照る日曇る日 第1968回
三島由紀夫飛翔たりし生首も銀河ながるるさくらはなびら
にっぽんをふかく愧じつつにっぽんのパスポート付けむわがうつそみに
沈黙(シランス)!と幾たびもきこゆ秋の日を盲ひゆくモネの沈黙に堪ふ
巴里の、そして宇宙の真只中で、有り余る古今東西の教養の残骸を徒に放射しながら、官能にうち震える女がひとり。
いかにも水原的だと思うのは、このような歌である。
雪子の下痢美しかりし細雪、美しき嘔吐なかりしき記憶
わたくしはくわんおんなればゆめにだに怒るまじきを馬頭くるしも
サン・ジェルマン・デ・プレ教會ほのぼのと明石の浦にあらましものを
花の木にと隣り合ひたる電柱のかなしみをもて荒野へ.ゆかむ
さりながら大方の歌人や民草が見て見ぬ振りをする、このような歌が、もっと水原的だと思う。
権力の存在せざる星に棲み不老不死なる犬となりたし
革命は怖ろしけれど細胞のひとつひとつが革命ならむ
アメリカと中國に分断なされなば海賊とならむ老少女われ
大元帥白馬に乗りて微動だにせずそよそのままに裁かるべきを
視界白くなりゆくまでに降る雨の彼方より来る獨栽よ
亜米利加の傀儡たるは祖父ゆ継ぎたる道とたれも知れれど
國葬はくにを葬る秋ならばかへらざるべし血の蜻蛉島
まえがきもあとがきも著者紹介もなき歌集あり潔きかな 蝶人