京都に行ったときに、ジュンク堂でみつけて買ってきました。
今週の本棚:田中優子・評 『凡才の集団は孤高の天才に勝る…』=キース・ソーヤー著 ◇『凡才の集団は孤高の天才に勝る--「グループ・ジーニアス」が生み出すものすごいアイデア』 (ダイヤモンド社・1890円) 毎日新聞 2009年3月22日 ◇日本の伝統とも共通する創造力の秘密 ビジネス書の書棚には近づかない方なのだが、この本の題名を見て思わず手にとった。それは私が、江戸時代の都市部で展開していた「連(れん)」というものに関心を持ち続けてきたからである。連は少人数の創造グループだ。江戸時代では浮世絵も解剖学書も落語も、このような組織から生まれた。個人の名前に帰されている様々なものも、「連」「会」「社」「座」「組」「講」「寄合」の中で練られたのである。 私はこの創造性の秘密は、日本人固有のことではなく、人間の普遍的なありようではないのかと、常々考えていた。江戸時代では、個人が自分の業績を声高に主張しなかったので、連による創造過程があからさまに見えるのではないだろうか。コーディネイターとして人と人をつなげながら自分の能力を発揮した人こそが、日本の文化史には残っている。 さて本書は原題を「グループ・ジーニアス」という。著者は経営コンサルタントを長く経験し、企業にイノベーション(革新)の助言をすることを仕事にしてきた。同時に心理学博士で、そしてジャズピアニストだ。この組み合わせには納得。江戸の連はジャズのコラボレーションに酷似している、と私も考えてきたからだ。そういう著者であるから、本書には即興演劇集団がどのようなプロセスで芝居を作ってゆくのか、ジャズセッションはどういう過程をたどるのか、著者自身の詳細な記録に基づいて述べられている。それと全く同次元で、ポスト・イット(付せん)がどう生まれたか、ATMやモールス信号がどのように発明されたかを書いているのが面白い。そこから見えるのは、個人の発明だと思っていたものが、実は様々な人々からの情報提供と深い意見交換を契機にしているという事実である。また個人のレベルでは十中八九失敗であるものも、最終的には画期的な発明がなされている。失敗が新しい時代につながる理由こそ、コラボレーションの力なのだ。 江戸の連には強力なリーダーがいない。町長や村長など「長」のつく組織は明治以降のものであって、町や村もピラミッド型組織にはなっていなかった。それは短所だと言われてきた。戦争をするには、なるほど短所であろう。しかし新しいアイデアや革新を起こすには、社員全員で即興的に対応する組織の方が、はるかに大きな業績を上げている。本書はブラジルのセムコ社やアメリカのゴア社の事例を挙げ、現場のことは現場で即時対応することや、規模を小さくとどめるために分割することに注目している。それが伝統的な日本の創造過程とあまりにも似ていることに驚く。 本書で提唱しているのはコラボレーション・ウェブ(蜘蛛(くも)の巣状の網の目)である。その基本の一つが会話だ。事例として日本の大学生の会話も収録されている。そこに見える間接的な言い回しが、可能性を引き出し創造性につながるものとされている。日本語(人)の曖昧(あいまい)さと言われるものが、実はコラボレーションの大事な要因なのだ。相手の話をじっと聞き、それを自分の考えと連ねることによって、新たな地平に導く可能性があるからだ。これは相手まかせではできない。能動的な姿勢をもっていてこそできることである。人を受け容(い)れるとは能動的な行為なのだ。 江戸時代までの日本人は、集団的なのではなく連的であった。本書もピラミッド型集団とコラボレーションとの違いを明確に区別している。こういう本を読んで、日本のコラボレーションの伝統と力量に、今こそ注目すべきだ。(金子宣子・訳) (毎日新聞 2009年3月22日) |
で、帰ってきてすぐに読みました。
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書評を読んで、だいたい内容は予想していたのですが、
予想以上のおもしろさ。
っていうか、「KJ法」をなんどもやっているので、
「ブレーンストーミング」のよさは分かっていたのですが、
「コラボレーション・ウェブ」はわたしたちが実際に現場でやっていることに近い。
凡才の集団は孤高の天才に勝る―
「グループ・ジーニアス」が生み出すものすごいアイデア
(キース・ソーヤー (著), 金子 宣子 (翻訳)/ダイヤモンド社/2009/3/6)
誰もが認める、ものすごく素晴らしいアイデアを生み出すこと。
多くの人が、これは限られた一部の人――天才と呼ばれる――の特権だと考えてはいないだろうか。
アイデアを出そうとして失敗するたびにいつも、
「私は普通の人、凡人だから、そんなこと考えつけるわけがない」
と思ってはいないだろうか。
本書は、そんなアイデアについての「勘違い」「思い込み」を打破してくれる、至高の一冊だ。
本書のポイントは大きく分けて二つある。
●一つ目は、グーグル・アースやeメールといった現代の偉大なイノベーションから、
ライト兄弟の飛行機、ダーウィンの進化論、トールキンの『指輪物語』、ピカソの絵画といった幅広いエピソードを用い、
これらの人々もみな誰かの助けを借りていたという事実を指摘し、
「たった一人で、すごいアイデアを生み出した人なんていないこと」を示すこと。
●もう一つは、心理学の知見を駆使し、
「ものすごいアイデアは、誰にだって生み出せること」を示すこと。
そして、鍵となるのが人と人との相互作用、コラボレーションである。
ただ、協力して生まれるアイデアは、ただ単にすごい、というわけではない。
コラボレーションを通して生まれたアイデアは、たった一人で物事に立ち向かう孤高の天才を上回るのだ。
なお、エジソン、ライト兄弟、ダーウィン、ピカソ、モネといった偉人たちの閃きの真実や、
リナックス、eメール、テレビ、マウンテンバイク、モノポリー、ティッシュといった歴史に残る発明品の誕生秘話は、
「ものすごいアイデアは一人の天才から生まれる」という「神話」が、
いかにして出来上がっていったかを知るうえで非常に興味深い。
●主な目次
第1部 凡才を天才に変えるチームの力
第1章 コラボレーションの力は天才を超える!
第2章 緊急対応がすごい結果を生むのはなぜなのか?
第3章 チームに生まれる一体感の正体をつきとめる
第4章 集団思考の罠に気をつけろ!
第2部 ものすごいアイデアが閃くメカニズムを解明する
第5章 閃きにまつわる誤解を解く
第6章 ものすごいアイデアを支える無数の閃き
第7章 おしゃべりとアイデアの素敵な関係
第3部 凡才のネットワークが天才を凌駕する
第8章 組織の壁をぶち壊せ!
第9章 コラボレーション・ウェブを形成せよ!
第10章 顧客を巻き込んで発想せよ!
第11章 コラボレーション経済圏を創出するために
ナットクのおもしろさです。
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