アメリカ中間選挙ももう少し書きたいことがあったんだけど、体調を崩して2日ほど寝込んでしまった。一回書いただけの「徴用工判決」問題に戻って、書いてしまいたい。まずは日本側の主張を見ておきたい。まあ知ってるというかもしれないけど、「日韓請求権協定」の文面にあたった人も少ないと思う。正式に言えば、「財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定」は1965年6月22日に東京で署名され、12月11日に国会で承認された。12月18日にソウルで批准書の交換が行われ発効した。
さて、その請求権協定では以下のように書かれている。(全部読むとめんどくさいけど。)
第二条
1 両締約国は、両締約国及びその国民(法人を含む。)の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が、千九百五十一年九月八日にサン・フランシスコ市で署名された日本国との平和条約第四条(a)に規定されたものを含めて、完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する。
2 この条の規定は、次のもの(この協定の署名の日までにそれぞれの締約国が執つた特別の措置の対象となつたものを除く。)に影響を及ぼすものではない。
(a)一方の締約国の国民で千九百四十七年八月十五日からこの協定の署名の日までの間に他方の締約国に居住したことがあるものの財産、権利及び利益
(b)一方の締約国及びその国民の財産、権利及び利益であつて千九百四十五年八月十五日以後における通常の接触の過程において取得され又は他方の締約国の管轄の下にはいつたもの
3 2の規定に従うことを条件として、一方の締約国及びその国民の財産、権利及び利益であつてこの協定の署名の日に他方の締約国の管轄の下にあるものに対する措置並びに一方の締約国及びその国民の他方の締約国及びその国民に対するすべての請求権であつて同日以前に生じた事由に基づくものに関しては、いかなる主張もすることができないものとする。
重要なところはゴチックにしておいた。判決以後、日本政府首脳はこぞって韓国を「国際法違反」と非難しているわけだが、請求権協定の文面を読む限り、それも当然かなと思う。請求権協定は「国家間の取り決め」であって「国民」を束縛しないという趣旨のことを言う人もいるが、協定には「国民(法人を含む。)」と明記されていて、法人である新日鉄住金に対する請求権は協定で解決済みとするのは常識的な理解だろう。日本政府はこの問題を国際司法裁判所に提訴する方針も示している。(相手国が応諾しないと手続きは開始されないが。)それも国際法上の解釈に関して自信を持っているということだと思われる。
(判決を非難する安倍首相)
日本政府も「個人の請求権は否定していない」という意見も見られた。ある意味で当たり前であって、裁判制度を持つ国で訴訟を起こす権利がその国民にあるのは当然だろう。90年代以後に数多くの戦後補償裁判が、日本国民によっても、あるいは中国人や韓国人によっても提訴された。その裁判で国は一貫して「法的責任」を否認したが、「請求権そのものがない」という主張はしていないと思う。先の協定を見ても、提訴はできるが請求権協定の趣旨によって却下されるべきだというのが日本政府の考え方だろう。
1965年当時、ほとんど論じられていなかった戦時中の被害に関しては、「例外」だという考え方がある。韓国政府は「慰安婦」「サハリン在住韓国人」「韓国人被爆者」はそれにあたると主張している。日本側は法的には決着済みとしながらも、これらの問題では被害者への支援を(いろいろと問題はありつつも)行った。しかし、戦時中の労働者の請求権に関しては、請求権協定の目的そのものであって、日本政府からすれば決着済みというしかないだろう。
ところで、この裁判は民事裁判である。刑事裁判の場合、裁判の原則は厳しく守られるべきである。(日本の刑事裁判では「疑わしきは被告人の利益に」などの原則がないがしろにされているような判決はよく見られるが。)しかし、民事裁判では「より大きな正義」のためには原則を拡大解釈することも時にはありうる。日本の裁判でも民法上の「除斥期間」(いわゆる「時効」)に関しては柔軟な解釈を行った裁判はいくつもある。韓国大法院の判決は一体、どのような論理で原告側勝訴という決定を導き出しているのだろうか。それは次回以後に検討したい。
素人考えで原告、被告側にそれぞれ不利と思われる論点を最後に書いておきたい。一つは「新日鉄住金」という法人は戦時中にはなかったという問題である。徴用工が働いたのは「日本製鐵」である。戦後になって「八幡製鉄」「富士製鉄」に分割され、1970年に両者が合併して「新日本製鐵」となった。そして2012年に住友金属工業と合併して「新日鐵住金株式会社」が成立した。もちろん、日本製鐵に対する請求権は、新日鉄住金に継承されている。そのことは争いがない。
会社が合併しても、以前の会社に対する権利権限は次の会社に受け継がれる。それは国家の場合も同様で、ソ連崩壊後はソ連の権利をロシア連邦が引き継いだ。そのことでソ連の持っていた国連安保理の常任理事国の地位はロシアに引き継がれたが、同時にソ連の結んだ条約等はロシアに守るべき義務が生まれた。そういう風なことを考えると、日本製鐵の対する請求権が引き継がれるのは当然だけど、韓国政府の協定解釈の方も韓国国家に引き継がれていかないと何となくおかしいような気がする。どんなもんだろうか。
それと反対に、それでも問題化しているのは現実に不払い賃金などがあるためである。日本国としては請求権協定で終わったとしても、現に働いた会社が全然負担しないというのでは、それは原告側に納得できない感じが残るのも当然なんじゃないだろうか。請求権協定を読む限りでは日本政府の主張が正しいように思えても、どうしてもそれだけで全部済むのかという感じも消えない。
さて、その請求権協定では以下のように書かれている。(全部読むとめんどくさいけど。)
第二条
1 両締約国は、両締約国及びその国民(法人を含む。)の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が、千九百五十一年九月八日にサン・フランシスコ市で署名された日本国との平和条約第四条(a)に規定されたものを含めて、完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する。
2 この条の規定は、次のもの(この協定の署名の日までにそれぞれの締約国が執つた特別の措置の対象となつたものを除く。)に影響を及ぼすものではない。
(a)一方の締約国の国民で千九百四十七年八月十五日からこの協定の署名の日までの間に他方の締約国に居住したことがあるものの財産、権利及び利益
(b)一方の締約国及びその国民の財産、権利及び利益であつて千九百四十五年八月十五日以後における通常の接触の過程において取得され又は他方の締約国の管轄の下にはいつたもの
3 2の規定に従うことを条件として、一方の締約国及びその国民の財産、権利及び利益であつてこの協定の署名の日に他方の締約国の管轄の下にあるものに対する措置並びに一方の締約国及びその国民の他方の締約国及びその国民に対するすべての請求権であつて同日以前に生じた事由に基づくものに関しては、いかなる主張もすることができないものとする。
重要なところはゴチックにしておいた。判決以後、日本政府首脳はこぞって韓国を「国際法違反」と非難しているわけだが、請求権協定の文面を読む限り、それも当然かなと思う。請求権協定は「国家間の取り決め」であって「国民」を束縛しないという趣旨のことを言う人もいるが、協定には「国民(法人を含む。)」と明記されていて、法人である新日鉄住金に対する請求権は協定で解決済みとするのは常識的な理解だろう。日本政府はこの問題を国際司法裁判所に提訴する方針も示している。(相手国が応諾しないと手続きは開始されないが。)それも国際法上の解釈に関して自信を持っているということだと思われる。
(判決を非難する安倍首相)
日本政府も「個人の請求権は否定していない」という意見も見られた。ある意味で当たり前であって、裁判制度を持つ国で訴訟を起こす権利がその国民にあるのは当然だろう。90年代以後に数多くの戦後補償裁判が、日本国民によっても、あるいは中国人や韓国人によっても提訴された。その裁判で国は一貫して「法的責任」を否認したが、「請求権そのものがない」という主張はしていないと思う。先の協定を見ても、提訴はできるが請求権協定の趣旨によって却下されるべきだというのが日本政府の考え方だろう。
1965年当時、ほとんど論じられていなかった戦時中の被害に関しては、「例外」だという考え方がある。韓国政府は「慰安婦」「サハリン在住韓国人」「韓国人被爆者」はそれにあたると主張している。日本側は法的には決着済みとしながらも、これらの問題では被害者への支援を(いろいろと問題はありつつも)行った。しかし、戦時中の労働者の請求権に関しては、請求権協定の目的そのものであって、日本政府からすれば決着済みというしかないだろう。
ところで、この裁判は民事裁判である。刑事裁判の場合、裁判の原則は厳しく守られるべきである。(日本の刑事裁判では「疑わしきは被告人の利益に」などの原則がないがしろにされているような判決はよく見られるが。)しかし、民事裁判では「より大きな正義」のためには原則を拡大解釈することも時にはありうる。日本の裁判でも民法上の「除斥期間」(いわゆる「時効」)に関しては柔軟な解釈を行った裁判はいくつもある。韓国大法院の判決は一体、どのような論理で原告側勝訴という決定を導き出しているのだろうか。それは次回以後に検討したい。
素人考えで原告、被告側にそれぞれ不利と思われる論点を最後に書いておきたい。一つは「新日鉄住金」という法人は戦時中にはなかったという問題である。徴用工が働いたのは「日本製鐵」である。戦後になって「八幡製鉄」「富士製鉄」に分割され、1970年に両者が合併して「新日本製鐵」となった。そして2012年に住友金属工業と合併して「新日鐵住金株式会社」が成立した。もちろん、日本製鐵に対する請求権は、新日鉄住金に継承されている。そのことは争いがない。
会社が合併しても、以前の会社に対する権利権限は次の会社に受け継がれる。それは国家の場合も同様で、ソ連崩壊後はソ連の権利をロシア連邦が引き継いだ。そのことでソ連の持っていた国連安保理の常任理事国の地位はロシアに引き継がれたが、同時にソ連の結んだ条約等はロシアに守るべき義務が生まれた。そういう風なことを考えると、日本製鐵の対する請求権が引き継がれるのは当然だけど、韓国政府の協定解釈の方も韓国国家に引き継がれていかないと何となくおかしいような気がする。どんなもんだろうか。
それと反対に、それでも問題化しているのは現実に不払い賃金などがあるためである。日本国としては請求権協定で終わったとしても、現に働いた会社が全然負担しないというのでは、それは原告側に納得できない感じが残るのも当然なんじゃないだろうか。請求権協定を読む限りでは日本政府の主張が正しいように思えても、どうしてもそれだけで全部済むのかという感じも消えない。