音楽千夜一夜第475回
自宅でリハビリの合間にふと思い立って高橋アキさんが弾く武満徹のピアノ曲を聴いてみました。
収録されているのは1979年作曲の「閉じた眼」から始まって「ピアノ・ディスタンス」「遮られない休息」を経て、1992年の「ゴールデン・スランバー」に終わるいずれも10分にも満たない短い曲ばかりであり、もう20年以上前の古い録音であるが、武満の思いやものいいがまっすぐ直截聴く耳に届いてくるのはなぜでせう。
いまや「世界のタケミツ」になった武満ですが、高橋選手のピアノから転び出てくる音は、けっしてそのように神格化された「タケミツ」ではありません。
いわば普通の、等身大の武満徹という音楽家のお腹の中で鳴っていた、おおらかでまっすぐな音であり、なんかお隣に住んでいるお兄ちゃんがつくった、親しみやすい、出来たての音楽のように、滋味深い愛情をもって聞こえてくるのが不思議です。

緑色のブリキの缶の蓋を開けサクマドロップを嘗める楽しさ 蝶人