二子玉川の静嘉堂文庫美術館は初めて訪れる。お目当ては”平治物語絵巻/信西巻だ。平治物語絵巻は、現在、東博で開催中のボストン美術館で展示されている”三条殿夜討巻”と、それに続く静嘉堂の”信西巻”、そのあとが、これも東博の平常展で展示中の”六波羅行幸巻”の三巻からなる。現在、この三巻が原本として伝わっている。実際は、さらに”六波羅合戦巻”が断簡の形で残っており、侍賢門合戦巻の摸本(東博)もあることから、全5巻で構成されていたらしい。
原本三巻が同時期に観られるチャンスは、もう生涯来ないと思うと、二つみて最後に残った信西巻を見ないわけにはいかなかった(汗)。念願の平治物語三巻制覇は5月16日に成し遂げられたのであった。

広大な敷地内の緑地を歩くこと30分(うそどす、でも緑地内をうろつきまわっていたので、その時間は本当です)、静嘉堂文庫がその姿を現した。うるわしい近代建築。英国風だという。入ろうと思ったら、ここは美術館ではありません、あっちの建物です、との貼り紙。あっちをみたら現代的建物が。そこが美術館だった。
会場へ。いきなりギョギョだった。玄関口の粗末な場所に(笑)、まるで家政婦さんのように、その平治物語信西巻は待機しておられた。もっと奥まったところにおられると思ったのに。食事でおいしいものは最後に残す人には不満かもしれない。さすが、お宝がいっぱいの岩崎家の美術館、と変なところで感心。
信西巻は、第一段から四段まであるが、三期に分けての展示で、今回は最終グループ、第4段だけ。三条河原で新西の首が、光保から源資経に渡される場面から始まり、首を薙刀にくくり、三条大路を引き回す武者行列、そして、最後は獄門の棟木に首がくくりつけられ、市中の人々が見物にくる場面になる。ちょっと残酷、と思うかもしれないが、それ以前の1~3段では、信西が自害して生き埋めになったり、それを掘り起こされ、首だけ切られるとか、もっと残酷な場面が多い。大河ドラマの(信西役の)阿部サダヲ・フアンの人は覚悟しておいてくださいね。

でも、武者行列などの詳細な描写はみもの。
これで三巻制覇のイギョウ達成。ほっとして、次の絵巻に。”住吉物語絵巻”と”駒競行幸絵巻”、いずれも一部の展示だが、姫君たちの豪華な衣装などがみられる。戦記物から一転、華やかな絵巻を楽しむ。そして、祈りの美の間。うつくしい観音さまや菩薩さま。コワい不動明さまにひれ伏して、次なる間は、室町水墨画。雪舟さんはいなかったが、その雰囲気が伝わる山水の世界。
締めは、華麗なる江戸絵画の間。”四条河原遊楽図屏風”。今もこの辺りは賑やかだけど、江戸時代も賑わっていた。遊女歌舞伎やお能、見世物や犬の曲芸を見物にきた人々の笑い声やざわめきが聞こえてきそうだ。屏風の前に外人男女が座り込んで、画面の人物を指さしながら、楽しそうに語っていた。そして、狩野派あり、江戸琳派あり、応挙の江口君図あり、池大雅や渡辺崋山の文人画がありで、和やかにさせてくれる。
見終えて、庭園の下の方に降りていったら、湧水からの小さな流れをみつけた。この辺りは国分寺崖線のつながりとのこと。そうか、ここは世田谷だ。多摩川の近くだ。
今年は静嘉堂文庫創設、120周年記念、美術館開設20周年になるとのこと。その、記念展覧会、PartIなのだ。あの、国宝・曜変天目の展示もPartIIIで予定されているらしい。そのときに、また来ようと思う。
平治物語信西巻
仏画
四条河原遊楽図屏風
江戸絵画
静嘉堂文庫と庭園