北の心の開拓記  [小松正明ブログ]

 日々の暮らしの中には、きらりと輝く希望の物語があるはず。生涯学習的生き方の実践のつもりです。

スウェーデンの経済学者グンナー・ミュルダール ~ 人口減少問題への先駆的解決事例

2023-06-04 22:27:01 | Weblog

 スウェーデンにグンナー・ミュルダール(1898-1987年)という経済学者がおりました。

 彼は自由放任的な経済への関わりを批判し、後年1960年には「福祉国家を越えて」を著し、福祉国会思想を提唱するなど、自由主義的な経済理論に批判的な立場でした。

 彼は後にノーベル経済学賞を受賞するのですが、彼はどちらかというと経済に対して政府はしっかり干渉すべきというケインズ以前にケインズ的な思想をもっていて、彼が受賞した1974年にはその思想と対極的な立場とバランスを取る方が良いという判断なのか新自由主義の旗頭であったハイエクと同時受賞という形になっています。

 そんな彼は1934年に「人口問題の危機(Crisis in the Population Question)」という本を書き、スウェーデンの人口政策の転換に大きな貢献と足跡を残しました。

 1930年代というのは、1929年のブラックマンデー後の世界経済が混沌とした時代で、その頃のスウェーデンは人口問題に関して大きく意見が割れていました。

 一つの意見は本来の保守的なもので、「人口減少は国力低下をもたらすので問題だ」という立場で、もう一方は労働者階級が支持するいわゆる新マルサス主義と呼ばれるもので、人口減少により雇用が改善されて生活水準があがるという意見でした。

 その議論が国論を二分していた1932年に政権がミュルダールを指示する社会民主労働党に移ったことで、ミュルダール夫妻(奥さんのアルバ・ミュルダールとともに)は人口問題に対するスウェーデン・モデルのスタートにオピニオンリーダーという立場でいられたのでした。

 
【出生率低下の理由に対する考え方】
 スウェーデンの出生率が低下している理由を「個人のモラルの問題だ」とする意見に対してミュルダールは、「それは社会構造から生じており、経済的原因が問題だ」という論を展開します。

 ちょうど女性が社会進出を始めたころで、女性が働いて生活水準を上げることが可能なのに、子供を持つことはそれへの阻害要因とみなされた結果、女性は子供を産まない選択をするのだ、と。

 つまり、子供を持つことによる経済的・社会的困難をなくすような社会改革が必要なのだ、と。

 そこで彼が唱えたのは、「消費の社会化」ということで、具体的には出産・育児に関する消費の量と質を社会的に向上させることで、全ての子供や家族に対する無料の公的サービスの提供を求め、その仕組みは所得に応じた課税によって支えられるべきだとしました。

 そして人口減少に象徴される社会の問題は、コトが起こってから対処する治療的社会政策から予防的社会政策に転換すべき時期であるともしゅちょうsました。

 この「消費の社会化」とは人口政策でもあり、社会政策でもあり、経済政策でもあるという意味で総合的な問題への包括的な対応方策です。

 そして負担できる者は能力に応じてしっかりと負担して再配分できるだけの財源を確保したうえで、出産・育児に伴う困難を除去しようという予防的福祉政策であり、同時に住宅・医療・教育分野を中心とした消費拡大・雇用創出を狙っていました。

 
 
 さて、こうした政策の結果、スウェーデンは日本よりも消費税や国民負担率が高い国家になりました。

 しかしながら日本よりも高い出生率を維持した国として、政策で国を作るモデルケースとなっています。

「国民負担率が50%に近づいている悪政だ」とか「そんなちゃちな(財源と)政策では少子化は止められない」、「政策と結果がミスマッチ」など、少子化対策の道筋を政府が描いている今、政策提言の一つ一つに批判が沸き起こっています。

 しかし、改めて国を一つにしてどのような経済と政策に替えて行かなくてはならないかという根本的な哲学の部分が欠けているので、現状を維持しながら空いた穴を塞ぐような治療的政策に終始しているようにも思えます。


 もはやこれだけインフラや制度が充実した日本は、「生産立国=物を作って経済を回す国」ではなくて、「消費立国=需要を喚起して消費することで経済を回す国」というイメージチェンジを図らなくてはいけないのではないか、と思います。

 そして需要を喚起するためには、国民が納得して支える確実な財源を確保してそれを困っている人たちに潤沢に給付することです。

 今もそう考えている人はいるはずなのですが、これまでの成功体験の慣性力が大きすぎて、急な方針変更ができません。

 その変化への萌芽が、マイナンバーカードというデータインフラであり、子育てへの社会保険からの拠出などなのだと言えるでしょう。

 しかし私は、本来はこうしたことの財源確保は、企業負担を求める社会保険方式も充実させつつ、国民全体という意味で消費税にも応分の負担を求めるのが正しいのではないかと思っています。

 スウェーデンは人口わずか1千万人の国です。

 身軽であるがゆえに方針転換もしやすいと言え、逆に1億2千万人もの人口を抱えると、国民全体の意思の統一が難しいともいえるでしょう。

  
 いままさに燃え盛る人口減少問題への対処の仕方として、皆さんは何が有効なのだと考えて行動に移せるでしょうか。

 グンナー・ミュルダールの思想とスウェーデンのモデルを日本は参考にできるでしょうか。

 


【世界経済のネタ帳】より『スウェーデンと日本の合計特殊出生率の比較』
 https://ecodb.net/exec/trans_country.php?type=WB&d=TFRTIN&c1=SE&c2=JP


【戦間期スウェーデンにおける人口減少の危機とミュルダール 藤田菜々子(名古屋市立大学)】
 http://www.paoj.org/taikai/taikai2016/abstract/1208.pdf 
 
【諸外国における国民負担率(対国民所得比)の内訳の比較(北欧諸国との比較)
 https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/condition/020_2.pdf

 

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