小樽で催された「現代狂言 北海道公演in小樽」を観てきました。
主演は九世野村万蔵さんとウッチャンナンチャンでお馴染みの南原清隆さん。
「現代狂言」は今年で三年目になるのだそうで、この二人を中心に、古典芸能である狂言と現代のコントが融合した出し物として古典の魅力を現代に繋げるユニークな出し物となっています。
そもそもの発端は、故野村万之丞氏が発起人となってナンチャンがこれに参加をして創り始めたということのようですが、ナンチャンの言葉を借りればそのときにいくつかの約束をしたのだとか。それは「初心者が観ても楽しめる」、「現代人が登場する」、「あらゆる表現方法を試してみる」などなどだそう。
今回は、狂言の出し物から「佐渡狐」を狂言そのままに演じ、さらにその笑いのプロットを「東京パンダ」として現代風にコントとしてアレンジしました。そして現代コントに狂言の技法をおりまぜ、さらに現代音楽を加えたまさに現代狂言として「サードライフ」という出し物を演じてくれました。
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「佐渡狐」は、偶然道連れになった越後の百姓と佐渡の百姓がお国自慢を始め、本当は佐渡島にはいない狐を佐渡の百姓が「いる!」と言ってしまったことから始まる喜劇。
互いの主張を賭にして、その判定をお役人に頼もう、と言うことになったのですが、佐渡の百姓は賭に勝つために役人に賄賂を渡してなんとか勝ちとしてもらいます。
しかし合点のいかない越後の百姓に「では狐はどんな顔をしている?」などと問いつめられて、返答にしどろもどろし、挙げ句の果てに・・・、というストーリー。
展開そのものは実に単純ですが、現代にも通じる笑いのプロットが随所に盛り込まれています。セリフが古典調で「そなたは(あなたは)・・・」、「みどもは(私は)・・・」といった単語や、「・・・でおりゃる(でございます)」など、普段は聞き慣れない言葉遣いですが、少し慣れてくればちゃんと聞こえてくるようになるから不思議です。
「東京パンダ」はこのプロットを現代にもってきたもの。「東京にはなんでもある」と言われた大阪の人が「じゃあ食い倒れ太郎はいるか?」と問い、食い倒れ太郎をよく知らないままに「いる!」と答えたところから始まる笑いです。
こちらはグルメレポーターの彦麻呂さんと昔のアイドル嶋大輔さんがコミカルに演じてくれました。
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休憩をはさんだ後のサードライフは、ネットの中の仮装社会であるセカンドライフにヒントを得て、画面の中でキャラたちが繰り広げる珍妙な世界を描き出します。
本当の自分が、違う自分を託したキャラたちが新しいメンバーの争奪戦を繰り広げるというもので、この演目の中では、狂言の大家野村万蔵さんにラップで「伝統なんて関係ねえ!伝統なんて関係ねえ!」と叫ばせます。本人も最後の挨拶で「伝統なんて関係ねえ、なんて言わされて・・・」と苦笑い、会場は爆笑です。
観客にも、雨を降らせる音を一緒にやってもらうといった協力を求めて、舞台と観客席が一体になります。笑いは一体感とともに生まれるということがよく分かりました。
ナンチャンはテレビと同じで、ときどきセリフを噛むのまで一緒(笑)。全部で二時間半の公演をとっても楽しませてもらいました。
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古典芸能が古典の世界で縮こまっていずに、こうしたコラボレーションを通じて改めて現代人にもその良さをしってもらおうというのは非常に意義ある取り組みだと思います。
この日の会場は小樽市市民会館でしたが、ちょっと見学してみたところその向かいには小樽市公会堂があってそこには旧岡崎家能舞台が移築されています。
小樽における能の文化という側面も含めて、また一つ知らないことに触れる一日となりました。