雨にぬれたおだまきの花は、紫が濃く一層美しい。斉藤茂吉の第一歌集『赤光』の初版には連作「をさな妻」のなかに、おだまきを詠んだ歌が入っている。
おだまきの咲きし頃よりくれなゐにゆららに落つる太陽(ひ)こそ見にけれ 茂吉
『赤光』が刊行されたのは、大正2年10月15日のことである。明治38年から大正2年に詠んだ歌を集めたものだが、この間おひろとの離別、生母の死、師伊藤左千夫と身辺に悲しいできごとが起きた。『赤光』は、巻頭に師の死を悼む連作「悲報来」を収め、母の死を詠んだ「死にたまふ母」は読む者へ大きな感動を与えた。
死に近き母が目に寄りおだまきの花咲きたりといひにけるかも 茂吉
茂吉の母おだまきを愛し、庭の隅におだまきのを育て、春が来てその花が咲くのを楽しみにしていた。茂吉は今朝咲いたをだまきのことを、床に就いている母の枕辺で告げた。
この二つの悲しい死別に加えて恋人おひろとの別離を詠んだ連作「おひろ」がある。この連作によって生命の持つ叙情性が高められ、『赤光』は歌壇ばかりでなく文壇へも大きな反響を呼び起こした。
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