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尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

二兎社公演「ザ・空気 ver.3 そして彼は去った…」

2021年01月13日 22時09分47秒 | 演劇
 永井愛作・演出の二兎社公演44「ザ・空気 ver.3 そして彼は去った…」を見た。(東京芸術劇場シアターイースト)ずいぶん久しぶりに演劇公演を見たけれど、緊急事態宣言と重なって観客は6割ほどという感じだった。もともと全席販売で、ネットで買ったときにはほぼ売れていた。去年の緊急事態宣言時に、国立劇場で見た桂文珍、笑福亭鶴瓶の落語会は半分以上空いてた。比べれば、まだしも入っていたと言うべきか。

 2時開始で1時間45分ほどと短い。俳優もマスクをしている。ロミオとジュリエットがマスクをしてたらおかしいけど、現代日本のテレビ局が舞台だからマスクをしてないと不自然である。「ザ・空気」シリーズは、1回目でテレビ局の「忖度」、2回目で国会記者会館屋上を舞台に「記者クラブ」を描いた。3回で完結らしいが、今回は再びテレビ局を舞台にしている。(以下、内容に触れるので、今後見る予定の人は注意。なお、当日券は売らないようだ。)

 「そして彼は去った…」と副題が付いているが、この「彼」は直接的には劇中の政権寄りの「政治ジャーナリスト」、横松輝夫佐藤B作)を意味しているが、もう一人「日本の前首相」も意味しているだろう。劇中でも「新首相」になっていて、生放送番組の「報道9」内の「激論」では「新政権の4ヶ月」がテーマである。政権批判派を呼ぶときは、必ず政権擁護派も呼ばなければいけないというテレビ局首脳の命令により横松が呼ばれた。しかし、「検温」すると何度やっても37.4度。これが笑わせる。規定内だがギリギリで、ちょっと怖いから一人だけ会議室に「隔離」される。
(永井愛)
 その会議室は数年前に政権批判で知られた桜木が自殺した場所だった。横松は桜木とは同じ新聞社の社会部で働き、その当時はジャーナリストとしての矜持を持っていた。会議室には若いアシスタントディレクター袋川昇平金子大地)しかいないので、横松は自分が何で「隔離」されるんだ、チーフプロデューサー星野礼子神野三鈴)を呼べとうるさい。そこで佐藤B作と神野三鈴の丁々発止のやり取りになる。星野はどうも局幹部によって飛ばされたようで、今日が最後の担当日。異動先は「アーカイブ室主任」で、「昇格だけど左遷」である。

 他にチーフディレクター新島利明和田正人)、サブキャスター立花さつき韓英恵)と登場人物は5人。横松は大病したばかりで久しぶりのテレビ出演。「政権擁護」の役回りだが、リハーサル中に何故か桜木が乗り移ったかのように「新首相批判」を始めてしまう。どうもおかしい、やはり病気か、どうすると混乱するうちに、横松が特ダネがあると言い始める。新首相が「日本学術アカデミー」の会員候補6人の任命を拒否した問題で、候補者の「政権批判度」の「通信簿」を作ったのは自分だ、スマホに証拠の文書があると暴露する。

 この特ダネを報じるかどうか。そこで各人の立場が浮き彫りになってゆく。下請けの立場の新島は、これで番組がつぶれたら困る。若い袋川は何か大きなことがしたい。いつも横松に「セクハラ」されている立花さつきもやっちゃえと乗り気。そして最初は大乗り気だった星野だったが…。「世代」や「働き方」による違いの中にあって、次第に大問題になってしまって星野も揺れていく。そんな星野に対して、「正義を語っていられたのは、自分のような政権擁護派がいるから、安心して批判できるんだ」と横松は語る。そして今日は帰ると言って去って行く。

 面白いんだけど、僕は2作目が一番面白くて出来も良かったと思う。今作に関しては、「新首相」がドラマの敵役としては「小粒」なのかもしれない。それに観客も今までに比べて少なく、隣との区切りもあるから少し乗りにくかった。それもあるけれど、今回の「特ダネ」自体が弱いのかなと思う。「民間人作成の文書」に過ぎず、「参考にしたかどうか」以前に「横松から受け取っているか」さえ「人事の問題なので、お答えを差し控えさせて頂く」で終わってしまうだろうと僕は予想する。それでも「日本学術会議」問題をこれほど鋭く取り上げていることに感銘した。
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