尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

旧東京音楽学校奏楽堂を見る

2018年11月08日 23時02分41秒 | 東京関東散歩
 最近散歩をしてなかった。夏は連日の猛暑で、9月になったら10月半ばまでほぼ毎日雨。どうも出かける気がしない。ようやく秋晴れが続いているので、上野公園にある「旧東京音楽学校奏楽堂」に行ってみた。5年前から保存活用工事で休館していて、11月2日にリニューアルオープンしたばかり。実は一度も行ったことがなくて、数年前に上野公園を散歩した時は閉まっていた。国立博物館と都美術館の先、芸大の手前に移築されている。重要文化財指定。
   
 1893年に建設された日本最初の本格的ヨーロッパ式音楽ホールである。東京音楽学校、つまり今の東京芸術大学の演奏会場で、ここで多くの有名な音楽家が学んできた。滝廉太郎がピアノを弾き、三浦環が日本最初のオペラを演じた。1971年まで使われたから、戦後に活躍した音楽家もたくさん演奏したのである。老朽化で使用中止となり、一時は明治村への移築も検討されたが、保存運動が起きて地元の台東区が中心となって上野公園に移築された。1987年のことで、東京でも早い試みだった。現在も音楽会に使用される施設となっている。
   
 一階に展示施設があり、階段を上るとホールがある。舞台正面にはパイプオルガンがあり、天井には大きなシャンデリア。演奏会がある日は公開していないが、やってないときは座席にも座れる。入館料300円なりが必要だが、動物園や博物館は座って見る場所が少ないから奏楽堂もいいかなと思った。歴史を感じながら物思いに浸れる。まあ見物客は時々は来るが。
  
 窓から外を見たり、廊下を撮るのも面白い。外には滝廉太郎の銅像があった。展示室は写真を撮れないところもあるが、日本の音楽史に貴重な史料がいっぱい。奏楽堂自体は小さな施設だが、他にいっぱいある中で、ここも立ち寄るのも面白い。一度演奏会にも行ってみたい。隣の都美術館でムンク展を見ようかと思ったけど、どうもすごい混雑なので敬遠することにした。上野公園のあちこちをブラブラ歩きながら、松坂屋新館だったところにできたTOHOシネマズ上野で「ビブリア古書堂の事件手帖」を見て帰った。
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一期一会の傑作、「日日是好日」

2018年11月08日 22時06分01秒 | 映画 (新作日本映画)
 樹木希林が忘れがたい茶道の師匠「武田先生」を演じている「日日是好日」(にちにちこれこうじつ)はとても感動的な映画だ。どこに感動するのか、うまく言語化できないような映画だが。茶道の細々とした所作がていねいに描写される。全然知らないんだけど、まったく退屈せず、次第にひきこまれてゆく。お茶は判らなくても、和菓子は美味しそう。季節は移り行き、人々は去りゆく。まさに一期一会で、現実に樹木希林はもういない。一人ひとりがその人なりの感慨を覚えて見る映画。

 森下典子の自伝的エッセイが原作。典子黒木華)は同い年のいとこ、美智子多部未華子)と一緒にお茶を習うことになる。地方から出てきている女子大生の美智子は時々典子の家に遊びに来る。そんな席で、親戚の武田先生はなんでもすごい茶道の先生だという話が出て、じゃあ習ったらという成り行きになった。学生向けに特別に土曜日に教えてくれることになり、地図を見ながら複雑な道をたどって町の中に隠れたような一軒家に着く。

 この出だしのリズムがよく、何だかこちらもドキドキしながらもお茶の世界に魅せられてゆく。最初は若い二人だけだから、果たして所作を失敗せずにできるようになるのか、それだけでドラマが成立する。黒木華と多部未華子はタイプが違うわけだが、その組み合わせもうまい。お茶は「形から入る」ということで、昔はそういう世界に反発もあったけど、それもまたよしという思いが今はある。季節ごとにお茶のあり方も変わり、そんな日本文化の面白さも感じる。ほとんど茶道の場面だけで進行してゆくが、次第に卒業、仕事、恋愛などの人生シーンも点描されてゆく。

 学生時代は美智子と一緒だったが、やがて典子ひとりが習うシーンが多くなる。季節や風景の移り変わりを見ながら、小さな茶席が「世界」のように感じられてくる。そこで成長してゆく黒木華演じる典子の人生行路を一緒に眺めているような映画で、ユニークな構成だけど非常に気持ちがいい。こういう映画こそ、外国の映画祭に出品して評価を聞いてみたい。武田先生を演じる樹木希林は、本当に茶道の先生としか思えない素晴らしい存在感。最後の最後に作られた映画だけど、これもまた代表作だろう。見事の一言に尽きる。

 監督は大森立嗣(たつし)で、「ゲルマニウムの夜」でデビュー以来、フィルモグラフィを調べて見ると全部見てるんで驚いた。「さよなら渓谷」が最高傑作で、「まほろ駅前多田便利軒」(2011)、「まほろ駅前狂騒曲」(2014)が一番有名か。近年も「セトウツミ」(2016)「」(2017)と毎年作ってるけど、今ひとつ納得できなかった。「日日是好日」は今までの作風とかなり違っているが、安定した力量を証明している。今後も期待したいと思う。
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