岡崎宏三撮影、水谷浩美術のこってりした質感が見事。言葉が上方でないのが不思議なくらいねちっこい手触りだが、舞台はなんと下北沢。1962年はこんなだったのかと驚く。闇市が辛うじて残っている。
というか、だいぶ長いこと行っていないから今行ったら改めて驚くだろう。
冒頭いきなり小沢昭一がバーに入っていったら女二人が誰なのかわからないまま(片方は京マチ子=大阪出身)いきなりぐちゃぐちゃした取っ組み合いになるなんともいえないカオスな出だしだが、すぐ豊田四郎らしい端正さとせめぎ合うようになる。
棟方志功をあしらった屏風の前で、小沢栄太郎が京マチ子の愛人に対して「女を泣かしてはいけまへん、それが私のモットーです」と言うのに対して京が「もっともです」と返したら、何を勘違いしたのか「違います、モットーです、わかります?」という変なやり取りになる。聞き違いしたのか確かめようともしない、小沢が京を見下しているのが一発でわかる。
元は京がテレビドラマで初主演した水木洋子の脚本「あぶら照り」の映画化らしい。昔のテレビドラマは「男はつらいよ」にしても、市川崑版「破戒」にしても映画版とは別に作られていても現存していないことが大半なもので比較できないのが困る。
佐田啓二の映画としては最後になってしまった作品だという。めずらしく色悪の役。