照る日曇る日第874回
本巻では「文章読本」「聞書抄」「猫と庄造と二人のをんな」「初昔 きのふけふ」とその他を収めている。「文章読本」は「我われ日本人が日本語の文章を書く心得」を具体的に記したものであるが、言語と文章の定義からはじまって、現代文と古典文、西洋の文と日本の文章の違いなどを諄々と説いていくのだが、文章には用語、調子、文体、体裁、品格、含蓄の六つの要素があって、文章上達には文章に囚われないこと、感覚を研くことが必要と断じ、要所要所で具体的に文例を挙げながら熱情をもって説き去っていくユニークな作文作法術は今読んでも新鮮である。
「第二盲目物語」という副題が添えられている「聞書抄」は、暴君秀吉の犠牲になった太閤秀次とその女たちの悲劇的な最期を史料と想像力を駆使しながら見事に活写した歴史小説であるが、発表当時も現在も冷遇されているのがじつに不可解な傑作である。
著者がライフワークの源氏物語をほんやくしている最中に息抜きのように書かれた「猫と庄造と二人のをんな」は現在の異様なまでのネコブームを先取りした動物愛の物語で、女よりも猫に夢中になる男の生態をここまで描きつくす谷崎の軽妙な筆致に幾たびも唸らされる傑作喜劇である。
英国がEUを離脱するというので大騒ぎ私は朝からフルニエを聴く 蝶人