北の心の開拓記  [小松正明ブログ]

 日々の暮らしの中には、きらりと輝く希望の物語があるはず。生涯学習的生き方の実践のつもりです。

猿払のホタテを海外へ輸出する意味とは

2015-09-28 23:04:13 | Weblog

 地域で活躍されている人たちのお話を伺う活動の一環で、猿払村の巽(たつみ)水産さんをお訪ねしました。

 巽水産では、猿払村で水揚げされるホタテの玉の冷凍品(玉冷)を作り、国内での販売はもちろん、ヨーロッパを相手にEUのHACCP(ハサップ)と呼ばれる衛生基準を満たした工場を作ってヨーロッパの国々にも輸出をしています。

 今策定中の第八期北海道総合開発計画のなかでは、北海道を巡る追い風として二つのことが挙げられています。その一つは海外からのインバウンド観光客の増加ですが、もう一つは食料供給基地北海道の産物が国内の需要だけではなく海外相手の輸出品目としても拡大傾向にあるということ。

 北海道の産物が安全で安心で美味しいということの評判は今や世界水準になりつつあるということの代表的事例として取り上げられているのが猿払村のホタテというわけです。

 そこで今回は巽水産の巽社長さんに、海外に販路を広げることの意味とご苦労を聞かせていただくのが目的の訪問です。

「そもそもヨーロッパではホタテを食べる習慣があるのですか?」
「ありますよ。まあ世界で一番ホタテを獲れるのは中国、続いて日本、米国、南米それからヨーロッパという順番ですが、ヨーロッパでは圏域内や北米産のホタテが届いていて様々な料理で食べられています」

「イメージとしては、乾燥ホタテにして中国相手に売るのが商売としては一番安定しているのかな、と思うのですがそうではないのですか?」
「乾燥ホタテにすると使い方は中華料理ということになって料理の幅が狭くなりますよね。玉冷であれば用途がずっと広がります。それにEUのHACCPは世界で一番厳しい衛生基準なので、これに適合する作り方ができていれば世界のどこへでも出せるということです。アメリカや中国ではそれほど厳しい基準を求められてはいないので、一番厳しい基準でいっておこうというわけです」

「巽水産では年間どれくらいを扱って、そのうち国内消費と輸出はどれくらいの比率なのでしょうか」
「猿払村では昨年で47千トン、今年では約40千トンくらいの水揚げがありますが殻付きで20千トンくらいの量でしょうか。殻付きの貝の約10%が玉冷の重さで、最終出荷で年間二千トンの玉冷を出しています。国内向けと輸出では七対三くらいですが海外から言われる値段が高くて良いので輸出向けが伸びています」

「実際にヨーロッパに輸出をしてみて、巽さんの玉冷に対する評価はいかがですか?」
「ヨーロッパでも一番舌が肥えているのは水産国であるノルウェーの人たちなんですが、その彼らが『お前のホタテは一番だ』と言ってくれました。それまでは一番おいしいのはカナダ産で次がヨーロッパ産、日本のモノは他国を経由した不思議な輸入のされかたをしていながら三番目だ、と言われていたんです。それがここのホタテを食べて初めてその本当の美味しさに気が付いたというんですから、評価は高いです」

「するとこれからどんどん輸出を増やすお考えですか?」
「そうした方が儲けは増えるという思いはありますし、他の地域のHACCP対応工場では全量を輸出にした、というところもあると聞いています。しかし『猿払産のホタテを使っています』とメニューに大きく書いて産地ごと売り込んでくれているお得意さんレストランチェーンがあってそこへは送らないといけないだろうな、という義理もあるんです(笑)」

 
 一度輸出に舵を切るとどんどん海外へ売り出せそうなものですが、あまりそれをやりすぎて国内で猿払のホタテが食べられなくなっても困ります。

 そんな中でヨーロッパへHACCP基準を取得して売ることの意味を訊ねると巽社長さんはこう教えてくれました。

「とにかく売る先を多様化しておきたいんです。今日本のホタテが売れているというのは美味しいということだけではなく、円安という為替条件や、実はアメリカやヨーロッパであまり獲れていないといった外的要因に負う面もあるんです。だからこうした条件が変わるとすぐに買ってもらえなくなったり値が下がったりすることだってありえるわけです。だから一つは売り先をより多様にして、ここがダメなら別なところに売るとということができるようにしておきたい」

「なるほど」
「そしてそれをするなら、一番厳しい衛生基準で作ることが当たり前である方が良い。作業をする女工さん達だってHACCPだったらこの作り方で、アメリカ向けだったらこうだなんて変えていたら混乱してしまいます。だから作り方は単純にしてしかも一番厳しい基準というのが一番良いのです」

 
 今や一大ブランドになった猿払のホタテですが、それを安定した販売に繋げるための一つの道が海外への輸出でした。

 いくら売れると言っても漁業生産物として獲れる量が二倍、三倍になるわけではありません。

「未来は本当に何が起こるかわからないんです」

 地元の産物を高値で安定的に売り続けるためには様々な努力がありました。


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