬まで
・ストーブ列車 12月1日から翌年3月31日まで
このほか、5月のゴールデンウィークの桜の時期と8月の立佞武多(たちねぶた)の時期には、期間限定イベント列車の運行をおこなっているそうです。
このように、サービスの基盤を1年間に何度か変え、乗客を飽きさせない工夫をしています。これはリピーターを獲得する手段として非常に有効な手段だと思いました。
※写真は鈴虫車掌のお部屋です。
3.レールオーナー制度
アテンダントから「みなさん、津軽鉄道のレールオーナーになってみませんか?」との呼びかけがありました。レールオーナーとは、1m単位でレールの所有者になることだそうです。(実際に所有権は移転しないのですが)
価格は1m単位で5,000円。オーナーになると記念乗車券、オーナー区間を示す路線図などが特典として贈られます。鉄道ファンには堪らないサービスです。津軽鉄道は片道約20kmあり、レールは2本ですから約40km分のレールが敷かれています。すべてのレール上のオーナーが決まると約2億円の収益が得られます。その収益は特別利益として計上し、税引き前当期利益の黒字化に大いに貢献してきたことがわかりました。他の鉄道路線では「枕木オーナー」制度があるそうですが、レールに目を付けたところはユニークだと思いました。
アテンダントによるおもてなしで温かい気持ちさせ、季節ごとに変わるサービス内容でリピーターを増やし優良顧客を獲得。最後はレールオーナー制度で長期的な関係を築くという、まさにCRMの王道を行くようなマネジメントが行われていたということがわかりました。これが上手く機能してきたことで、ストックビジネス的な収益を上げ、廃線の危機を免れてきているのだなと感じました。
現在は津軽中里という駅が終点になっていますが、2015年に北海道新幹線開通時にできる新駅・奥津軽駅まで伸延する計画があるのだそうです。その際は、多額の設備投資が必要となるレール敷設ではなく、線路と道路両方運行可能なデュアルモードビークル(DMV)の活用が検討されているとのこと。これが実現すれば、また大きな注目を集めそうです。それにあわせ新たなサービスも開発されると思います。
汽車を降りる際に、アテンダントから「ストーブ列車で待ってますからね」と明るく声をかけられました。息子は早くも真冬の青森行きを決意しており、計画に余念がなく、まんまとリピーター候補となっております。このブログを読んで興味を持たれた方、是非青森まで足を運んでみてください。
津軽鉄道ホームページ http://tsutetsu.com/