夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『やじきた道中 てれすこ』

2007年11月30日 | 映画(や行)
『やじきた道中 てれすこ』
監督:平山秀幸
出演:中村勘三郎,柄本明,小泉今日子,ラサール石井,
   笑福亭松之助,間寛平,松重豊,山本浩司,藤山直美他

前述の『しゃべれども しゃべれども』と同監督の作品。
この監督はものすごい落語好きなようです。
ロードショーにて。

江戸時代。大阪で珍妙な魚が捕獲される。
この魚の名を知る者には十両を取って遣わすと役所がおふれを出したところ、
十両欲しさに名乗り出たのがある年寄り男。
お奉行様に魚の名を問われ、出任せで“てれすこ”だと答える。
この珍魚の噂は江戸にまで伝わる。

さて、ところ変わって、品川の遊郭。
売れっ子の花魁(おいらん)、お喜乃は、
粉細工師の弥次郎兵衛に偽の小指の先を作らせては、
それを桐箱に収めて常連客に差し出し、
切り指をするほど相手を慕っているのだと思い込ませ、金を巻き上げ放題。

そんな所業もあって女将からは嫌みを言われ、
さっさと足抜けしたいと思うお喜乃は、
「箱根にいる重病の父親に一目会いたい」と弥次郎兵衛に嘘をつき、
自分を連れ出してくれるよう懇願する。
頼られて、弥次郎兵衛は上機嫌。

そのとき、お喜乃の部屋の窓の外に首を吊ろうとしている喜多さんの姿が。
喜多さんは弥次郎兵衛の幼なじみで三流役者。
舞台で大失敗をやらかし、気晴らしに遊郭へ来てみたものの、
花魁に手も出せずに死ぬ決意。
ところがそれも失敗して、宙でもがいているところだった。

死にきれなかった喜多さんは、
弥次郎兵衛とお喜乃の旅に同行することに。
繰り広げられる3人の珍道中。

大笑いしました。
観客の年齢層も高く、まるで寄席に来ている雰囲気。
笑う気で来ているお客さんに囲まれていると和みます。
お奉行様演じる寛平ちゃんの顔が映っただけで、みんな大爆笑。

古典落語ネタの“てれすこ”がタイトルとなっていますが、
“てれすこ”を追い求めて旅するわけではありません。
でも、“てれすこ”が味な役目を果たしています。

ほかにもこっそり盛り込まれた数々の落語ネタ。
そのうちの一部をご紹介すると、
泣いているふりをするためにお茶で目の回りを濡らすとき、
茶殻が付いているのは“お茶汲み”。
地回り(花魁が足抜けしないように見張るヤクザ)が
表通りで将棋を差すさいのやりとりは“浮世床”。
子狸がサイコロに化けて恩返しするのは“狸賽”。

だけど、元の落語を知らなくても笑えること、請け合います。

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『しゃべれども しゃべれども』

2007年11月22日 | 映画(さ行)
『しゃべれども しゃべれども』
監督:平山秀幸
出演:国分太一,香里奈,森永悠希,松重豊,八千草薫,伊東四朗他

高校のとき、上方落語研究部に所属していました。
落語に興味があったわけではなく、
最もヒマそうなクラブに入ろうとして、たまたま和室へ見学に。
和室で活動するのは茶道部か落研。
茶道部というガラではないので、必然的に落研に。
そうしたら、見事にハマってしまいました。

大阪では天満天神繁昌亭が連日大盛況。
NHKの朝の連ドラでは落語ネタの『ちりとてちん』。
去年、『寝ずの番』(2006)を観たころには
落語ブームが訪れようとは想像もしていませんでしたけれど。

東京の下町。
流行りの創作落語には目もくれず、古典落語ひと筋の今昔亭三つ葉は、
いつまで経っても真打になれない。
師匠の今昔亭小三文曰く、
「俺の真似だけしているようじゃ駄目だ」。

ある日、三つ葉の母親が開いている茶道教室の生徒で、
三つ葉が密かに想いを寄せる郁子が、相談事があると言う。
郁子の姉一家が関西から引っ越してきたのだが、
甥っ子の優が関西弁を学校でからかわれているらしい。
優に落語のひとつでも教えてやってくれたら、
学校にも馴染めるのではないかというのが郁子の案。

三つ葉は師匠が講師を務めるカルチャースクールで、
超美人だがぶっきらぼうな女性、五月に出会う。
失礼このうえない五月に説教をしようと思っていると、
どうすれば話が上手くなるのか教えてくれと言われる。

行きがかり上、2人の頼みを断れなくなった三つ葉。
さらには、この「話し方教室」の噂を聞き、
やってきたのが元プロ野球選手の湯河原。
変装まがいの格好でやってきたが、野球好きな優にすぐに見破られてしまう。
どうやら彼はおもしろくない解説者として有名で、
聴視者の評判がよくないことを気にしているようだ。

こうして変な取り合わせの生徒たち3人に、
三つ葉は落語の指導を始めるのだが……。

とても懐かしい気持ちになりました。
落研のときはもっぱら浴衣で、羽織なんて着ませんが、
枕(本題に入る前の小話)から本題に移るときの合図として
羽織を脱ぐ仕草はやはり粋。

関西弁にこだわる優に、三つ葉が見せるビデオテープ、
桂枝雀版『饅頭こわい』には思わずニンマリ。
優の同級生で、スポーツ万能、勉強もできる宮田君が
優の落語で吹き出す瞬間、これ、最高。

出囃子の音に誘われて、また寄席に通いたくなりました。

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部下の盾(タテ)になってくれない上司なんて。

2007年11月16日 | 映画(番外編:小ネタいろいろ)
あっちこっちで偽装問題噴出。
しかし、どうしてこうも、偽装発覚後の会社のトップって情けないんでしょうね。
何でもかんでも部下や取引先のせいにして、
保身を図ったつもりが、逆に自分がダメダメ人間だってことを露呈。

偽装そのものよりも、その後の言いぐさが恥ずかしすぎる。
『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』(1992)は、
高潔さを失ってしまった社長さんたちにぜひともお薦めしたい1本。

名門進学校で寄宿生活を送る苦学生のチャーリーは、
ほかの裕福な学生とちがって、クリスマス休暇といえども帰郷するお金がありません。
なんとか交通費を工面しようと、学校の掲示板でアルバイトを探します。
そこで見つけたのが、退役した盲目の軍人のお世話。
彼と同居している親戚一家が旅行する間の、一見楽勝に思える短期アルバイト。

ところが、その退役軍人スレードはとんだ気むずかし屋。
いちいち嫌みで、偉そうで、わがまま言い放題のスレードに
チャーリーは振りまわされ続けます。

ある晩、校長の自慢の愛車ジャガーに何者かが悪戯をします。
偶然その場を通りかかったチャーリーは、
犯人が同校の生徒であることを知ります。
翌日、激怒した校長は犯人探しに躍起になり、
どうやら目撃者らしいチャーリーともうひとりの生徒ジョージに
犯人を教えるよう、あの手この手で迫ります。
教えればハーバード大学へ推薦してやるとか、教えなければ厳罰が待っているぞとか。

ジョージの親は実力者で、学校への寄付金も多大。
校長のジョージに対する言い様と、
チャーリーに対する言い様はあきらかにちがいます。
退学をも示唆されて、揺れ動くチャーリー。

物語はこの事件で友だちを売る売らないかを基に、
人間としていちばん大切なものは何なのか、
魂を潰すということはどういうことなのか、
そんなことを教えてくれます。

同じ映画を2度観る時間があれば、
1本新しい映画を観たいと思ってしまうので、
同じ映画を何度も観ることは滅多にありません。
でも、この映画は何度でも観たくなります。

どんなに偏屈であろうが、理不尽なことを言われようが、
アル・パチーノ演じるスレードのように
最後の最後に自分を守ってくれる上司なら、
この人について来てよかったと思えるでしょう。

おいしいとこ取りだけして、
部下の盾にもなってやらんくせに、
会社のためにがんばってくれなんていう上司、
絶対信用できませぬ。

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張り込み中は何食べる?

2007年11月13日 | 映画(番外編:映画と食べ物・飲み物)
小ネタです。

もう何年も前から、映画に登場する刑事が
張り込み中に食べるものが気になっています。
珍しいものが出てきたら小ネタにしようと狙っていましたが、同じものしか出てきません。
ハリウッド映画では必ず、ドーナツとコーヒー。
ほかにないんかい?とツッコミたくなるぐらい。

張り込み中の食べものが気になっているというのに、
日本では刑事ものといえばテレビドラマが圧倒的に多く、
邦画ではなかなか刑事ものにお目にかかれません。
昔のテレビドラマなら、定番はあんパンと牛乳。
今は牛乳の替わりに缶コーヒーかもしれませんね。

香港/中国作品の『ブレイキング・ニュース』(2004)が
ハリウッドでリメイクされる話が現在出ています。
オリジナルで張り込み中の刑事が食べていたのは
なんとホクホクの焼き芋でした。
リメイクされたら、焼き芋はドーナツに変更されてしまうんでしょうか。

焼き芋の美味しい季節です。

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『フリーダム・ライターズ』

2007年11月09日 | 映画(は行)
『フリーダム・ライターズ』(原題:The Freedom Writers Diary)
監督:リチャード・ラグラヴェネーズ
出演:ヒラリー・スワンク,パトリック・デンプシー,スコット・グレン他

こんな作品を観ると、やはり「実話であること」
人の心をいたぶるものなんだと思ったりして。

ロス暴動の2年後、1994年のロサンゼルス郊外。
低所得者層の子どもが多くを占めるウィルソン公立高校に、
夢と希望に燃える国語科の新米教師エリンが着任する。

生徒のほとんどが銃で脅された経験があり、また、身近な者を殺されている。
ストリートギャングが横行するこの地域では、
生徒たちにとっては毎日が死ぬか生きるかの闘い。
学校内でも人種間の争いが絶えず、まともな授業など困難。
学校側も生徒にお金を使うのは無駄だと判断し、ろくに教材を揃える気もない。

自分の理想とはあまりにかけ離れている現状に
エリンは愕然とするが、本を読むことの素晴らしさ、
自分の言葉でものを書くことの素晴らしさを
なんとか生徒たちに知ってほしいと願う。

エリンは自費で生徒の人数分のノートを購入する。
どんなことでもいいから、毎日書いて。
私は読まないから、好きなことを書いてくれればいい。
でも、読んでほしくなったら、あの戸棚に入れておいて。
授業中は鍵をかけないでおくから。

渋々ノートを受け取ったように見えた生徒たちだったが、
戸棚を開けてエリンは驚く。
そこにはそれぞれの思いが書き綴られたノートの山が。
こうして、生徒たちはエリンに心を開き始めたばかりではなく、
いがみ合っていた同級生同士が手を取り合うようになる。

お嬢様育ちのエリンの言動は、初めのうちは私の気にも障るほど、ズレています。
しかし、その底知れぬパワーに脱帽。
学校をあてにできないと見るや、地区の教育長に直談判。
教材費を工面するため、空いた時間は百貨店の下着売場と
ホテルのフロントのアルバイトを掛け持ち。
そんなエリンについて行けず、夫は離婚を切り出しますが、
それでも泣くだけ泣いたら後には引きません。

基本的には自分の力で乗り切りますが、
彼女の裕福な父親の頼り方は、コネやツテってこんな具合に使うものだと思えます。
余計なことに首を突っ込むなと忠告していた父親も、
いつしか彼女のペースに巻き込まれる様子は、実に自然でいい感じ。

いささかの美化はあるのかもしれません。
でも、こんな教師がいれば、そして、実在したというのは凄いことです。
すべての教師と生徒たちに。

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