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夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『悪い夏』

2025年04月04日 | 映画(わ行)
『悪い夏』
監督:城定秀夫
出演:北村匠海,河合優実,伊藤万理華,毎熊克哉,箭内夢菜,竹原ピストル,木南晴夏,窪田正孝他
 
MOVIXあまがさきにて、前述の『教皇選挙』の次に。
 
原作は染井為人の同名小説で、第37回横溝正史ミステリ大賞優秀賞受賞作。
4年半ほど前に読んだときの感想はこちら
城定秀夫監督、かなり好きです。ピンク出身だなぁと改めて思わされるシーンもあります。
 
市役所の生活福祉課に勤務するいたって真面目な公務員・佐々木守(北村匠海)。
生活保護受給者に定期的に面会して現状を聴いているが、先輩職員の宮田有子(伊藤万理華)に言わせれば、佐々木は「甘い」。
彼が担当する山田吉男(竹原ピストル)などは明らかに仮病を装う不正受給者なのに、強く言えずにいるのだ。
 
ある日、宮田が佐々木に相談を持ちかける。
宮田の同僚、つまり佐々木の先輩である高野洋司(毎熊克哉)が自分の立場を利用して、
ネグレクト気味のシングルマザーで生保受給者の林野愛美(河合優実)に肉体関係を強要していると。
その証拠を集めて高野を失職に追いやりたいから協力してほしいと宮田は言う。
 
それよりも前に愛美はすでに友人の莉華(箭内夢菜)に高野の話をしており、
莉華から報告を受けた恋人の金本龍也(窪田正孝)が高野を強請ることを思いつく。
高野が愛美とヤッているところを隠しカメラで撮影すると、
家族や職場にバラされたくなければ金本が集めたホームレスの生保受給申請をすべて通せと高野を脅す。
ところが宮田と佐々木が愛美のところへやってきたと聞き、高野の行動がバレているならばこの計画は無理だと金本は考える。
 
こうして金本が手を引く一方で、愛美とその娘・美空(佐藤恋和)を気にかける佐々木は頻繁に林野母娘のもとを訪れるように。
それを知った山田が、金本が高野にやらせようとしていたことを佐々木にやらせようと企んで……。
 
キャッチコピーにもなっているように、クズとワルしか出てきません。
佐々木に同情の余地はあるものの、当初愛美に対してちょっと説教臭いところが嫌。
正義を振りかざす宮田にしたって、これだけ高野に執着するのは高野と不倫関係にあったことが見え見え。
あ、これは最後まで明らかにはされませんけれど、見りゃわかりますよね。
 
登場人物誰にも共感できない嫌な話なんですが、面白い。
これまで青春恋愛ものへの出演が多かった北村匠海は、一皮むけた印象です。
窪田正孝のワルぶりは相当なもので、めちゃくちゃ似合っています。
 
メインの話が進む裏側では、本当に生活保護の受給が必要な親子の姿があります。
突然の事故で夫を亡くした古川佳澄(木南晴夏)は幼い息子を抱えて生活がままならない。
光熱費が払えずに電気が止められるような状況なのに、税金に頼るのは悪いことだと思っています
同僚に背中を押されてやっと生保の申請に行くと、対応したのはキレた佐々木で。
 
とても辛い話を盛り込みつつ、城定監督は最後にわずかな光を見せてくれます。
 
城定監督作品も、染井さんの小説も大好きです。

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『嗤う蟲』

2025年02月07日 | 映画(わ行)
『嗤う蟲』
監督:城定秀夫
出演:深川麻衣,若葉竜也,松浦祐也,片岡礼子,中山功太,杉田かおる,田口トモロヲ他
 
ナナゲイで前述の『ストップモーション』を観た後、どんより暗い気持ちになりながら車に乗り、
前日までに考えていた本作とのハシゴを悩みました。
だってこれも絶対明るい気分になれそうな作品ではないから、
ハシゴを『アンダーニンジャ』に換える、もしくはまっすぐ帰るほうがよかないかと思って。
 
なのにやっぱりこれを観に行ってしまったのです。十三からわざわざ109シネマズ大阪エキスポシティまで。
翌週からの鑑賞予定を考えたら、22時も近くなってからの上映しかない本作は先に潰しておくべきでしょう。
「潰しておくべき」という言い方はふさわしくないか(笑)。
なんだかんだで城定秀夫監督の作品は好きですからね。これは思いっきり“黒”城定
原作なしのオリジナル脚本にはやはり私の評価は一段どころか数段上がる。
 
長浜杏奈(深川麻衣)と上杉輝道(若葉竜也)は別姓を選択した夫婦。
このたび田舎に移住して輝道は農業を始めることに。
イラストレーターの杏奈はネット環境さえあれば田舎でも仕事を受注できる。
 
お向かいさんは三橋剛(松浦祐也)と椿(片岡礼子)夫妻。
妻のほうはどうやら少し病んでいるようだが、夫は気のよさそうな人物。
村を統べる田久保千豊(田口トモロヲ)とその妻のよしこ(杉田かおる)に挨拶に行くと、
夫婦別姓である理由や杏奈の仕事についてあれこれ聞かれたものの、温かくもてなされてひと安心。
翌日には村人全員がふたりのことを知っていて驚くが、これも田舎だからかと苦笑い。
 
しかし、少しずつ違和感が増してゆく。
穏やかな田舎暮らしを想像していたのに、いつでも見張られているかのようで隠し事はできない。
杏奈の妊娠もしばらく伏せておくはずが、病院に行ったことがバレて致し方なく打ち明けると、
村あげての宴が開催され、村人たちから「おめでとう」ではなく「ありがとう」と言われる。
 
やがて輝道は村の男たちがこっそりと大麻を栽培していることを知る。
田久保から参加を促されて一旦は断るのだが……。
 
いつだったか、「村八分」という言葉の意味を知ったときは衝撃を受けました。
村八分村八分と言うけれど、残りの二分は何なのか。火事と葬式ですよね。
その二分のときは入れてやるけど、八分のときはいっさい無視って、
結婚式と葬式ではなくて火事と葬式なんだと思って、本当に驚いたものです。
 
過疎化に悩んでいると言いながら、よそものを心から受け入れようとはしていない。
村の慣習に従うつもりがない奴には徹底的に制裁を与える。
警察官だって村の一員だから、相談したところで無駄。
どんな違法行為も、虐待も、時には殺人すら村の中で隠蔽されてしまうのです。
 
同じ過疎化に悩む村でも『サンセット・サンライズ』は違いました。
実際はどちらが本当の姿に近いですか。
坂東眞砂子の『くちぬい』なんか読んだ日にゃあ、絶対田舎に移住はできません。
そもそも私は劇場通いができないところに住むつもりはないけれど。(^^;

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『私にふさわしいホテル』

2025年01月09日 | 映画(わ行)
『私にふさわしいホテル』
監督:堤幸彦
出演:のん,田中圭,滝藤賢一,田中みな実,服部樹咲,髙石あかり,橋本愛,橘ケンチ,光石研,若村麻由美他
 
元日、朝イチでNGKに行って初笑いした後、父に面会するため老健へ。
この時点で14時半を少し過ぎた頃で、今からどうするか迷う。
たいがい疲れているからまっすぐ帰るのもありだけど、せっかく外にいるのに勿体ない気がする。
しかも元日は映画ファーストデーで安いのだし。でなくても今年はレディースデーか。
 
と、覚悟を決めて、今は仕事帰りに行くのを遠く感じてツライTOHOシネマズ西宮へ。
どうせここまで来たなら1本で帰ったらあかん、3本観て帰ろう。そのハシゴ1本目。
 
原作を読んだのは2017年4月だったようで、そのときの感想はこちら
実在の作家の名前がバンバン出てきたのが面白く、とても印象に残ってはいます。
とはいうものの、読了してから8年近く経っていると、詳細までは覚えていません。
主演がのんだと聞いたとき、私の持つイメージとはかなり違うとは思いました。
 
デビュー作がプーアール社主催の文学新人賞を受賞して前途は明るいと思われた作家・中島加代子(のん)。
しかしそのデビュー作を大御所作家・東十条宗典(滝藤賢一)に酷評されたせいで鳴かず飛ばずに。
プーアール社よりはるかに大手の文鋭社に勤める編集者・遠藤道雄(田中圭)は加代子の大学の先輩で、縋れるのは彼しかいない。
 
作家が籠もることで有名な山の上ホテルに自腹で泊まる加代子が大作家を気取って執筆を始めたところ、
彼女の部屋にやってきた遠藤が言うには、真上の階に東十条が宿泊中で、明日までに原稿を書き上げる予定らしい。
もしも書けなければ「落とす」ことになると言い、その場合は誰かほかの作家による穴埋めが必要となる。
自分にその役が回ってくると信じる加代子は、ホテル従業員を装って東十条の部屋を訪ねると、
シャンパンを原稿の上にこぼしてみたり、東十条を酔わせて原稿を書けなくしようとしたり、あの手この手を打ち……。
 
さすがに映画版では実在の作家名を挙げることはできなかったようで、あくまでも作り物。
のんのことは嫌いではないけれど、デカい声で騒ぎまくっているだけのように見えてイメージが違う。
私が彼女の演技でいちばん好きなのは、声優として出演した『この世界の片隅に』(2016)ですから。
 
が、原作どおりで面白かったシーンも多数。
たとえば書店の万引き犯を加代子が追いかけて捕まえるシーン。
売れっ子作家の新刊ばかり選んで盗んでいたことに激怒するところは切実ですよね。
橋本愛演じるカリスマ書店員とのやりとりも面白い。
 
文学賞受賞の裏側にもまるで政治のような雰囲気を感じます。そんなことはないと信じたい。
とにかく、読む本は自分で選んで好きなものを見つけたい。
ほかの人の評価がどうだっていいじゃあないか。ファンはここにいますと、好きな作家に伝えたい。
 
ひとつ、物凄く気になったことがあります。
人のことをどうこう言えるほどお箸の使い方は上手じゃないのですけれど、のんのお箸の持ち方が悲惨。
お箸の下から3センチぐらいのところを握りしめて焼きそばを食べるシーンにドン引き。
最初はそういう演出なのかと思いましたが、招かれた家でカラシ蓮根を食べるときもそう。
お箸の使い方が下手だという演出が必要だとも思えず、これがいつもの彼女なのでしょうか。
 
ふと思い出す北川景子のこと。彼女も女優になりたての頃はお箸の使い方が下手だったけれど、
元総理大臣の孫であるDAIGOとつきあいはじめてから、恥ずかしくないようにと美しい食べ方を猛練習したそうです。

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今年観た映画50音順〈わ行〉

2024年12月31日 | 映画(わ行)
《わ》
『ワンダーランド あなたに逢いたくて』(英題:Wonderland)
2024年の韓国作品。Netflixにて配信。
死亡、あるいは法的に死亡とみなされる脳死状態にある人をAI(人工知能)を用いて再現し
対話することが可能なサービス“ワンダーランド”。
ワンダーランド旅行社に勤務するヘリ(チョン・ユミ)とヒョンス(チェ・ウシク)は
サービスの提供を求めてやってくるさまざまな人々と契約を進めている。
たとえば、ファンドマネージャーで活躍していた女性バイ・リー(タン・ウェイ)は自分の病を知り、
考古学者として世界を飛び回りつつ仕事先から愛娘に連絡を取るという設定を選択。
また、航空機の客室乗務員ジョンイン(ペ・スジ)は意識不明のままの恋人テジュ(パク・ボゴム)を宇宙飛行士という設定に。
宇宙ステーションから毎日連絡してくるテジュとの会話を楽しんでいる。
若くして亡くなった孫ジング(タン・ジュンサン)と会いたい祖母(ソン・ビョンスク)はAIの孫に甘えられて喜び、
生前に家族と相談して自分を再現することにしたヨンシク(チェ・ムソン)は自分の葬式を見て大笑い。
こんなふうに、死んでしまった大切な人との対話を皆ありがたがっていたが、
AIには自分が死んだという意識がないものだから、そこここに矛盾が生じることがある。
やがて、病床で昏睡状態にあったテジュが奇跡的に意識を取り戻し、ジョンインの部屋に帰ることになるのだが……。
大切な人を亡くして、もう一度、いや、これからもずっと会いたいという気持ちはわかります。
けれどどこかで歪みを感じて、双方ともに幸せではいられなくなる。
自分がすでに死んでいると知ったときのバイ・リーの心の裡を思うと切ないし、
自分のAIがいると知ったときのテジュの表情も切なくてたまらない。泣きました。
コン・ユはほぼカメオに近い出演ですが、やっぱり印象に残る役。
 
《を》《ん》
なし。
 
今年もおつきあいをありがとうございました。
どうぞ良い年をお迎えください。

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『若き見知らぬ者たち』

2024年10月28日 | 映画(わ行)
『若き見知らぬ者たち』
監督:内山拓也
出演:磯村勇斗,岸井ゆきの,福山翔大,染谷将太,伊島空,長井短,
   東龍之介,大鷹明良,滝藤賢一,豊原功補,霧島れいか他
 
イオンシネマ茨木にて、『チャチャ』を観た後に、さらに凹む本作を。
日本/フランス/韓国/香港作品。
監督は自主制作映画『佐々木、イン、マイマイン』(2020)で高い評価を受けた内山拓也。
もしかすると今年観た中でいちばん絶望感に襲われる作品だったかも。
 
風間彩人(磯村勇斗)は弟の壮平(福山翔大)と母親の麻美(霧島れいか)の3人暮らし。
壮平は総合格闘技の選手で、次の試合を目指し練習に忙しい。
精神を患う麻美はもはや廃人で、意思の疎通を図ることは困難。
警察官だった父親の亮介(豊原功補)が残した借金を抱えて昼夜働き詰めの彩人を心配して、
高校時代からの恋人である看護師の日向(岸井ゆきの)が食事などの用意にしばしば寄ってくれる。
息が詰まりそうな日々を送りながらも、人の手は借りずにすべて背負い込む彩人は……。
 
昔なにがあったか詳しく語られることはありませんが、
彩人も壮平もまだ子どもだった頃は絵に描いたように幸せな一家。
両親がカラオケスナックを開店したときまでは良かった。
良き父親だった亮介が退職金も障害年金も銀行から借りた金も使い込んでいることがわかり、
母親は半狂乱になって怒ります。それが狂った原因なのか。
 
近所のスーパーに行っては万引きの意識もないまま食べたいものを盗る麻美。
そんな母親のことを彩人はあらかじめスーパーの店長に金を払うことで解決しています。
ところが麻美はやがて商品を盗むばかりではなく、陳列棚を倒して歩くようになる。
また、他人の畑に入って作物を荒らす。土まみれの彼女を迎えに行き、畑の持ち主に土下座する彩人。
 
通りすがりに職務質問を受ける若者が憤っているのを見れば、
よせばいいのに知らん顔ができなくて仲裁に入り、逆に警察官(滝藤賢一)から睨まれる。
疲れて家に帰ると麻美が散らかしたもので床は卵だらけの水浸し。
 
どうにもならないなか、日向の存在は救いだし、気にかけてくれる親友の大和(染谷将太)のことも大好きだ。
だから、大和の結婚披露パーティーにだけは絶対に駆けつけたかったのに、悲劇が起こります。
 
閉店後に無理に入店しようとする酔っぱらい客に引きずり回され、
助けてくれるはずの警察官からも暴行を受ける。
死人に口なし、何も悪いことをしていない彩人の素行のせいにされてしまうなんて。
 
良いことはひとつもない作品です。ただただつらいシーンが続く。
それでも生きている人がいるということ。それでも生きているほうがいいのかとも思う。
彼は何のために生まれてきたのか。生きていたのか。
 
現実にもこんな日々を送っている人がいるのだとしたら、ひとりで背負い込まないでと言いたいけれど、
行政などに救いを求めてもないがしろにされてしまうところを多くの映画で観ています。
そんな扱いを受けるのは映画の中だけってことはないですよね。
何を頑張れというのでしょう。これ以上は絶対に頑張れない。
 
映画の中の話ではあるけれど、彩人の冥福を祈りたいです。
きっと母親のことが心配で安らかな気持ちではいられないだろうと思うとさらにつらい。

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