陶淵明の詩に「四時の歌」というのがある。この詩は、淵明以後の中国や日本の季節感に大きな影響を与えた詩だ。
四時歌 四時の歌 陶淵明
春水満四沢 春水 四沢に満ち
夏雲多奇峰 夏雲 奇峰多し
秋月楊明輝 秋月 明輝きを揚げ
冬嶺秀孤松 冬嶺 孤松秀ず
通釈すれば、春は水が四方の沢に満ち、夏の入道雲が峰の奇観のようだ。秋の月は明るく輝いて空にかかり、冬枯れの嶺には松の緑がひときわ目立つ。と、いうことになる。春夏秋冬を、その季節を代表する風物で象徴した詩である。
春と水。一般的には春は花で代表することが多いが、古くは氷が融けて、水が溢れ生命を育むものが置かれる。古今集に「谷風にとくる氷のひまごとにうち出る波や春の初花」というのもあり、春は先ず氷がとけて水が温み、その後に花が咲くということになる。
夏は雲。これは入道雲である。芭蕉が「雲の峰いくつ崩れて月の山」と詠んだように、夏の象徴として広く受け入れられている。さらに秋と月も、漢詩は和歌に詠まれることは多い。
冬に松を持ってきているのは、古くは『論語』に見られる。「歳寒くして松柏の凋むに後るるを知る」この松の冬にも緑を残すことへの畏敬は、やはり中国や日本の古くからある自然観の原型であるのではないか。この詩は、ことしの、日本詩吟学院の独吟コンクールの課題吟になっている。