あまでうす日記

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前田和男著「昭和街場のはやり歌」を読んで

2023-10-19 11:20:47 | Weblog

 

照る日曇る日 第1970回

 

戦後の代表的な流行歌20余りを取り上げながら、副題の通りに「戦後日本の希みと躓きと祈りと災い」について、団塊世代に属する著者の人世の思いのたけを重ねつつ語り尽くした、渾身の1冊である。

 

本書が取り上げている「はやり歌」は、第1部希求と喪失の章」の赤坂小梅が歌った「炭坑節」から始まって、江利チエミの「テネシーワルツ」、「東京のバスガール」「あ`上野駅」「南国土佐を後にして」「スーダラ節」と続くのだが、映画「鉄道員」で影の主役を演じた主題歌「テネシーワルツ」を論じつつ高倉健と江利チエミの純愛を語ってやまない著者の名文章には読みながら、「たかが映画、たかがはやり歌」と思いつつも、嗚咽を禁じることができなかった。

 

そう、この「たかが映画、たかがはやり歌」を大切に拾い上げ、我らの時代と我らの社会に果たした一つひとつの絆を、その極限にまで掘り進むことこそが本書のいき方だったわけで、私は著者の術中に見事に嵌りこんでしまった訳である。

 

第2部の「異議と蹉跌の章」では、60年安保の敗北と西田佐知子の「アカシヤの雨がやむとき」の一部サヨク層での流行、またしても登場する健サンのヤクザ映画深夜上映の会場で花開いた、奇跡のサヨク大賛歌が紹介されている。

 

1968年の佐藤訪ベト阻止羽田闘争で一敗地に塗れ、地元自警団に追い掛けられた著者が、その数カ月後、米原潜エンプラ寄港阻止佐世保闘争で羽田とは打って変わった厚遇を受け、地獄から天国へと蘇生した思いが描かれるが、その後の暗鬱な政治の季節の到来を思えば、この時が新左翼運動のもっとも幸福なメルクマールだったのかもしれない。

 

そのほか、JR起死回生のデイスカバージャパン・キャンペーンの盛衰と「いい日旅立ち」、第3部「祈念と失意の章」では美空ひばりの「一本の鉛筆」、「イムジン河」、テレサテン、「東京音頭」、「昭和枯れすすき」、プーチンと大ロシア主義の動向を占う「カチューシャ」の章に到るまで、頁を捲る暇も惜しいほどにエキサイティングな1冊であった。

 

聞けばweb誌「論座」連載の原稿の、これでやっと半分だというが、一日も早く残りも書籍化して欲しいものである。

 

 「仕方が無かった」と言いたくはないがそうとしか言えない時もあるのだ 蝶人

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