prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「カポーティ」

2006年10月29日 | 映画
初めてクリフトン・コリンズjr演じるペリー・スミスがカポーティの訪問を受ける場面、女囚用の監獄に閉じ込められていて、く、く、と首を伸ばして姿が見えない鳥の姿を眺めている。
「サイコ」のアンソニー・パーキンスが扮するノーマン・ベイツが探偵の尋問を受けるシーンのようだ、と思うと後の法廷場面で、スミスは多分その時記憶した鳥のスケッチを描いている。(ベイツは母親を鳥のように剥製にしていた)

スミスもカポーティも母親あるいは母親的なものとの関係が歪んでいるが、ここでも「サイコ」(これも元は実話ネタ)のように鳥は母親的なものとの関連が深いみたい。

カポーティの取材は、今のニュー・ジャーナリズム式にとにかく大量の人と会ってデータをかき集めるというのとはまったく違う。
実際にまず人に会って取材するのはリーの方で、カポーティは母親の後ろに隠れる小さな子供のように控えてじっと話を聞いて覚える。
それから後から出て行ってから、表面的なジョークを言って受けを取って「人気者」になる、というのが彼の生き方だったよう。

カポーティの仲間(護衛係などと呼ばれたりする)の女性作家ハーバー・リーが書いて映画化される「アラバマ物語」の原題はTo Kill A Mockinbird、「ものまねを殺すには」だ。

それが自分が共鳴できてしかも生殺与奪権を持つことになるスミスとの関係では、最終的に相手と、というより自分のエゴと直面しなくてはいけなくなる。
それが結局カポーティ自身も作家としての自分を殺したのだろう。ウィスキーをベビーフードに混ぜて食べるというのは異様。

これでオスカーを得たフィリップ・シーモア・ホフマンは、妙にソフトでぬるっとした喋り方やしなを作るような歩き方、女教師のようにメガネをしきりと直す癖、そしておしゃれ自慢など至る所に女性的な記号をふりまく。

余談だが、カポーティと組む編集者のウィリアム・ショーン(ボブ・バラバン)の名前を聞いてウディ・アレン作に顔を出したりするウォーレス・ショーンと似ているなと思って調べてみると、果たせるかな親子。ニューヨークのスノッブの世界も狭いみたい。
ウィリアムはエレベータに乗るのも怖がる閉所恐怖症だったらしい。カポーテイとお似合いという感じ。
(☆☆☆★★★)


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