アメリカのドキュメンタリー映画監督マイケル・ムーアの新作「華氏119」(Fahrenheit 11/9)は必見の傑作だ。トランプ大統領を生み出したアメリカの病根に鋭く迫った映画で、怒りと涙なしには見られない。そして日本の惨状をどうすればいいのかを嫌でも考えてしまう。そんな映画だった。
公開直後に見ることは少ないが、中間選挙前に見たいな思った。ムーアの知名度と反トランㇷ゚というテーマから、「華氏119」は全国で公開されている。東京での単館上映でもおかしくない内容だから、早く見ないと上映終了もある。こういう政治的な映画が今後上映されるためにも、ぜひ若い人が連れ立って見に行って欲しい。見れば、これは若い人こそ見るべき映画だと判るだろう。
(マイケル・ムーア)
マイケル・ムーア(Michael Francis Moore、1954~)は、コロンバイン高校銃乱射事件をテーマにした「ボーリング・フォー・コロンバイン」(2002)で、アカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞を受けた。次の「華氏911」(2004)はブッシュ大統領の再選を阻止を目的に作った映画だが、なんとカンヌ映画祭でパルムドールを受賞した。この映画は情報的には興味深いところもあったけど、ムーア監督が反ブッシュなのは判り切っている。結論が事前に予測できる映画は面白くない。
その後は医療問題を扱った「シッコ」(2007)や「キャピタリズム~マネーは踊る」(2009)などが公開されたが見ていない。あまり評判にならずに、いつの間にか上映が終わっていた。それも「見なくても結論が判りそう」だからかもしれない。今回の「華氏119」も、ムーアが反トランプなのは判り切っている。だけど実際に見てみたら、ムーアの故郷、ミシガン州フリントの水道問題など、あまり日本で報道されていない問題もたくさん出てきて、今のアメリカの抱える問題がよく判る。
ムーアが生まれたフリントは、ゼネラルモーターズ(GM)の創業地で、父はGMの労働者だった。ヒューロン湖を水源としていたが、財政が破たんしてフリント川の水源に変わったところ、水が茶色く濁るなどの被害が起き、基準以上の鉛も検出された。しかし、市は検査結果を改ざんし対策を取らなかった。一方で、GM工場だけはヒューロン湖の水に戻した。経営者出身の共和党知事は、改ざんを知りながら握りつぶしていた。ムーアは知事公邸に向かってフリント市の水道水を撒く。
冒頭でテレビニュースがふんだんに引用されるが、党派を問わずヒラリー・クリントンの勝利を予測していた。当のトランプ自身も、敗北を予測していたらしい。そもそも立候補もジョークみたいなものだった。でもなぜトランプが勝ち、ヒラリー・クリントンは負けたのか。そこにムーアは民主党の堕落を見ている。フリントにもオバマ大統領がやってきたが、住民には失望しか与えなかった。ミシガン州はわずか1万1千票差でトランプが勝った。ほんのちょっとだけ、人々が投票に行けば結果は変わっていた。しかし、政治に失望した人々は投票に行かなかったのである。
この映画は自分で立ち上がることに大切さを教えてくれる。ウェストバージニア州では、低賃金と馬鹿げた医療保険制度(腕に毎日の運動を記録する装置を付けないと加入できない)に怒った教師たちがストライキに起ち上る。学校で朝食と昼食を取っている多くの子どもため、スト中は教師たちが食事を作った。バス運転手など連帯ストも広がり、ついに「ジャスティス」(正義)という名前の共和党知事も教員給与の5%アップを認めた。しかし、教師たちはバス運転手と給食調理員の給与がそのままだったので、ストを継続した。「カントリー・ロード」を歌いながら人々が州議会に詰めかけ、ついに知事は全面的な賃上げを認めた。
フロリダ州の高校で起きた銃乱射事件をきっかけに、多くの若者たちが銃規制を訴えて起ちあがったことは日本でもかなり報道されている。でも銃規制に賛成する議員たちに若者たちが詰め寄るシーンはこの映画でないと見られない。自らの顔と名前を公に出して戦う若者の勇気に、年長者も応えないわけにはいかない。選挙権の登録をする人も増えているという。そうしてみると、日本では高齢者が国会前で抗議することはあるけれど、ストライキと若者が決定的に欠けていると強く思った。日本の教師たち、若者たちは怒ることさえ忘れてしまっているのか。
明らかにウソをばらまくトランプは、21世紀型のヒトラーだとムーアは訴えている。ヒトラーの演説を引用しながら、なかなか説得力がある。トランプはすでに再選を目指している。ジョーク交じりにフランクリン・ルーズベルトは16年やったぞ、中国の習近平は終身大統領だぞと言っている。どっちもウソだ。ルーズベルトは戦時中を理由に4回当選したが、13年で亡くなった。習近平は国家主席は2期までという規則を変えたけど、それは3期以後もできると言うだけで終身ではない。安倍晋三も2期までという党内ルールを自分で変えて、2021年まで首相をできるようにした。トランプは中国や日本がうらやましいのだろう。
*なお、華氏は温度の数え方の一つで、ドイツのファーレンハイトが1724年に考案した。その中国表記から華氏と呼ばれる。ブラッドベリの「華氏451」は紙の燃え上がる温度を指し、読書が禁じられた世界を描いた。ムーアは、恐怖社会を描く意味で使っている。「911」は2001年の同時多発テロ、「119」はトランプが大統領に当選した日である。ちなみに、華氏451度は摂氏232.77度、華氏911度は摂氏488.33度、華氏119度は摂氏48.33度である。意味はないけど。
公開直後に見ることは少ないが、中間選挙前に見たいな思った。ムーアの知名度と反トランㇷ゚というテーマから、「華氏119」は全国で公開されている。東京での単館上映でもおかしくない内容だから、早く見ないと上映終了もある。こういう政治的な映画が今後上映されるためにも、ぜひ若い人が連れ立って見に行って欲しい。見れば、これは若い人こそ見るべき映画だと判るだろう。
(マイケル・ムーア)
マイケル・ムーア(Michael Francis Moore、1954~)は、コロンバイン高校銃乱射事件をテーマにした「ボーリング・フォー・コロンバイン」(2002)で、アカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞を受けた。次の「華氏911」(2004)はブッシュ大統領の再選を阻止を目的に作った映画だが、なんとカンヌ映画祭でパルムドールを受賞した。この映画は情報的には興味深いところもあったけど、ムーア監督が反ブッシュなのは判り切っている。結論が事前に予測できる映画は面白くない。
その後は医療問題を扱った「シッコ」(2007)や「キャピタリズム~マネーは踊る」(2009)などが公開されたが見ていない。あまり評判にならずに、いつの間にか上映が終わっていた。それも「見なくても結論が判りそう」だからかもしれない。今回の「華氏119」も、ムーアが反トランプなのは判り切っている。だけど実際に見てみたら、ムーアの故郷、ミシガン州フリントの水道問題など、あまり日本で報道されていない問題もたくさん出てきて、今のアメリカの抱える問題がよく判る。
ムーアが生まれたフリントは、ゼネラルモーターズ(GM)の創業地で、父はGMの労働者だった。ヒューロン湖を水源としていたが、財政が破たんしてフリント川の水源に変わったところ、水が茶色く濁るなどの被害が起き、基準以上の鉛も検出された。しかし、市は検査結果を改ざんし対策を取らなかった。一方で、GM工場だけはヒューロン湖の水に戻した。経営者出身の共和党知事は、改ざんを知りながら握りつぶしていた。ムーアは知事公邸に向かってフリント市の水道水を撒く。
冒頭でテレビニュースがふんだんに引用されるが、党派を問わずヒラリー・クリントンの勝利を予測していた。当のトランプ自身も、敗北を予測していたらしい。そもそも立候補もジョークみたいなものだった。でもなぜトランプが勝ち、ヒラリー・クリントンは負けたのか。そこにムーアは民主党の堕落を見ている。フリントにもオバマ大統領がやってきたが、住民には失望しか与えなかった。ミシガン州はわずか1万1千票差でトランプが勝った。ほんのちょっとだけ、人々が投票に行けば結果は変わっていた。しかし、政治に失望した人々は投票に行かなかったのである。
この映画は自分で立ち上がることに大切さを教えてくれる。ウェストバージニア州では、低賃金と馬鹿げた医療保険制度(腕に毎日の運動を記録する装置を付けないと加入できない)に怒った教師たちがストライキに起ち上る。学校で朝食と昼食を取っている多くの子どもため、スト中は教師たちが食事を作った。バス運転手など連帯ストも広がり、ついに「ジャスティス」(正義)という名前の共和党知事も教員給与の5%アップを認めた。しかし、教師たちはバス運転手と給食調理員の給与がそのままだったので、ストを継続した。「カントリー・ロード」を歌いながら人々が州議会に詰めかけ、ついに知事は全面的な賃上げを認めた。
フロリダ州の高校で起きた銃乱射事件をきっかけに、多くの若者たちが銃規制を訴えて起ちあがったことは日本でもかなり報道されている。でも銃規制に賛成する議員たちに若者たちが詰め寄るシーンはこの映画でないと見られない。自らの顔と名前を公に出して戦う若者の勇気に、年長者も応えないわけにはいかない。選挙権の登録をする人も増えているという。そうしてみると、日本では高齢者が国会前で抗議することはあるけれど、ストライキと若者が決定的に欠けていると強く思った。日本の教師たち、若者たちは怒ることさえ忘れてしまっているのか。
明らかにウソをばらまくトランプは、21世紀型のヒトラーだとムーアは訴えている。ヒトラーの演説を引用しながら、なかなか説得力がある。トランプはすでに再選を目指している。ジョーク交じりにフランクリン・ルーズベルトは16年やったぞ、中国の習近平は終身大統領だぞと言っている。どっちもウソだ。ルーズベルトは戦時中を理由に4回当選したが、13年で亡くなった。習近平は国家主席は2期までという規則を変えたけど、それは3期以後もできると言うだけで終身ではない。安倍晋三も2期までという党内ルールを自分で変えて、2021年まで首相をできるようにした。トランプは中国や日本がうらやましいのだろう。
*なお、華氏は温度の数え方の一つで、ドイツのファーレンハイトが1724年に考案した。その中国表記から華氏と呼ばれる。ブラッドベリの「華氏451」は紙の燃え上がる温度を指し、読書が禁じられた世界を描いた。ムーアは、恐怖社会を描く意味で使っている。「911」は2001年の同時多発テロ、「119」はトランプが大統領に当選した日である。ちなみに、華氏451度は摂氏232.77度、華氏911度は摂氏488.33度、華氏119度は摂氏48.33度である。意味はないけど。