あまでうす日記

あなたのために毎日お届けする映画、本、音楽、短歌、俳句、狂歌、美術、ふぁっちょん、詩とエッセイの花束です。

内海健著「金閣を焼かねばならぬ」を読んで

2021-05-18 10:49:40 | Weblog

照る日曇る日 第1578回

林養賢と三島由紀夫という副題が付いているが、文学や哲学にも造詣の深い精神病理学者の著者が、金閣寺を焼いた人物と、その事件を小説に書いた作家を俎上に載せてあれやこれやの蘊蓄を語るが、どうもあんまり共感するところはなかった。メスは鋭利だが、患者の急所を突いている手術とは思えなかったのである。
犯人が金閣寺を焼くに至った動機はなかった、と著者は断じるが、三島の「金閣寺」の冒頭にある主人公の故郷の描写にそのヒントがあるのではないだろうか。
―「たとえ雲一つないように見える快晴の日にも、一日に四五へんも時雨が渡った。私の変わりやすい心情は、この土地で養われたのではないかと思われる」
私は犯人の故郷と遠からぬ丹波の綾部という盆地に生を享けたが、上記の引用文と通底する裏日本海特有の陰鬱な気候条件は、田舎育ちの幼い少年の精神に憂鬱と陰に籠った破壊衝動をしたたかに蓄積し、金閣こそ焼かなかったものの、その後の人世の展開に大きな影響を与えた、と考えている次第である。

半蔵門の文楽すべて中止となる慌てて切符を買わずに良かった 蝶人
コメント
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