『若き見知らぬ者たち』
監督:内山拓也
出演:磯村勇斗,岸井ゆきの,福山翔大,染谷将太,伊島空,長井短,
東龍之介,大鷹明良,滝藤賢一,豊原功補,霧島れいか他
イオンシネマ茨木にて、『チャチャ』を観た後に、さらに凹む本作を。
日本/フランス/韓国/香港作品。
監督は自主制作映画の『佐々木、イン、マイマイン』(2020)で高い評価を受けた内山拓也。
もしかすると今年観た中でいちばん絶望感に襲われる作品だったかも。
壮平は総合格闘技の選手で、次の試合を目指し練習に忙しい。
精神を患う麻美はもはや廃人で、意思の疎通を図ることは困難。
警察官だった父親の亮介(豊原功補)が残した借金を抱えて昼夜働き詰めの彩人を心配して、
高校時代からの恋人である看護師の日向(岸井ゆきの)が食事などの用意にしばしば寄ってくれる。
息が詰まりそうな日々を送りながらも、人の手は借りずにすべて背負い込む彩人は……。
昔なにがあったか詳しく語られることはありませんが、
彩人も壮平もまだ子どもだった頃は絵に描いたように幸せな一家。
両親がカラオケスナックを開店したときまでは良かった。
良き父親だった亮介が退職金も障害年金も銀行から借りた金も使い込んでいることがわかり、
母親は半狂乱になって怒ります。それが狂った原因なのか。
近所のスーパーに行っては万引きの意識もないまま食べたいものを盗る麻美。
そんな母親のことを彩人はあらかじめスーパーの店長に金を払うことで解決しています。
ところが麻美はやがて商品を盗むばかりではなく、陳列棚を倒して歩くようになる。
また、他人の畑に入って作物を荒らす。土まみれの彼女を迎えに行き、畑の持ち主に土下座する彩人。
通りすがりに職務質問を受ける若者が憤っているのを見れば、
よせばいいのに知らん顔ができなくて仲裁に入り、逆に警察官(滝藤賢一)から睨まれる。
疲れて家に帰ると麻美が散らかしたもので床は卵だらけの水浸し。
どうにもならないなか、日向の存在は救いだし、気にかけてくれる親友の大和(染谷将太)のことも大好きだ。
だから、大和の結婚披露パーティーにだけは絶対に駆けつけたかったのに、悲劇が起こります。
閉店後に無理に入店しようとする酔っぱらい客に引きずり回され、
助けてくれるはずの警察官からも暴行を受ける。
死人に口なし、何も悪いことをしていない彩人の素行のせいにされてしまうなんて。
良いことはひとつもない作品です。ただただつらいシーンが続く。
それでも生きている人がいるということ。それでも生きているほうがいいのかとも思う。
彼は何のために生まれてきたのか。生きていたのか。
現実にもこんな日々を送っている人がいるのだとしたら、ひとりで背負い込まないでと言いたいけれど、
行政などに救いを求めてもないがしろにされてしまうところを多くの映画で観ています。
そんな扱いを受けるのは映画の中だけってことはないですよね。
何を頑張れというのでしょう。これ以上は絶対に頑張れない。
映画の中の話ではあるけれど、彩人の冥福を祈りたいです。
きっと母親のことが心配で安らかな気持ちではいられないだろうと思うとさらにつらい。