あまでうす日記

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クリスチャン・メルラン著・藤本優子・山田浩之訳「オーケストラ」を読んで

2023-10-05 09:24:15 | Weblog

クリスチャン・メルラン著・藤本優子・山田浩之訳「オーケストラ」を読んで

 

照る日曇る日 第1968回

 

「知りたかったことのすべて」という副題がつけられているが、なるへそ楽器や演奏者や指揮者などクラシック音楽の演奏に関するあれやこれやを、懇切丁寧に手とり足とり解説してくれる超おもしろいガイドブックである。

 

例えばオーケストラの配置に「ウイーン式」「ヨーロッパ式」「アメリカ式」「ドイツ式」の4つがあり、ひところ全盛の「アメリカ式」とその亜流である「ドイツ式」が80年代初頭の古楽演奏の隆盛の影響を受けて昔ながらの「ウイーン式」「ヨーロッパ式」が見直されているという指摘、さらにバイロイト祝祭劇場ではトゥッテを抑え、弱音を大切にするべく楽器毎の配置を解体、再編成し、管楽器と打楽器のレイアウトなどもワーグナー自身が細かく指定しているとは初耳だった。

 

著者は仏蘭西の音楽評論家らしく、仏蘭西の名前さえ聞いたことのないオーケストラの内部事情を教えてくれたりするが、序文をリッカルド・ムーティが書いているくらいなので、古今東西の指揮者や楽団の裏話が法華の太鼓のようにどんどん飛び出してきてマニアックな読者にも随喜の涙を流させてくれるだろう。

 

私の心に強く残ったのは、1992年ザルツブルクの山歩きで岩場から転落し、落下の際にヴァイオリンを守ろうとして頭をかばうのを忘れて散華した我が最愛のコンサートマスターのゲルハルト・ヘッツェルについて、最上級の言葉で褒めたたえた個所である。

 

ウイーン・フィルの短かった黄金時代を支えたあの偉大なコンマスを、バーンスタインやカラヤン、そして彼の最後となったコンサートを指揮したムーティの思い出話もぜひ読んで欲しい。

 

「イタリアで屋外コンサートが行われた時、雨粒が落ち始めてきた。他のオケはみな楽器を傷めまいと慌てて逃げ出したが、ウイーン・フィルは動かなかった。ヘッツェルが平然としていたからだ。ムーティが目で問いかけるとヘッツェルは首を横に振った。集分後には雨はやんでいた。」(P214)

 

    世の中にいいことなんか何もなく大谷本塁打王1面トップ 蝶人

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