韓国大法院のいわゆる「徴用工判決」。日本側の主張を先に見たが、一見すると日本側の論理は盤石のように見える。一体、大法院の判決はどのような論理構造によって導かれたのだろうか。判決文の日本語訳は、澤藤統一郎弁護士のブログ「澤藤統一郎の憲法日記」の「徴用工訴訟・韓国大法院判決に真摯で正確な理解を(その3) ― 弁護士有志声明と判決文(仮訳)全文」(2018.11.6付)に「2018.10.30新日鉄住金事件大法院判決(仮訳)」が掲載されている。
非常に長い判決文をていねいに翻訳したもので、「翻訳者は、張界満(第二東京弁護士会)・市場淳子・山本晴太(福岡県弁護士会)である」と注記されている。判決に関してどのような立場を取ろうと、まずはきちんと読んでみる必要がある。そのためにはこの翻訳が非常に役に立つ。ここでも翻訳と掲載に感謝して、この訳文を引用したいと思う。そのことを最初に明記しておくので、2次的な引用は避けて直接原訳文にあたるようにお願いしたい。各新聞等でも骨子は載せていても、全文を報道しているところはないだろう。(全部は調べてないけど。)
(判決前の韓国大法院)
判決は全員一致ではなく、賠償を命じた多数意見と別の立場に立つ原告勝訴、敗訴の少数意見もある。全部読むのは長くて大変だ。もしかしたら少数意見の中に聴くべきものがあるかもしれないけど、とても全部を評価する元気はない。とりあえず確定した多数意見を見ることにする。そこで判るのは、日本の報道に接しているとつい誤解してしまうということだ。この判決は「日韓請求権協定があるけれど新日鐵住金は不払い賃金を払え」などといった単純かつ乱暴なものではない。
大法院判決によれば、「この事件で問題となる原告らの損害賠償請求権は、日本政府の韓半島に対する不法な植民支配および侵略戦争の遂行と直結した日本企業の反人道的な不法行為を前提とする強制動員被害者の日本企業に対する慰謝料請求権(以下「強制動員慰謝料請求権」という)という点を明確にしておかなければならない。原告らは被告を相手に未支給賃金や補償金を請求しているのではなく、上記のような慰謝料を請求しているのである。」
ここにはっきりと語られているが、「不法な植民支配」「侵略戦争の遂行」という歴史的前提のもとで「日本企業の反人道的な不法行為」があったと認識される。この歴史認識のもとで、「強制動員慰謝料請求権」が発生すると認定した。この「強制動員」という認識に関しては日韓で食い違いがあるが、今はそこには触れない。(次回以後に考える。)原告側が求めたこの請求権は、日韓請求権協定の枠外にあると裁判所は判断したわけである。
判決では日韓請求権協定の交渉経過を詳細に検討している。日韓の外交交渉ではたびたび日本側から植民地支配を肯定する「妄言」があった。60年代半ばの時点では、日本側では自民党だけでなく野党の側にも「植民支配」への問題意識が乏しかった。日本側は日韓基本条約、請求権協定で、植民地支配への謝罪などには触れていない。大法院の判断では、だからこそ(請求権協定は)「日本側の不法行為を前提とするものではなかったと考えられる。(中略)「被徴用韓国人の未収金、補償金およびその他の請求権の返済請求」に強制動員慰謝料請求権まで含まれると考えることは難しい。」と判示する。
このような前提のもとで、果たしてそのような慰謝料が認められるべきかどうか検討するわけである。それは事実認定に関わるもので別に考えたい。しかし、上記のような「強制動員慰謝料請求権」というものはあるのだろうか。日本人の多くも、かつて朝鮮半島を植民地支配して両国に不幸な出来事がたくさんあった、今考えてみれば申し訳なかったという認識は持っているんじゃないだろうか。しかし、それは「韓国併合」という「事実」があったからで、その事実自体にさかのぼって「不法」だったと言われると、ちょっとどうなんだと思う人が多いかもしれない。
こうなると、国際法に関する認識というよりも、歴史認識の問題になってくる。韓国大法院の論理は、日本側、というか安倍政権の歴史認識とはまったく異なっているというべきだろう。しかし、韓国の法体系では今は植民支配そのものが不法だったと認識している。だから、日韓請求権協定とは別に不法な支配下で生じた「反人道的な不法行為」は改めて問題となる。そういう論理を隣国が取っているということは、きちんと理解していないといけないだろう。
非常に長い判決文をていねいに翻訳したもので、「翻訳者は、張界満(第二東京弁護士会)・市場淳子・山本晴太(福岡県弁護士会)である」と注記されている。判決に関してどのような立場を取ろうと、まずはきちんと読んでみる必要がある。そのためにはこの翻訳が非常に役に立つ。ここでも翻訳と掲載に感謝して、この訳文を引用したいと思う。そのことを最初に明記しておくので、2次的な引用は避けて直接原訳文にあたるようにお願いしたい。各新聞等でも骨子は載せていても、全文を報道しているところはないだろう。(全部は調べてないけど。)
(判決前の韓国大法院)
判決は全員一致ではなく、賠償を命じた多数意見と別の立場に立つ原告勝訴、敗訴の少数意見もある。全部読むのは長くて大変だ。もしかしたら少数意見の中に聴くべきものがあるかもしれないけど、とても全部を評価する元気はない。とりあえず確定した多数意見を見ることにする。そこで判るのは、日本の報道に接しているとつい誤解してしまうということだ。この判決は「日韓請求権協定があるけれど新日鐵住金は不払い賃金を払え」などといった単純かつ乱暴なものではない。
大法院判決によれば、「この事件で問題となる原告らの損害賠償請求権は、日本政府の韓半島に対する不法な植民支配および侵略戦争の遂行と直結した日本企業の反人道的な不法行為を前提とする強制動員被害者の日本企業に対する慰謝料請求権(以下「強制動員慰謝料請求権」という)という点を明確にしておかなければならない。原告らは被告を相手に未支給賃金や補償金を請求しているのではなく、上記のような慰謝料を請求しているのである。」
ここにはっきりと語られているが、「不法な植民支配」「侵略戦争の遂行」という歴史的前提のもとで「日本企業の反人道的な不法行為」があったと認識される。この歴史認識のもとで、「強制動員慰謝料請求権」が発生すると認定した。この「強制動員」という認識に関しては日韓で食い違いがあるが、今はそこには触れない。(次回以後に考える。)原告側が求めたこの請求権は、日韓請求権協定の枠外にあると裁判所は判断したわけである。
判決では日韓請求権協定の交渉経過を詳細に検討している。日韓の外交交渉ではたびたび日本側から植民地支配を肯定する「妄言」があった。60年代半ばの時点では、日本側では自民党だけでなく野党の側にも「植民支配」への問題意識が乏しかった。日本側は日韓基本条約、請求権協定で、植民地支配への謝罪などには触れていない。大法院の判断では、だからこそ(請求権協定は)「日本側の不法行為を前提とするものではなかったと考えられる。(中略)「被徴用韓国人の未収金、補償金およびその他の請求権の返済請求」に強制動員慰謝料請求権まで含まれると考えることは難しい。」と判示する。
このような前提のもとで、果たしてそのような慰謝料が認められるべきかどうか検討するわけである。それは事実認定に関わるもので別に考えたい。しかし、上記のような「強制動員慰謝料請求権」というものはあるのだろうか。日本人の多くも、かつて朝鮮半島を植民地支配して両国に不幸な出来事がたくさんあった、今考えてみれば申し訳なかったという認識は持っているんじゃないだろうか。しかし、それは「韓国併合」という「事実」があったからで、その事実自体にさかのぼって「不法」だったと言われると、ちょっとどうなんだと思う人が多いかもしれない。
こうなると、国際法に関する認識というよりも、歴史認識の問題になってくる。韓国大法院の論理は、日本側、というか安倍政権の歴史認識とはまったく異なっているというべきだろう。しかし、韓国の法体系では今は植民支配そのものが不法だったと認識している。だから、日韓請求権協定とは別に不法な支配下で生じた「反人道的な不法行為」は改めて問題となる。そういう論理を隣国が取っているということは、きちんと理解していないといけないだろう。