口がきけず耳が聞こえないヒロインとあって、危機を逃れるのに目の見えないヒロインのサスペンスものと比べるとややハードルが低くなるかなと思っていたら、別のアプローチをかけてきた。
これくらい殺人鬼が堂々と初めから顔をさらしてきて、一般人や警察に逃げ隠れしないのも珍しい。
ヒロインが助けを呼ぼうとしてもうまく意思が伝えられないから周囲の人間は口の旨い殺人鬼に丸め込まれてしまうのが見ていてハラハラというかもどかしくてたまらないというのが基調。
警察を頼ったり大勢人がいるところに来ても、助けて欲しいという意思が伝えられないと役に立たないというのが巧い。どれだけ普段も孤独なのかという暗示にもなっている。
最初の方でヒロインが会社の接待でお酌係を務めるところで、取引先の男どもが立場の強さに乗じてセクハラ丸出しの態度をとるのに、相手がわからない手話でくたばれとニコニコしながら言うのがユーモラスであるとともに意思の疎通の絶望的な欠落を早くから見せる。
これにもう一人殺人鬼に捕まって監禁されている女性とその兄が絡む。このマッチョな兄が
殺人鬼がヒロインを自分の妹だと言いくるめようとしたり、この兄と妹という男が女を庇護するものという通念の具現化があちこちで変奏されるのも新手。健常者と障碍者との関係にも当然だぶる。
やたら高低差が激しい夜の住宅街で展開される追っかけは絵面が「チェイサー」を思わせた。
警察や軍人がおよそ当てにならないあたり、韓国映画の体質としてお上を信用していない感じ。
ヒロインのチン・ギジュ はそのまま日本のアイドルにいてもおかしくない容姿。
殺人鬼のウィ・ハジュン が優男風な分、蛇みたいなぬるっとした厭らしさをのぞかせるのが効く。