川崎はぼくの故郷のようなもの。ぼくが中学二年の三学期に三鷹から引っ越してきて、それ以来、実家は、母が亡くなる2年前まであった。その、ぼくが青春時代をすごした、川崎で一昨日、ワイフと映画を観に行った。”マイ・バック・ページ”だ。原作は川本三郎さんだが、たしかぼくと同い年だ。ときどき、図書館で、彼の、映画のこととか町歩きもの等の本を覗いている。ただ”マイ・バック・ページ”は読んでいない。彼の自伝的小説で、それが映画化されたいうので、関心はもっていた。
彼が大学を卒業し、69年朝日新聞社に入社し、配属は週刊朝日に決まった。そして71年、朝日ジャーナルに異動し、”朝霞事件”担当した。しかし、川本自身が述べるように、”あの事件は若造記者が、様々な思いを交錯させながら渦中に踏み込んで、起きた。そして負け戦をした(朝日新聞/逆風満帆欄より)”。執行猶予付きの有罪を受け、72年9月に社を止める。この若き日の3年間あまりが、この映画の物語である。ぼくも、川本さんと同じ、社会人になってからの3年間なんて、森田公一(阿久悠作詞)の歌じゃないけれど、”青春時代が 夢なんて 後からほのぼの 思うもの 青春時代の 真ん中は 道に迷っている ばかり”だった。
若き日の川本を妻夫木聡が、事件の首謀者は松山ケンイチが演じる。監督は、34歳の山下敦弘。”道に迷っているばかり”の青春時代の主人公を妻夫木が好演。てきぱきとした、先年のNHK大河ドラマの直江兼続役とは好対照。無名の活動家、松山ケンイチと取材で自宅で接触。宮沢賢治が好きで本を貸してくれといい、ロックのCCRが好きだとギターを弾く、松山につい共感を覚えてしまい、心を許す。結局、松山の自衛隊基地からの武器の奪取は失敗し、おまけに殺人まで犯してしまう。朝日新聞(映画では別名)の社会部(にくにくしげな部長は三浦友和)がこれをかぎつけ、警察に通報。妻夫木は証拠隠滅罪で逮捕される。
執行猶予になって、以前の仲間から仕事をもらい、食いつないでいた。何気なく、入った、居酒屋。おやじが、あれ、おまえじゃないか、今、何してるのと。週刊朝日時代、山谷に、身分を隠し、一か月の潜入ルポに入ったときの住人のひとりだった。お嫁さんをもらい、かわいい子供をもち、居酒屋で成功している。忙しそうにお客と対応している主人の影で、妻夫木の目がうるみ、そして溢れる涙を抑えることができない。ぼくも一緒に涙を流さずにはいられないラストシーンだった。だれにでもある、”青春の蹉跌”の物語である。とりわけ同世代の人には見逃せない映画だ。
これから映画を観る人は、最後の節は読まない方が楽しめると思います。もう遅いか。