狂言畸語輯&バガテル―そんな私のここだけの話 op. 231
先日毎週火曜夜の連ドラ「重版出来」が終ったが、ヒロインの黒木華がとても可愛らしく好演していて漫画の世界にはあまり興味がない私も思わず引き込まれて面白く見物できた。私は「出来」という漢字を「でき」と呼んでいたのだが「しゅったい」と発音するのが正しいらしい。しかし新人の第1作を5万部刷ってそれに重版がかかるなんてことは初刷3千部で即絶版の純文学本と比べると天国と地獄の違いであるなあ。ほかの連ドラはNHKの「真田丸」しか見ていないがこちらのほうが遥かによく出来ていた。
不振のドラマに代わってテレビ局は阿呆莫迦バラエテイに力を入れているらしいが、いつのまにかニュースや報道番組にもお笑い関係の人物が進出し、エンタメ感覚で面白おかしく論じたり笑ったりしているので興が醒める。それで衛星放送の映画を見るのだがこれも駄作のオンパレードなのでせっかく録画しておいても3分間再生してそのまま消去することが増えてきた。
そんな次第でNHKのドキュメンタリーを時々見ているのだが、これが非常によく出来ていて、凡作はまずないといっても過言ではない。
フランスのなんとかいう製作会社がシリーズでつくっていた「ゲバラ対カストロ」などのVS物やヒトラーの興亡の記録、「パナマ文書」のレポートなども良かった。
つい先ごろ見たのは、昨年放送された「もうひとつのショパンコンクール」の再放送だった。5年に1度およそ1カ月の長丁場で開催されるこの世界一有名なピアノコンクールの舞台裏を、出場するピアニストよりも、そこで弾かれる4つのピアノメーカー(スタインウエイ、ヤマハ、カワイ、ファツィオリ)とその調律師に焦点を当てて浮き彫りにするという異色のドキュメンタリーだった。
このコンクールでは、結果的にはスタインウエイを弾いた韓国のピアニストが優勝したのだが、そこに至るまでに奏者とメーカーのいろんな駆け引き、友愛と激励と裏切り、調律師の苦悩などいくつもの人間ドラマがあって、コンクールとは演奏者だけの戦いではないことが雄弁に描かれていた。
それにしても近年国産メーカーの進出は華々しく、80名近い出場者の大多数がヤマハとカワイを選んでいたので驚いた。現在ヤマハの打ち上げは世界一らしい。
それから最近テレビのコンサート録画でFazioliという名のピアノが気になっていたのだが、これは元ピアニストのパオロ・ファツィオリ氏が1978年に創始したイタリアの工房ですべて手作りで製造される高級ピアノで、最近のチャイコフスキーコンクールで3位までを独占して話題になったという。
このファツィオリの調律師がスタインウエイから飛び出した「100万人に1人の耳と腕前」を持つ日本人であったが、読みが外れてたった1名の奏者しか獲得できず、彼女も本選に出場できず苦杯をなめるというエピソードも紹介されていた。
このファツィオリも含め、5年後に開かれるコンクールでは恐らくスタインウエイの牙城は崩れるのではないだろうか。
ともかくも辞めてくれれば満足で闇に消え去る疑惑の数々 蝶人