照る日曇る日第873回
岩波新書のシリーズ「日本中世史」の第3巻であるが、2巻目の「鎌倉幕府と朝廷」よりはるかに読みやすく、したがって分かりやすい内容であった。それでもまだまだ良質の日本語とはいえない個所も散見されたが、素人相手の啓蒙書はこうでなくてはいけない。
建武の新政から南北朝の争乱、足利幕府の支配体制、そして応仁の大乱へと続く時代の流れがこれほど骨太かつ明快に説かれた新書はこれまであまりなかったのではないだろうか。
基本的には鎌倉幕府の荘園制護持と「徳政」尊重の政策を継続しながらも、権力者のきまぐれやら権力闘争やら天変地異やらによって、時代の政治的経済的社会的基盤が急激に変化し、民草が翻弄されてゆく哀れな姿は、なにやら平成の当代とさほど変わらないのではなかろうか、という不可思議な感慨にとりつかれてくる奇特な1冊であった。
なお81ページの図版2-8の「笹丸」は「篠作」の間違いではないだろうか。また斯波氏や畠山氏の系図があるのに、どうして細川家のそれがないのだろうか。再考していただきたいものである。
楢の葉をゼフィルス越ゆる桜桃忌