監督脚本のジェームズ・グレイの自伝的作品だというが、彼が自己を投影しているであろう少年が成長して映画監督になるのかというとまったく違う。
課外授業で美術館に行き、カンディンスキーの抽象画を見て目覚めるところは描かれるが、そこから美を追及する道に入るかというと、そんなことはない。
メインになっているモチーフは人種差別で、主人公の少年はユダヤ人、その友人は黒人で、被差別者の中にもランクはあって、そのつもりはなくても友人の犠牲の上にかろうじて塀の中に放り込まれるのを免れた後ろめたさを抱えて生きていかなくはならない。
はじめの方に出てくる学校が明らかに貧乏人向けで、転校する先が裕福な生徒ばかり、描かれてはいないが相当に両親が経済的にムリしているだろうなと思う。
タイトルが人名の頭文字も小文字で綴られている。そのつつましい感じがふさわしい。
アンソニー・ホプキンスが自分の苦労話を苦労を滲ませないで語るのがいい味わい。