今晩は、才村です。
前回に続いてエルピーダメモリを取り上げますが、当社自身がどんなリスクに着目していたかに関心があります。2011年3月期の有価証券報告書にある事業等のリスクです。
1.市況変動 投資時期とそれによる生産増時期のずれ→供給過剰→販売価格下落
2.販売価格低下 世界的な生産量増加と需要の減退
7.多額な設備投資 設備投資資金の回収不十分
16.為替レートの変動 売上高の相当部分が米国ドルを中心とした外貨建てであることによる円高の悪影響
17.資金調達リスク 金利上昇リスク、新規または既存借り替えの困難化、社債発行の困難化
20.産業活力法に関する制約等 12年4月の産業活力法事業再構築計画終了に伴う日本政策投資銀行による株式買取請求行使可能化
⇒計21ありましたが、読むだけで大変なので関係する項目だけを取り上げました。これだけの種類のリスクに気を配りながら利益を安定的に上げようとする坂本社長のタフさには感心します。17.以外のリスクが顕在化しましたが、整理してみると、半導体ビジネスの特性と当社の事業特性に対して、外部環境の悪化が著しく、財務面で持ちこたえられなかったといえます。
(1)半導体ビジネスの特性
・需要と供給の変動が大きい。
・ムーアの法則に従い技術進歩が急激なので、常に巨額の設備投資と研究開発費が必要である。
(2)当社の事業特性
・汎用品であり代替可能性が高いパソコン用DRAMへの事業集中
(3)外部環境の悪化
・リーマンショック後の需要低迷
・円高による収益減少
・タイ大洪水による需要減退
・パソコンからモバイルへの需要変化
(幸い、東日本大震災による秋田エルピーダへの被害なし。)
ネットを検索していて見つかった「福田昭のセミコン業界最前線」の解説に説得力がありました。「坂本社長は当初、利益率の高い非PC用DRAMを主力製品にして、黒字化、ビッグ3入りを果たした。その後、製品開発や価格競争で有利なトップを目指し、市場の大きいPC用DRAMに本格的に参入し、賭けに敗退した」というものです(確かに、2006年にPC用売上高がモバイル・デジタル家電用売上高を逆転しています)。トップを目指して努力する姿勢は素晴らしいですが、DRAM専業では、一旦、市場環境が悪化すると、手元現金が減り持ちこたえられません。
当社のように大企業であっても多角化していないと環境悪化時には持ちこたえられませんので、限られた分野で事業を行っている中小企業では、なおさら定説通り、差別化戦略(チャレンジャー)か集中戦略(ニッチャー)をとり、コスト・リーダーシップ戦略(リーダー)は避けるのが賢明であることを再確認しました。