夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『別離』

2012年04月30日 | 映画(は行)
『別離』(原題:Jodaeiye Nader az Simin)
監督:アスガー・ファルハディ
出演:レイラ・ハタミ,ペイマン・モアディ,シャハブ・ホセイニ,サレー・バヤト,
   サリナ・ファルハディ,ババク・カリミ,メリッラ・ザレイ他

前述の『少年と自転車』とハシゴ。
第84回アカデミー賞で外国語映画賞を受賞したイラン作品で、
その他の名だたる賞も受賞しまくり。
かなり前から上映していますが、いまだにほぼ満席です。

テヘランに暮らす中産階級の夫婦、ナデルとシミン。
妻のシミンは一人娘テルメーの将来を考え、海外への移住を希望。
ようやくそれが叶いそうなのに、夫のナデルは大反対。
アルツハイマー型認知症を患う父親のことが気がかりで国を出られないと言うのだ。

夫婦の意見は平行線をたどり、ならば仕方ないとシミンは離婚を申し出る。
しかし、家庭裁判所は離婚を認めず、シミンはナデルと距離を置こうと実家へ帰る。
シミン不在では認知症の父親の面倒をみる者がおらず、仕事にも行けない。
ナデルはラジエーという女性を家政婦として雇うことに。
幼い子どもを連れたラジエーは遠方から通いはじめる。

ある日、ナデルとテルメーが帰宅してみるとラジエー親子がいない。
父親はベッドに縛りつけられ、動こうとした拍子に転げ落ちたのか負傷している。
戻ってきたラジエーにナデルは激怒。しかも引き出しの金がない。
父親を危険な目に遭わせた泥棒と罵り、家から追い出すが、
その後、妊娠中だったラジエーが流産したことを知る。

聞いたからには知らん顔はできないと、ナデルはシミンとともに
ラジエーとその夫ホッジャトを見舞う。
ところが、ラジエーが家政婦をしていることすら初耳だったホッジャトはキレる。
ナデルは胎児を殺した罪で訴えられ、
逆にナデルは父親を負傷させた罪でラジエーを訴えるのだが……。

ラジエーはどこへ出かけていたのかを言おうとしないので、
なぜ父親を縛りつけてまで出かけたのかがわかりません。
ナデルがラジエーの妊娠を知っていたかどうかも訴訟ではポイントになりますが、
本当はどうなのかがわかるのはかなり後。
この辺りがちょっとしたサスペンスタッチになっていて引き込まれます。

文化のちがいに考え込むシーン、実にいろいろ。
失禁したナデルの父親は、ラジエーが浴室へ連れて行っても、
自分でシャワーを浴びることも着替えることもできません。
ラジエーは「私が認知症の男性を風呂に入れることは罪にならないか」と
イスラム協会に電話をかけて相談します。
また、コーランに誓えるかと問われれば決して嘘はつけません。

身勝手なことなのか、人を思いやってのことなのか。
両親は娘の幸せをいちばんに望んでいたはずなのに、何もかもが娘を苦しませるだけ。
ラストシーンには言葉も出ません。この余韻は、胸が痛くなる。

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『少年と自転車』

2012年04月28日 | 映画(さ行)
『少年と自転車』(原題:Le Gamin au Vélo)
監督:ジャン=ピエール,リュック・ダルデンヌ
出演:セシル・ドゥ・フランス,トマス・ドレ,ジェレミー・レニエ,
   ファブリツィオ・ロンジョーネ,エゴン・ディ・マテオ,オリヴィエ・グルメ他

これも封切り日にほぼ満席の梅田ガーデンシネマにて。

カンヌ国際映画祭の常連、ベルギー出身のダルデンヌ兄弟による、
ベルギー/フランス/イタリア作品です。
同監督の作品はそれほど多くなく、
『息子のまなざし』(2002)など公開されたものはすべて観ていますが、
劇場で観るのはこれがはじめて。

もうじき12歳の少年シリルは、児童養護施設に預けられる。
すぐに引き取りに来てくれるはずの父親は行方知れず。
自分が捨てられたとは到底信じられず、
以前暮らしていたアパートへと電話をかけるが誰も出ない。
暴れるシリルに職員たちもほとほと手を焼いている。

シリルは施設を飛び出すと、アパートへ向かう。
父親は引っ越したと管理人や隣人から聞いてもまだ信じられない。
空っぽの部屋を見せられて、ようやく納得したものの、
大事な自転車までもがなくなってしまったことを認めたくない。
職員たちが駆けつけるもシリルに帰る気はなく、また一暴れ。
シリルはそのときたまたま居合わせた美容師のサマンサにすがりつく。

後日、サマンサが施設を訪れる。
父親が売り払ったらしいシリルの自転車を見つけて買い戻したとのこと。
シリルはサマンサに週末だけ里親になってほしいと頼み、
サマンサもなんとなくその申し出を受け入れて……。

父親に置き去りにされたことを受け入れられず、
周囲の人びとに悪態をつく姿は『冬の小鳥』(2009)を思い出させます。
けれども『冬の小鳥』の少女のほうがずっと幼く、
途中からは痛いほどけなげだった様子を考えると、
サマンサの厚意を踏みにじるシリルの行動にはむかつきすら覚えます。

近所の不良に声をかけられれば、強盗の片棒を担ぐどころか、
実行犯となることも厭わない。
そもそも罪の意識がないものだから、被害者への謝罪の言葉は薄べったい。
こういうことなのかなぁ、少年犯罪と向き合うって。

しかし、シリルが天罰を受けるかのようなシーン。
そうして、そんなシーンに出くわせば、
善良と思えた被害者親子もこんなことを言い出すのかと、釈然としない気持ち。

それでも後味は悪くありません。
『ロシアン・ドールズ』(2005)や『ヒアアフター』(2010)のセシル・ドゥ・フランスは、
これまでになかった母性を見せてくれます。
すっくと立ち上がって、変わらず自転車を漕ぎ出すシリルの後ろ姿に、
声をかけたくなりました。少年よ、まっすぐ生きろ。

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『裏切りのサーカス』

2012年04月26日 | 映画(あ行)
『裏切りのサーカス』(原題:Tinker Tailor Soldier Spy)
監督:トーマス・アルフレッドソン
出演:ゲイリー・オールドマン,コリン・ファース,トム・ハーディ,トビー・ジョーンズ,
   マーク・ストロング,ベネディクト・カンバーバッチ,キアラン・ハインズ他

封切り日、大阪ステーションシティシネマの初回は立ち見が出ていました。
予告編がおもしろそうだったので、私も観たい度はうんと高かったものの、
そんな話題作だったの~といまさらビックリ。

『ぼくのエリ 200歳の少女』(2008)のスウェーデン人監督による初の英語作品。
原作はジョン・ル・カレの1974年のスパイ小説『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』。
原題はそのまま“Tinker Tailor Soldier Spy”で、この響きはゴロもいいし、
わざわざこんな邦題にしなくてもいいやんと思わなくもないですが、
チケットを窓口で購入する場合は圧倒的に言いやすいかも

米国を盟主とする資本主義・自由主義陣営と、
ソ連を盟主とする共産主義・社会主義陣営が対立する東西冷戦下。
英国諜報機関MI6(通称サーカス)のリーダー、コントロールは、
この組織にソ連諜報機関KGBの二重スパイ“もぐら”が潜んでいることを確信。
“もぐら”の情報を掴むために独断で送り込んだ部下のプリドーが撃たれてしまう。
コントロールはその責任を取ってサーカスを去り、
彼の右腕を務めてきた老スパイ、スマイリーも引退を余儀なくされる。

ところが、直後にコントロールが謎の死を遂げたことを受けて、
スマイリーのもとに英国政府次官レイコンが現れる。
“もぐら”が誰であるかを突き止めるには君が適任と言われ、
自分はクビにされた身だとあしらいかけるが、
組織のためだけではなくコントロールと自分のためにも任務に就く。

コントロールが疑っていたのは、サーカスの幹部。
ティンカー(鍵掛け屋)、テイラー(仕立て屋)、ソルジャー(兵士)、 プアマン(貧乏人)。
コントロールが裏でそう呼んでいた幹部の4人、
アレリン、ヘイドン、ブランド、エスタヘイスについて、
スマイリーは信頼を置く若手のギラムを相棒に調査を開始。

一方、イスタンブールで東側に寝返ったと思われていたギラムの部下ターが
突然スマイリーの前に現れ、“もぐら”の情報を持っていると言う。
放っておけば身に危険が及ぶターをしばらく匿うことになるのだが……。

リピート割引1,000円というキャンペーン実施中で、確かに2度観たくなります。
誰が“もぐら”かはもちろん興味のあるところですが、
それ以上に惹かれる地味ながら錚々たる顔ぶれの演技。シブイのなんのって。
上司と部下、夫と妻、男と女、同僚同士、友人同士。
信頼を築かねばならないはずのさまざまな関係にさまざまな裏切りが存在し、
けれどそこには苦悩があり、かいま見えるその苦悩に男泣き。
映画ならではの時間の見せ方にも唸ること、しきり。

ギラム役のベネディクト・カンバーバッチは、
『アメイジング・グレイス』(2006)では主人公の親友役。
若くして首相になったウィリアム・ピットを演じていましたが、どことなく気品があります。
この人もそうなんですが、本作には声に惚れそうな人が多くてシビれました。
ゲイリー・オールドマンは若かりし頃はやんちゃな印象でしたが、ものすごく知的。
老齢の男の悲哀が表情にも背中にも漂って、切なさいっぱい。
前述のライアン・ゴズリングが尊敬する人としてオールドマンを挙げるのもわかります。

某掲示板に、邦題は『ぼくのスマイリー 70歳のスパイ』でええやんというコメントがあり、
ウケました。ナイス。

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ライアン・ゴズリング、2本。

2012年04月25日 | 映画(番外編:映画とこの人)
以前からの優男風の見た目に変わりはないけれど、
『ラブ・アゲイン』(2011)以降は脱いでもスゴイ色男。
主演作2本が終映間近なので、慌てて観に行きました。

まずは『ドライヴ』。
前述の『ヘルプ 心がつなぐストーリー』を観たあと、
自宅に車を置いて電車を乗り継ぎ心斎橋へ。
心斎橋シネマートの16:30に回に駆け込み、
18:15に終わったらダッシュで18:30からの“女子会”へ。(^o^)

彼が演じるのは寡黙な自動車の修理工。名前もなく、ただ、ドライバー。
卓越したドライビングテクニックを持ち、カースタントマンとしても活躍。
夜には強盗を逃がすという闇の仕事も請け負っている。
ある日、同じアパートの隣室に暮らすアイリーンとその幼い息子に出会い、
服役中の彼女の夫スタンダードに代わり、時間を過ごすように。

ほどなくして出所したスタンダードは、
刑務所で多額の借金をつくり、良からぬ筋から返済を迫られる。
アイリーンにそれを打ち明けるなんてもってのほか。
強盗を強要されて困り果てているスタンダードを見たドライバーは、
アイリーン母子のために、スタンダードのアシストを引き受けるのだが……。

静けさのなかに見える激しさ。静かに、めっちゃハードボイルドです。
殺人シーンは想像以上に血まみれで残酷でしたが、
一匹狼のドライバーの穏やかで哀切な表情が狂おしいほど。尾を引きます。
ちなみに本作ではライアン・ゴズリングもキャリー・マリガンも脱ぎません。(^^;

もう1本は『スーパー・チューズデー 正義を売った日』。
ジョージ・クルーニーがメガホンを撮った話題作ながら、
1日1回の上映となった平日18:50の回、客は私ひとりの貸切状態でした。

ペンシルヴェニア州知事のマイクは、民主党予備選の最有力候補。
オハイオ州予備選をモノにすれば、大統領となることが確実。
そんな彼の選挙キャンペーンを支えるのは、
ベテラン参謀のポールと若き広報官スティーヴン。

スティーヴンは30歳にして誰からも一目置かれる存在。
敵陣営から引き抜きを仕掛けられるが、
その事実をスティーヴンはポールに言えずにいた。

そんななか、選挙スタッフの美人インターン、モリーと親密な仲に。
ある夜、モリーの携帯に着信があり、スティーヴンは衝撃の事実を知る。

予告編を観たときは、スティーヴンとモリーの関係が
選挙キャンペーンを困窮事態に陥らせるのかと思っていましたが、
そんななりゆきだったらつまらない。
もっと酷いなりゆきで、政治家って、選挙って……とビビりました。

ちなみに、バーで食べたとされる鶏は、字幕ではチキンとなっていましたが、
実際の台詞ではバッファロー・ウィングと連呼されていました。

ネット予約して行ったものだから、端の席に。
なんで貸切状態なのに端っこに座っているのでしょう、私。

両作品ともライアン・ゴズリングの魅力を堪能できます。

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『ヘルプ 心がつなぐストーリー』

2012年04月24日 | 映画(は行)
『ヘルプ 心がつなぐストーリー』(原題:The Help)
監督:テイト・テイラー
出演:エマ・ストーン,ヴィオラ・デイヴィス,オクタヴィア・スペンサー,
   ブライス・ダラス・ハワード,ジェシカ・チャステイン,アリソン・ジャネイ他

今週限りで終映の劇場が多いかと思います。
昼から半休を取っていた先週平日、12:00に終業して12:20に劇場へ滑り込み。
観賞後に車を自宅へ置きに帰って出かけたという荒技。(^^;

原作はキャスリン・ストケットの処女作にして全米ベストセラー小説。
彼女の幼なじみである新鋭監督テイト・テイラーが、
原作の発売前にすでに映画化権を買っていたそうです。
長編2作目とのことですが、1作目は日本では未公開。
DVD化もされていないため、監督作としてはこれが初お目見え。
役者としては『ウィンターズ・ボーン』(2010)に出演していたと知りましたが、
住民のひとりだったのか、どんな人だったのかはまったくわかりません。

1960年代初頭、アメリカ南部のミシシッピ州ジャクソン。
裕福な家庭に生まれたスキーターは、黒人メイドのコンスタンティンに育てられた。
作家志望の彼女は、大学を卒業後、地元の新聞社に応募。
家庭欄のコラム執筆者が休業中のため、代筆係として採用される。

家事のことならメイドに相談するのがいちばんだが、
スキーターが自宅を離れている間になぜかコンスタンティンは辞めてしまった。
友人のエリザベス宅の黒人メイド、エイビリーンに相談するが、
やがてスキーターはメイドたちの置かれた状況に違和感を覚えはじめる。

信念に基づいて書こう。
スキーターは、黒人メイドの証言を集めて本を書くことを決意。
ところが、エイビリーンはなかなか話そうとしない。
この地で黒人メイドの実情を話せば生きてゆけなくなると言い……。

万人にお薦めしたい作品です。
ミシシッピといえば黒人差別が色濃く残る州だというのは有名ですが、
こんなにも人間の尊厳を無視することがあっていいのかと唖然。
黒人と同じトイレを使えば病気がうつる、だから専用トイレを家の外につくるべき。
そう言いつつ黒人メイドに子どもをまかせるなんて、んなアホな。

若奥様連中を仕切るヒリーは本当に悪魔のようです。
ヒリー役を演じたロン・ハワード監督の愛娘ブライス・ダラス・ハワードは、
顔立ちと言い物腰と言いハマりすぎで、
今後はけなげな女性役よりこういうビッチな役が多くなりそう。

さて、ミシシッピの白人みんながみんなそうだったわけではなく、
黒人に味方をすればどんな目に遭うかわからないなか、
メイドを守ろうとした人だって少なからずいます。
また、白人でありながら上流階級からつまはじきにされる女性もいて、
本作ではアーパーギャル、シーリアがその役どころ。
シーリアには壁がなく、素直に感情を表して、メイドに抱きつきます。
彼女と彼女が雇ったメイドのミニーの料理のシーンは素晴らしい。

シーリアがフライドチキンをほおばるときには、これを思い出しました。
こっちはバーベキューだったのですけれど、
そう、これも「この世の天国の味」、そんな顔でしょ。
料理も心をつなぐ。

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