尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

「捕食」の構造、持続化給付金と「岡村発言」ー「ポストコロナ」世界考⑤

2020年06月16日 22時54分12秒 |  〃 (新型コロナウイルス問題)
 新型コロナウイルス感染者数はアメリカが圧倒的に多いが、いつの間にかブラジルが世界第2位になった。アマゾン奥地の先住民にも感染が広がっているという。どうして遅れてブラジルで感染が広がったのか。南半球のブラジルでは、富裕層が避寒のためにヨーロッパを旅行していて、感染拡大以後にウイルスを持ち帰った。富裕層の家で働いている家政婦などを通し、ファヴェーラと呼ばれるスラムの「密」空間にあっという間に広まったのだという。

 そう言われてみると、なるほどブラジル社会の階層構造がはっきり見えてくる感じがする。「ウイルス」を媒介にして、「捕食者」と「被食者」の関係性があぶり出されてくる。この「捕食」「被食」というのは、生物の食物連鎖の用語だが、世界的な「自由競争」「新自由主義」の下で、社会を見るときにも役に立つ概念になってしまった。人間の世の中は単純な「食うか食われるか」の世界ではないけれど、あえて単純に図式化すれば、やはり「捕食者」と「被食者」に分かれている。

 その事実を最近一番感じたのは、「持続化給付金」の落札経緯だ。「サービスデザイン推進協議会」という一般社団法人が落札したが、その後電通に「丸投げ」され、以後も下の画像にあるように複雑怪奇な流れで全体像がよく判らない。かの竹中平蔵元総務大臣が会長を務める人材派遣会社パソナもちゃんと絡んでいる。どうもそういうことが多い。労働者派遣事業をどんどん合法化して、その後会社側に立場を変えて、どんどん政府の事業を請け負う。これでは「捕食者」が仕組みを作って、派遣労働者は「被食者」になる世界だ。電通は自民党の選挙を仕切って、政府の事業も担当する。

 別の問題だが、今回のコロナウイルス問題では「風俗産業」をめぐる議論も起こった。自粛要請で「閉店」した場合、「夜のお仕事」あるいは「性産業」の補償はどうあるべきか。当初は全く補償がなく、シングルマザーで他の仕事に雇って貰えずやむを得ず風俗業に就いている人もいる、困窮すれば次世代にも影響する…という論点である。この場合だけではなく、政府が当初「自粛要請」する際に「フリーランス」「文化の担い手」に対する配慮や手当が全く見られなかった。やはり「大企業」の「正社員」じゃないと政治家の目に入ってないのである。
 (岡村隆史「発言」問題)
 性産業をめぐっては、ニッポン放送の「オールナイトニッポン」での岡村隆史発言もあった。この「失言」(間違いなく「失言」のカテゴリーに入る)をどう考えるべきか。僕もいろいろ感じたのだが、今まで書かなかった。「セックスワーカー」の世界は全く知らないので、軽々しく発言できない。「キャバクラ嬢」や「ホスト」だったら、夜間定時制に勤務すれば生徒の中にたまにいる。親も辞めさせたい場合もあれば、放任の場合もある。教師として、非難も応援も出来ない。何とか高校卒業はした方がいいというスタンスで指導を続ける以外にない。「性の商品化」を非難するだけで、この世からなくなる問題ではない。外国には「セックスワーカー」の労働組合がある国もあるらしいが、それが正しいのかも判らない。

 政権№2に「失言大王」を戴く国である。僕は「岡村降板運動」をする以前に、まず「麻生辞任」が必要だと思っている。だが麻生大臣の「失言」も、本人の主観では「良いことを述べる」文脈の中で生じることが多い。それが「失言」というものだ。今回の「岡村発言」そのものは、大体の人が覚えていると思うが、概略は上の画像に譲る。これも深夜放送という場で、「何とか自粛を促す」という「良き目的」の文脈だから、本人のホンネ的な発言が出てしまうのである。「コロナ禍で困窮を極める人」は本来あってはならないわけだから、公的な場で言ってはならないことに間違いない。

 ただ僕は当初から、この発言に含まれる「居心地の悪さ」をどう表現したらいいのか、よく判らなかった。もちろん「性の商品化」そのものの問題もあるが、それだけではない気がした。それは「他人の困窮」を「楽しみに待つ」という感性をどう考えたらいいのかという問題だ。ブラジルの状況や持続化給付金問題を考えているうちに、何となく思うところがあった。岡村発言は「捕食者目線」なのである。堕ちてきたら食べちゃうぞと網を張ってるクモみたいな感じ。世の中は「捕食者」「被食者」に分かれていて、自分は「捕食」の側だということが自明視されている。その点に居心地が悪かったのである。今回のウイルス問題の中で、世界の構造が「見える化」されたのだと思う。
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