知人から「今霞ヶ関で一番話題になっている本らしいですよ」と紹介されたのが、「すべての経済はバブルに通じる(小幡績著 光文社新書)」。
昨年のサブプライムローンの破綻に端を発したアメリカ金融資本の急速な劣化と世界恐慌の仕組みを端的に説明してくれる非常に面白い本でした。

著者の小幡さんは東大経済学部を首席で卒業し、当時の大蔵省に入省、その後同省を退職して現在は慶応大学大学院の准教授という肩書きですが、本人自身も個人投資家として積極的に投資し続ける行動派経済学者とも自称しています。
著者は本の冒頭でクイズを出しています。曰く、
①お金はなぜ増えるのだろう?
②経済はどうやって成長し続けるのだろう?
③資本主義とは何だろう?
①は高校生用、②は大学生用、③は大学院生用の問題だそうですが、その答えは総て一つに収斂します。その答えとはなんと「ねずみ講」なのだそう。
ねずみ講とは、次に入会した人からの上納金の一部が先に入会した人に渡るシステムで最初の人ほど儲かり、結局は破綻するという違法行為ですが、経済活動とはまさにそれと同様の心理状態で行われいるのだ、というのが著者の主張です。
そしてそれが巨大になったグローバルな金融資本の世界で起こったのが今回の金融恐慌なのだというのです。
これは興味津々です。
※ ※ ※ ※
もう少し詳しく説明をしましょう。
世の中の資産には現金、不動産、宝石、金塊などいろいろな形がありますが、決定的な差はその「流動性」、つまり買いやすい、売れやすい、他のものと交換しやすい性質です。
もちろん一番流動性の高い資産は現金。現金ならばそれで買い物をしたりレストランの食事の支払いにも使えますが、レストランで呑んで食べて支払いを宝石で…、というわけにはいきません。つまりその価値が分かりづらくすぐに他の資産と交換できるとみんなが思わないからです。
家や土地などの不動産もその典型なのですが、その流動性を金融工学を駆使して高めたのが「証券化」というテクニックです。証券会社が3000万円の家の家賃権利を一口1万円で3千口の不動産証券にすることで、「値上がりするなら一口乗ってみよう」という投資家はいるわけで、買い手がたくさん出てきます。
現物の実態量よりも買いたい人が多くなれば当然価値は上がるので、先に買った人の証券は次の人により高い値で売ることが出来、値上がりをして投資をした人は儲かります。儲かると思うと、投資したい人はどんどん出てきます。
実は不動産証券にはリスクがつきまといます。家賃の証券化であれば、家を借りて家賃を払っている人が破産をして家賃を払えなくなるとその証券は価値がなくなるからです。
ところがここで証券会社が金融工学をさらに駆使して、家賃を払う家を20軒まとめた上で証券化するというテクニックを使います。すると、20軒あれば全部が破綻する確率は下がるので、証券のリスクが下がりリターン率が向上します。
こうした金融工学を使うことで、価値が分からない、買いにくい不動産資産が買いやすくて売りやすく、リスクが限りなくゼロになり安定したリターンが期待出来るという、投資家たちにとって魔法のような商品に早変わりしたのです。
こうなると低い利率で借金をしてでも高い利息の投資をする人がどんどん出てきます。現物のマネーよりもたくさんの金が世界中を回り始める理屈がここにあります。まさにバブル経済のはじまりです。
アメリカでは、低所得者層に対して家を持つことが出来るローン(サブプライムローン)を売り出しました。最初の数年は低率の支払い、そしてやがて高率になる借金ですが、家を低所得者が多く参入してきたため購入した家の値段が上がり、そこで高くなった家を担保にローンを借り換えて、支払額が増えないというサイクルを回し続けることができました。
これらは参入する人がいつか減ったときに破綻するしかない運命だったのです。
※ ※ ※ ※
著者は一般的なバブルの認識として、
①バブルの最中には、皆、熱狂してしまって、誰もがバブルであることに気づかず投資してしまう。
②バブルに投資することは明らかに失敗で、後で振り返って、バブルであることに気づいていれば投資しなかったのに、と後悔する。
③バブルは危険なものであり、賢明なプロの投資家は近づかず、素人が下手に手を出して失敗するケースばかりである。従って、バブルの疑いがあるものには決して近づいては行けない。
④バブルは危険で、経済に大きな被害をもたらすものであるから、社会としても、政府としても、バブルつぶし、再発防止に取り組む必要がある。これは金融市場が発達して金融知識が広がれば、制御することも徐々に可能になってくる…、などということがあるでしょう、と言います。
しかしこれらは総て誤りなのです。実際は最も有能なトレーダーたちが、バブルであることを十分に認識しながらも、他のトレーダーたちよりも良い成績を上げるために、恐怖に耐えながらぎりぎりの投資活動を続けているのです。
だから、何かのきっかけに「バブルが弾けた!」という徴候をかぎ取った瞬間に恐怖に駆られて資産の投げ売りを始めます。それがバブルの破綻であり、借りまくって巨大になった金融資本が急速に縮み上がると、値上がりが期待できないお金は動かなくなり恐慌が発生します。現在起きているのは、かつての時代よりも遙かに巨大になり、しかもグローバルに動き回る金融資本の影響があまりにも大きくなった後遺症なのです。
※ ※ ※ ※
著者はこうした経済をキャンサーキャピタリズム(癌化した資本主義)と名付けています。健全であるはずの期待と成長が望まない形で自己増殖を始めた結果です。
しかしいつかまた冬の時期を過ぎて春がやってきます。そしてまたバブルになり破綻をするということが繰り返されるでしょう。その恩恵もまた大きいからです。
将来に向けて、お守りを買うよりは役に立つお勧めの一冊です。
昨年のサブプライムローンの破綻に端を発したアメリカ金融資本の急速な劣化と世界恐慌の仕組みを端的に説明してくれる非常に面白い本でした。

著者の小幡さんは東大経済学部を首席で卒業し、当時の大蔵省に入省、その後同省を退職して現在は慶応大学大学院の准教授という肩書きですが、本人自身も個人投資家として積極的に投資し続ける行動派経済学者とも自称しています。
著者は本の冒頭でクイズを出しています。曰く、
①お金はなぜ増えるのだろう?
②経済はどうやって成長し続けるのだろう?
③資本主義とは何だろう?
①は高校生用、②は大学生用、③は大学院生用の問題だそうですが、その答えは総て一つに収斂します。その答えとはなんと「ねずみ講」なのだそう。
ねずみ講とは、次に入会した人からの上納金の一部が先に入会した人に渡るシステムで最初の人ほど儲かり、結局は破綻するという違法行為ですが、経済活動とはまさにそれと同様の心理状態で行われいるのだ、というのが著者の主張です。
そしてそれが巨大になったグローバルな金融資本の世界で起こったのが今回の金融恐慌なのだというのです。
これは興味津々です。
※ ※ ※ ※
もう少し詳しく説明をしましょう。
世の中の資産には現金、不動産、宝石、金塊などいろいろな形がありますが、決定的な差はその「流動性」、つまり買いやすい、売れやすい、他のものと交換しやすい性質です。
もちろん一番流動性の高い資産は現金。現金ならばそれで買い物をしたりレストランの食事の支払いにも使えますが、レストランで呑んで食べて支払いを宝石で…、というわけにはいきません。つまりその価値が分かりづらくすぐに他の資産と交換できるとみんなが思わないからです。
家や土地などの不動産もその典型なのですが、その流動性を金融工学を駆使して高めたのが「証券化」というテクニックです。証券会社が3000万円の家の家賃権利を一口1万円で3千口の不動産証券にすることで、「値上がりするなら一口乗ってみよう」という投資家はいるわけで、買い手がたくさん出てきます。
現物の実態量よりも買いたい人が多くなれば当然価値は上がるので、先に買った人の証券は次の人により高い値で売ることが出来、値上がりをして投資をした人は儲かります。儲かると思うと、投資したい人はどんどん出てきます。
実は不動産証券にはリスクがつきまといます。家賃の証券化であれば、家を借りて家賃を払っている人が破産をして家賃を払えなくなるとその証券は価値がなくなるからです。
ところがここで証券会社が金融工学をさらに駆使して、家賃を払う家を20軒まとめた上で証券化するというテクニックを使います。すると、20軒あれば全部が破綻する確率は下がるので、証券のリスクが下がりリターン率が向上します。
こうした金融工学を使うことで、価値が分からない、買いにくい不動産資産が買いやすくて売りやすく、リスクが限りなくゼロになり安定したリターンが期待出来るという、投資家たちにとって魔法のような商品に早変わりしたのです。
こうなると低い利率で借金をしてでも高い利息の投資をする人がどんどん出てきます。現物のマネーよりもたくさんの金が世界中を回り始める理屈がここにあります。まさにバブル経済のはじまりです。
アメリカでは、低所得者層に対して家を持つことが出来るローン(サブプライムローン)を売り出しました。最初の数年は低率の支払い、そしてやがて高率になる借金ですが、家を低所得者が多く参入してきたため購入した家の値段が上がり、そこで高くなった家を担保にローンを借り換えて、支払額が増えないというサイクルを回し続けることができました。
これらは参入する人がいつか減ったときに破綻するしかない運命だったのです。
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著者は一般的なバブルの認識として、
①バブルの最中には、皆、熱狂してしまって、誰もがバブルであることに気づかず投資してしまう。
②バブルに投資することは明らかに失敗で、後で振り返って、バブルであることに気づいていれば投資しなかったのに、と後悔する。
③バブルは危険なものであり、賢明なプロの投資家は近づかず、素人が下手に手を出して失敗するケースばかりである。従って、バブルの疑いがあるものには決して近づいては行けない。
④バブルは危険で、経済に大きな被害をもたらすものであるから、社会としても、政府としても、バブルつぶし、再発防止に取り組む必要がある。これは金融市場が発達して金融知識が広がれば、制御することも徐々に可能になってくる…、などということがあるでしょう、と言います。
しかしこれらは総て誤りなのです。実際は最も有能なトレーダーたちが、バブルであることを十分に認識しながらも、他のトレーダーたちよりも良い成績を上げるために、恐怖に耐えながらぎりぎりの投資活動を続けているのです。
だから、何かのきっかけに「バブルが弾けた!」という徴候をかぎ取った瞬間に恐怖に駆られて資産の投げ売りを始めます。それがバブルの破綻であり、借りまくって巨大になった金融資本が急速に縮み上がると、値上がりが期待できないお金は動かなくなり恐慌が発生します。現在起きているのは、かつての時代よりも遙かに巨大になり、しかもグローバルに動き回る金融資本の影響があまりにも大きくなった後遺症なのです。
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著者はこうした経済をキャンサーキャピタリズム(癌化した資本主義)と名付けています。健全であるはずの期待と成長が望まない形で自己増殖を始めた結果です。
しかしいつかまた冬の時期を過ぎて春がやってきます。そしてまたバブルになり破綻をするということが繰り返されるでしょう。その恩恵もまた大きいからです。
将来に向けて、お守りを買うよりは役に立つお勧めの一冊です。